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プーチン大統領のウクライナ侵攻は本気か?

2021年12月30日 20:01

ロシアが今、ウクライナ国境に軍隊を集結させている。2014年のクリミア危機以来、ウクライナ情勢が緊迫している。ウクライナのNATO入りを絶対に認めないとするプーチン大統領。果たして、プーチン大統領は本当にウクライナに侵攻するのか?
(NNNモスクワ支局長 小林忠彦)

■ウクライナ国境にロシア軍が集結

2021年12月3日、アメリカのワシントン・ポスト紙は、アメリカの情報機関の分析として、ロシア軍がウクライナ国境に展開している部隊を増強し、2022年初めにも最大17万5000人規模の侵攻作戦を計画していると伝えた。

実はロシアは2021年4月に一度、10万人規模の兵力をクリミアやウクライナ国境に集結させていた。アメリカ主導でNATO(北大西洋条約機構)軍がヨーロッパ各地で実施している大規模な軍事演習の動きをけん制するためとみられていたが、当時、ショイグ国防相が軍撤収を命令し、ウクライナへの再侵攻の可能性は当面後退したかに思われた。ところが、ロシア軍は実際には、兵力を維持していたのである。侵攻するのであれば、実際にできる準備は整っているという状況だ。

■プーチン大統領、ウクライナのNATO加盟は「レッドライン」

2021年11月18日にロシア外務省幹部らを集めた会議で、プーチン大統領はウクライナのNATO加盟は「レッドライン」、つまり欧米が越えてはならない一線だと発言。冷戦が終結してドイツが統一される際に、「NATOは東方に拡大しない」という約束があったにもかかわらず、欧米諸国はそれをないがしろにしたと主張している。

またプーチン大統領は、ウクライナのロシア国境付近に超音速兵器が配備されれば、モスクワは最短5分で攻撃のリスクにさらされると指摘する。ウクライナは現在、ウクライナ東部で親ロシア派と紛争を抱えていて、この状況下でのNATO加盟は現実的なものとなっていないが、プーチン大統領は12月22日、欧米の「敵対的行動」が続けば、軍事的対抗措置を取ると警告するなど、かつてないほど厳しい姿勢を見せている。

■米露首脳会談で再侵攻への回避は?

緊迫する状況の中で、アメリカとロシア両国は2021年12月7日、急きょオンラインで首脳会談を行った。ウクライナ侵攻を巡る問題が最大の議題となり、バイデン大統領は、ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、アメリカが単独で武力行使して対抗することはないが、その代わり、前例のない厳しい経済制裁を課すと迫った。これに対し、プーチン大統領はNATOが絶対に東方に拡大しない「法的な保証」を要求した。ロシア側の要求などについて、2022年1月にアメリカ側との協議が予定されているが、再侵攻の回避に向け何らかの合意ができるかはこれまでのところ未知数だ。

■中露の接近で、さらなる欧米諸国への圧力強化へ

一方で、プーチン大統領は米露首脳会談後の2021年12月15日に中国の習近平国家主席ともオンラインで会談。欧米諸国の介入を拒絶し、安全保障を巡る利益を守るために断固として立ち向かう必要があるとの見解で一致した。ウクライナ問題を抱えるロシア、台湾問題を抱える中国の利害関係が一致し、中露の結束を内外に誇示することで、中国への圧力を強めているアメリカなど、欧米諸国に対抗する形を築いている。

■プーチン大統領が懸念するのは?

果たして、ロシアの軍事的圧力はNATO軍から自国を守る安全保障だけが理由だろうか。

ここに興味深いデータがある。2000年代の原油価格高騰によって、成長を果たしたロシア経済はここ数年、新型コロナも重なり非常に厳しい状況だ。当局の発表によると、プーチン大統領が再選された2018年を100%とした際の、その後3年間(2019年~2021年)の消費者物価指数の上げ幅は16%で、インフレがかなり進んでいる。

さらに追い打ちをかけるのが、度重なる政策金利の引き上げだ。インフレを抑えるため、ロシア中央銀行は2021年12月17日に、この年7回目となる政策金利を引き上げ、8.5%とした。2017年9月以来の高水準だ。インフレで国民の生活への不満が増大すれば、いずれプーチン政権に不満が向けられる危険性があり、ひいては自身の再選がかかる2024年の大統領選挙にも影響する恐れがある。

2014年当時は、経済が停滞する中で、ウクライナ問題などで対立する欧米諸国との対決姿勢を示し、クリミア危機で「強いロシア」を前面に押し出して国民の不満をかわし、自らの支持につなげた経験があり、国民生活が厳しくなっている現状では、その求心力維持のために対外強硬策に打って出る可能性は否定できない。

■ウクライナへの再侵攻があるなら、北京五輪後か?

では、プーチン大統領が対外強硬策を取るならば、それはいつなのか?プーチン大統領は、先の中露オンライン首脳会議の中で、北京オリンピックの開会式への出席を表明し、「スポーツを政治化させるたくらみには、反対する」と、すでに外交的ボイコットを発表したアメリカをけん制した。オリンピックという平和の祭典の期間中に、軍事行動を起こすことは、今回、開催国が中国であることからも面目をつぶしかねないため、その可能性は低いとみられる。

しかし、ロシアは21世紀に入ってから行った3度の戦闘のうち、2008年の南オセチア紛争、2014年のクリミア併合は、当時開催されたオリンピックの時期と極めて近い時期に発生していることから、いつ起こっても、全くおかしくない状況だ。果たして、プーチン大統領は本気なのか?2022年、ロシアの動きから目が離せない。