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中国&五輪…動く高市氏 不協和音の萌芽

2021年12月18日 19:56
中国&五輪…動く高市氏 不協和音の萌芽

来年の北京五輪を外交的ボイコットするのか?中国の人権状況について国会で非難決議を採択するのか?中国との向き合い方をめぐり響き始めた岸田政権内の「不協和音」。自民党内の対立の萌芽・温度差は政権を揺るがすガバナンスの問題に発展するのか?解説する。(日本テレビ・自民党担当キャップ 前野全範)

■高市政調会長の官邸訪問 北京五輪の外交的ボイコット要求

それは12月14日の夕方のことだった。自民党の高市早苗・政調会長や古屋圭司・政調会長代行、下村博文・前政調会長らが首相官邸の岸田首相の元を連れ立って訪問した。面会の要件は、来年の北京五輪について外交団や政府関係者を派遣しない、いわゆる「外交的ボイコット」を求めるためだった。それぞれ立場はウイグル、チベット、内モンゴル関連の議員連盟会長としてということではあったが、現職の自民党幹部、しかも党四役の1人の高市政調会長が首相官邸に直接乗り込み、政権の「外交政策」に注文を付けるのは珍しい事態だった。

このとき、自民党内では既に外交部会で北京五輪の外交的ボイコットを求める声が相次いでいたほか、保守色が強い議員グループが7日の段階で首相官邸を訪れボイコットをするよう強く申し入れていた。政府よりも党が「強く出る」ことについては、実は珍しくはない。常に相手国や国際社会への外交的な配慮が求められる政府の、本音の部分を党が代弁するパターンだ。政府側からすれば「きちんと党のご意見はうかがいました」という『ガス抜き』的な意味合いもある。ただ、このようなパターンは通常、政府と党の間で役割分担や落としどころが決まっているものだが…今回はどうなのか。

■北京五輪「閣僚派遣せず」方針 外交ボイコットは曖昧戦術か?

焦点となっている「外交的ボイコット」の可否について、複数の外務省幹部はこの問題が表面化する前の先月頃から筆者の取材に対し、「元々、外交ボイコットという言葉に定義はないから…」と何度も呪文のように繰り返していた。

回りくどい言いぶりだが、その心は「外交的ボイコット」を大々的に宣言すると中国の激しい反発を招いてしまうおそれが強いので、この言葉自体は使わない。ただし、閣僚や政府関係者を派遣しないことで結果的にアメリカやイギリスなどとも足並みをそろえる、という対応の仕方。言うなれば外務省的「曖昧戦術」だ。

外務大臣を4年8か月つとめた岸田首相もこうした外務省の戦術に一定の理解を示しているとみられ、ある官邸関係者は「岸田首相は外交は完全に外務省の言いなり。外交的ボイコットの件も外務省の曖昧案が基本路線で、総理はそれに逆らわない」と語る。

■中国非難決議で再び動く高市氏 今度は茂木幹事長に直談判

一方、こうした曖昧戦術に対し、旗幟を鮮明にせよ、というのが、高市氏ら党内の保守系の議員らの立場だ。17日。高市氏は今度は茂木幹事長の元を訪問し、直談判に及んだ。内容は中国による新疆ウイグル自治区や香港などへの人権侵害を非難する国会での決議案だ。

しかし、茂木氏は「外交的ボイコット」をめぐって、世論の関心が高まる中、「内容はよいがタイミングの問題がある」として決議案を自民党として了承することに待ったをかけた。幹事長の了承が得られなかったため決議は今国会での採択は見送られる方向になり、高市氏はカメラの前で「本当に悔しい」と心情を吐露した。つい先月まで外務大臣だった茂木氏は外交情勢を鑑み、首相官邸ともすり合わせた上で、今国会での決議見送りを判断したとみられている。

一方、決議見送りの判断については、安倍元首相が高市氏の側に立ち、周辺に対して「批判が殺到すると思う。官邸に相談してはダメで党としての意思を示すべきだ」などと不快感を示しているとされるほか、保守系議員からは茂木幹事長の判断への反発の声が相次いで出ている。

■自民党内に響く「軋み」の音。不協和音は大きくなるのか?

順調に滑り出し、臨時国会も無難に終えようとしている岸田政権。その一方で足元の党内を中心に「不協和音」が響き始めた。

ある自民党関係者は党内の現状についてこう解説する。

「色々なところでギシギシと変な音が聞こえている。軋む音が聞こえながらも何とかかろうじて前に進んでいる状態だ」

中国への向き合い方という難しい課題をめぐり、見え隠れするようになった対立の萌芽。意思決定過程での足並みの乱れは政権全体のガバナンスをも揺るがす問題に発展していくのか。年末年始も対中外交をめぐり目が離せない展開が続く。