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東大野球部員「データアナリスト」でプロへ

2022年1月7日 23:20
東大野球部員「データアナリスト」でプロへ

東京六大学で、48シーズン連続最下位の東大野球部。2018年からの6シーズンは、1つの勝ち星すらありません。その東大野球部から今年、プロ野球の道に進む部員がいます。齋藤周(あまね)さん。入団するのは、2017年から4年連続日本一のソフトバンクホークス。三笠杉彦ゼネラルマネジャーは「即戦力として期待しています」と大絶賛。といっても、齋藤さんは選手ではなく、『データアナリスト』として入団します。

小学生の頃に野球を始めた齋藤さん。東大に入学後、内野手としてプレーしていましたが、肩のけがで裏方に転向。そこで始めたのは、徹底したデータ分析でした。選手の身体能力はもちろん、ピッチング練習では、プロでも使われるラプソードという機材を使用し、データを計測。「ボールがどのぐらい回転しているとか、どういう角度で投げていて、どんな変化をしたとか、細かいデータが取れるので、そういうのを基に選手がパフォーマンスアップしやすくなったかなと思います」

バッティング練習でも打球速度や打球角度を計測。データを元に、練習内容のアドバイスを行います。東大野球部の主軸、大音選手は「打球速度が何キロ以上だと長打が出やすいとデータがあったので。長打を打ってほしいみたいなことを言われていました」と話し、長打を増やすために、打球が最も飛びやすいとされる、打球角度10度から20度を意識した練習を課されました。井手監督も「いろいろな研究をしていて、本当にみんな頼りにしていました」と絶大な信頼を寄せます。

そのデータ分析は試合でも大きな役割を果たしました。実は齋藤さんの学年は、入部以来、1勝もできないまま4年生に。しかし、齋藤さんの進言がチームに初勝利をもたらします。

64連敗で迎えた、去年5月の法政大学戦。相手の先発は、のちにドラフト1位でヤクルトに指名される、山下輝(ひかる)投手。東大は2回、デッドボールでツーアウト1塁。すると齋藤さんのアイデアで東大ベンチが動きます。2回では異例とも言える代走を起用。すると初球から仕掛け、盗塁に成功。ライトへのタイムリーヒットで、貴重な先制点を奪います。

「相手のピッチャーが山下投手というプロに行ったすごい投手だったので、そんなにチャンスはないだろうと。監督とたくさんコミュニケーションをとらせていただいて(ランナーが)出たらすぐに代えようという話は事前にしてありました。準備していたことがうまくハマったのが印象的でした」と当時を振り返った齋藤さん。

東大野球部はその試合で見事勝利を収め、連敗を64でストップ。これが部員全員にとって、念願の初勝利でした。この時見た光景が、齋藤さんの人生を変えました。

「チームメイトも泣いて喜んでいましたし、スタンドのお客さんも『本当におめでとう』と言ってくださった。格上の相手に対して自分たちのできることをやり切って何とか勝ったという経験がすごく自分にとっては大きくて、もう1回野球の世界でチャレンジできるならやってみたいとその時に強く思いました」

実はこの時、すでに別の企業に内定が決まっていた齋藤さん。しかし野球の世界で生きていく決意を固め、内定を辞退。そこから始めたことは、SNSで自らの考えを発信し、アピールすることでした。SNSに投稿した一例として、例えば2塁ランナーをセカンドゴロなどで3塁に進める、進塁打について、「ノーアウト2塁とワンアウト2塁では明確に区別すべきだと思います。ノーアウト2塁からワンアウト3塁では59%から63%と得点確率がわずかに上昇しますが、ワンアウト2塁からツーアウト3塁では40%から27%と得点確率が大幅に減少するからです」

今まで常識とされたことも、データを見ると効率的ではないこともあると、持論を展開。「スワローズ野手陣の打率と、スイートスポット率をグラフにしてみました」と、プロ野球のデータも分析。すると、これらの発信がプロの目にもとまります。

「ある日突然、部の方に電話がかかって来まして「ソフトバンクの者です。もしよかったら入りませんか」というふうにお電話を頂きました。本当にびっくりしたんですけど、自分が5月から目指してきた夢だったので、ぜひやりたいなと思いました」とソフトバンクホークスへの就職を決めたという齋藤さん。

三笠ゼネラルマネジャーは「彼自身東大野球部でアナリストとして、SNSでも発信をしている。知識だけではなく実際の競技の中でトライアンドエラーをしている経験を生かして、選手とコミュニケーションを取って活躍をしてほしいと思っています」と期待を寄せます。

理論派の齋藤さんですが、今シーズンから日本ハムの監督を務める、新庄剛志ビッグボスに注目していると言います。

「それこそ今、新庄監督なんかは、次にどんなことをしてくれるんだろうとみんなワクワクして見ていると思うんですけど、データでもこの選手がどうやって育つんだろう?どんなことを仕掛けてくるんだろう?みたいな、ファンの方がワクワクして見てくださるような野球界を作っていきたいです」