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コロナ禍で深刻化 児童養護施設の職員不足

2021年11月12日 18:58
コロナ禍で深刻化 児童養護施設の職員不足

児童虐待の相談件数が昨年度、20万件を超え、過去最多となったことが厚生労働省のまとめでわかりました。コロナ禍で深刻化する児童養護施設の職員不足。職員の確保と定着を支援するNPO団体が、資金集めのためクラウドファンディングに挑戦し活動を展開しています。

■虐待児童が増える中、深刻化する児童養護施設の職員不足

子どもが親などから虐待を受けたとして、児童相談所が対応した件数は、昨年度、全国で20万件を超え、過去最多となったことが厚生労働省のまとめでわかりました。

現在、保護者から離れ、施設で生活している児童は約3.8万人で、入所理由の大半は虐待です。その中でも入所数が特に多い児童養護施設には、約2歳~18歳までの子どもたちが暮らしています。

しかし、児童養護施設に働く職員の人数が圧倒的に不足していて、中には職員1人で20人ほどの子どもたちを見る時間帯が、大半を占める施設もあります。コロナ禍で離職者が増えた施設もあり、新規採用が追い付かず、職員不足は深刻な状況です。

■日本で唯一、社会的養護施設の職員の確保と定着をサポートするNPO法人「チャイボラ」

「チャイボラ」とは、チャイルド・ボランティアの略で、日本で唯一、社会的養護施設の職員の確保と定着をサポートするNPO法人です。代表を務めるのは大山遥さん(36)です。

塾経営をしていた父の影響から、教育教材の会社(株)ベネッセコーポレーションに就職。ある時、破棄される教材を活用できないかと思い、児童養護施設へ問い合わせをしました。「教材の寄付は当然喜ばれる」と思っていたそうです。

しかし、返ってきたのは「ほしいのはモノではなく人なんだよ」という言葉でした。「日頃から1人で8人以上の子どもたちを見る時間帯がほとんどで、進研ゼミに取り組める状況ではないんだ」と。

大山さんは、同じ子どもに関わる職種にもかかわらず、施設の圧倒的な職員不足の現状を全く知らない自分にがくぜんとしました。一週間後に、施設職員になるため辞表を提出しました。

その後、施設で働く資格を取得するための専門学校に入学しましたが、気付いたのは、施設は人を求めているのに、情報不足のため、実際には興味を持った人が施設とつながることができないという現状。このギャップを埋めるべく、大山さんはクラスメートとともに「チャイボラ」を立ち上げました。

■情報サイト「チャボナビ」で人と施設をつなぐ地道な活動を続ける

NPO法人「チャイボラ」ができて3年。メンバーには施設経験者や里親も加わりました。現在、東京にある60近くの児童養護施設の約9割が、大山さんたちが運営している「チャボナビ」という社会的養護総合情報サイトに登録しています。

社会的養護施設の中には、未だホームページがなく、職員を確保するための情報発信が非常に弱いため、「チャボナビ」は各施設のPRや見学会、お知らせを自由に発信し、求職者に届けています。

また、情報発信・交流のほか、施設見学会や大学などへの出張授業も行っていて、今年1月、コロナ禍で疲弊する職員のために、施設職員専門の相談窓口も開設しました。

「施設で暮らす子どもたちに必要なことは何か」を聞くと、大山さんは「人は、大切にされることで、初めて「自分は大切な存在なのだ」と思えるようになる」といいます。「そんな子どもたち一人ひとりが大切に育てられる環境を作るためには、一にも二にも職員の人材確保と定着が重要だ」と訴えます。

■クラウドファンディングで全国の施設で200人新規採用を目指す

大山さんは、東京よりも地方の施設の職員不足のほうがより深刻になっていると話します。地方では、過疎化による働く人口の減少や地方財政に伴う助成金・補助金格差、地方と大学の接点の少なさなどの理由から職員確保が難しく、結果的に業務過多に陥り、離職者の増加や採用数の減少など悪循環に悩む施設があるということです。

「チャイボラ」はこれまでの経験を活かし、施設の子どもたちに日々寄り添う職員になりたい人を発掘し、目標は「5000人を施設につなげ、200人の新規採用」を目指しているということです。そのための人件費、広報活動費、旅費、交通費など3000万円と見込まれ、そのうち1000万をクラウドファンディングで(12月25日まで)資金集めしようとしています。

大山さんは、「子どもたち一人ひとりが大切に育てられる世の中をつくっていこう」と呼びかけています。

クラウドファンディング
https://readyfor.jp/projects/chaibora
、Twitter:@Chaibora_npo

写真提供:NPO法人チャイボラ