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大野将平の“怖さ”羽賀龍之介が独自解説

2021年7月27日 18:51

東京五輪の柔道男子73キロ級で五輪連覇を達成した大野将平選手。その大野選手と共に切磋琢磨(せっさたくま)してきた会社の同期であり、リオ五輪男子100キロ級銅メダリストの羽賀龍之介選手を独自取材しました。柔道への考え方・向き合い方が違う次元にいるという大野選手、「相手に勝とうと思っていない」からこそ生まれる強さ、その裏にある“怖さ”や“不動心”とは。

――大野選手の9分26秒の激闘を振り返って

「個人的にはもう少し早い段階で勝負が決まって、大野選手の圧勝なのかなと予想はしていました。五輪という舞台、大野選手にとっては2連覇のかかる舞台で、全世界がこれだけ大野をストップしに来ている状態の中で相手も、ものすごく研究してきて、最後は苦しんだなというところでした。ですが、ああいう状況でも顔色ひとつ変えずに、最後は投げて勝負を決めるという。改めて強いという言葉だけでは片付けられないような“怖さ”というのは感じました」

■震え上がる殺気のような“怖さ”、そして「相手に勝とうと思っていない」

――怖さとは

「勝負師としての怖さ、相手が震え上がってしまうような殺気みたいなもの。堂々とした姿や姿勢、目つきとかも、もしかしたらひとつの要素かもしれないです。他の選手が近づいていけないような、明らかに差があるような雰囲気を持っている男ですよね。アスリートというよりも彼は本当に“柔道家”だと思います」

――この舞台で表情を変えずに堂々としているのはすごいこと?

「意識して表情に出さないことはできると思いますが、人間なので多少なりともツラい局面になったら雰囲気は出ると思います。それも出ないような“不動心”というか、常に大野選手であり続けて試合を進められるというのは、技術以上の強さを感じました」

――「全く動じない」というのはなぜできる?

「準備の段階で大野選手と五輪の出発の日まで一緒に過ごさせてもらって、稽古も見させてもらっていました。大野選手は常に最悪の状況というか自分の嫌なことを克服していくツラい練習をするんですよね。本来は自分のやりたいようなことをやっていたりとか、自分の好きな形で投げる稽古などの調整をして、気持ちよく試合を迎えたいと思うはずです。ただ、大野選手に関しては自分の弱点をとにかく詰めていって自分に厳しい、しんどい練習で準備をしていくんですよ。そういうものが最後は助けてくれたというか、ああいう準備をすると最終的に勝機を手にするというのを見させてもらいました」

――どうしてそこまで自分に厳しくできる?

「大野選手にしか感じられない境地ではあるのですが、おそらく相手に勝とうということを思っていないんですよ。自分のやってきたことを体現したいとか、自分が今まで準備してきたことを今日は出せるかなというところで試合に臨んでいると思うんですよね。難しい表現ではあるんですけど、相手と組みながらも常に自分と話して自分がどうあるべきかを考えた上で技を仕掛けていると思うので、違う段階の戦いをしている選手だなと感じます」

――大野選手は何が秀でている?

「大野選手は考え方、柔道に対する向き合い方が他の選手とはそもそもが違うような次元にいる選手。じゃないと、これだけ世界の選手がストップをかけにくる中で前回大会からトップに居続けていることはなかなかできることではないと思います」

――2連覇のすごさ

「試合後のコメントにもあったように、彼にしかわからないプレッシャーの中で『自分を倒す』ということを言っていましたけど、そういう気持ちでずっと歩んできたことだと思うので、2連覇というのはものすごい快挙だと思います」

――どんな声をかけてあげたい?

「優勝してもしばらくは連絡しないよって言っていた。忙しいと思うので大野選手は。『落ち着いたら連絡ちょうだいよ』ということを言っていたので。『お疲れさま』と声をかけるのと、大野選手が実際に試合中にどういうことを感じていたのかを聞きたいです。相手がこうくるからこうしなきゃというのはなかったと思うんですよ。自分とずっと対話していたと思うので、そういうところの彼の心境というのは同じ現役選手として興味がありますし、自分に生かしたいというところはありますよね」

■大切にしているメリハリ、新種目「混合団体」への期待

――羽賀選手だからこそ知る大野選手の素顔は?

「柔道から離れれば何事にも楽しめるし、いかに『柔道から離れられる時間を作れるか』みたいなことを話しています。でもやっぱり彼は畳の上でこれだけやれる男なので、改めて大野選手のすごさ、『怖さ』を見せられたかなと思います」

――今後の大野選手への注目は?

「大野選手は31日からの混合団体でも起用されていく選手だと思います。団体戦までというところはよく言っていた部分ではあったので。しっかり回復させることを考えて団体戦に向けて彼なりの準備をやっていくんじゃないかと思います。複数個メダルを取れることにすごく魅力を感じていましたから。今回の団体戦の戦いぶりを注目したいですね」

(左)写真:ロイター/アフロ (右)写真:アフロスポーツ