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デジタル部活にも“インターハイ”を!

2021年10月30日 15:39
デジタル部活にも“インターハイ”を!

あらゆる活動がデジタルとつながりつつある中、中高生のデジタル関連の部活を盛り上げよう!という議論が、政府の検討会で始まった。「甲子園」「インターハイ」のような競技や発表の場も作り、企業や地域が支援しやすい環境を目指す。

■部活からスティーブ・ジョブズを

東京都内にある芝浦工業大学附属中学高等学校の電子技術研究部は、プログラミングやロボット・ドローンの制御、ゲーム制作などに取り組む「デジタル部活」だ。中学高校生合わせてメンバーは約160人。

それぞれのアイデアで取り組んだプロジェクトの成果を後輩につなげたり、小学生向けのワークショップで披露する。去年は、AI・ICTの卓越した人材を発掘する「全国高校AIアスリート選手権」で、男子生徒2人、女子生徒1人のチームが全国優勝に輝いた。

卒業生はほぼ全員エンジニアやプログラマーになったり、起業して活躍している。「将来のスティーブ・ジョブズ(アップル社の共同創業者)を育てたい」と、顧問の岩田亮教諭は話す。

しかし、こんなに活発な「デジタル部活」は多くは見られない。パソコン部、プログラミング部、ロボット部、AI部といった名前のデジタル関連部活があるのは、全国の中学校の13・8%、高校で33・1%。(H29年度スポーツ庁調査)

デジタル技術に高い関心と能力を持つ子どもが集まっても、顧問の教師に専門知識がない、などの悩みもあるという。

■デジタル人材不足に、学校は企業は

日本のデジタル人材は、2030年には45万人足りなくなると経産省は試算する。産業界でも教育界でも危機感が広がっている。来年度からは高校でプログラミング教育が必修になるが、そうした授業で触れたデジタルへの関心を、スポーツや芸術のように身近な部活で発展させられれば、産業界はもちろんあらゆる分野で将来活躍する素地(そじ)を、仲間と楽しく磨くことができる。

ただ、デジタル部活を広げる上で課題の一つは、学校の現場の働き方だ。以前からある部活でも、顧問になる教員の負担の重さが問題になり、指導を専門の外部指導員や地域の支援にゆだねる方向が出てきている。

こんな中で新たな部活を立ち上げるためには、専門性がなくても指導できるオンラインの支援ツールなどを整備する必要がある。生徒同士で学び合える場にし、少子化の中では、学校単位でない活動も視野に入る。

デジタル人材の不足に危機感を持つ企業側には、デジタル部活を支援する意欲も見られる。「IT関連部活への支援に関する」経産省の調査(2020年)では、回答した企業のおよそ半分が、支援を行いたいと意欲を示している。

CSRとして初心者向けのプログラミング教室を開いたり、大学生や高等専門学校生へのインターンなどから採用につなげている例もある。必要なのはマッチングの組織で、調査では約6割が「政府に、学校と産業界をつなぐしくみを作ってもらいたい」と回答している。

■デジタル部活の「甲子園」を

経産省の検討会の鹿野利春座長は「アウトプットの場を作り、それに向かう活動を支援することも大事」と話す。高い能力を持つ高校生向けの大会はあっても、広く知られているとはいえない。

発表の場の情報を整理するとともに、スポーツでいえば「甲子園」や「インターハイ」、文化部の「総文祭(=全国高等学校総合文化祭)」のような形で、身近で公的に認定された発表の場が求められている。

■デジタルに来たれ!女子中高生

デジタルの最前線に女性が少ないことも日本の大きな課題だ。「男女格差指数」がG7で最下位、そもそも「女性の活躍」で遅れる日本は、デジタル人材で女性の比率が目立って少ない。小学生のうちはプログラミング教室を楽しんでいる女子も、中学、高校に進むと急速に参加が減ってしまう。

デジタルは、社会・生活のあらゆる課題や、アート・デザインと結びついていて、この先の社会のベースになるといえる。部活や大会などの進め方を含め、女子生徒を惹きつけるあらゆる工夫が必要だ。

経産省の検討会は、こうしたさまざまな課題について議論を重ね、来年3月をめどに、官民連携のデジタル部活などの支援策をまとめる予定だ。

(写真提供:芝浦工大附属中高 電子技術研究部)