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闘将・井村雅代が明かすエース乾の存在

2021年7月24日 15:11

2016年のリオ五輪で2つの銅メダルを獲得したアーティスティックスイミング日本代表。2008年の北京五輪から遠ざかっていたメダル獲得に導いたのは闘将、井村雅代監督でした。東京五輪でも日本を率いる井村監督がソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さんと対談し、「マーメイドジャパン」の演技の見どころを語ってくれました。

■注目はチーム唯一の五輪出場経験者でキャプテンの乾友紀子選手(30)

東京五輪の注目は3大会連続出場の乾選手。井村監督はキャプテンを担う乾選手に頼もしさを感じたエピソードを明かしてくれました。

小谷
「海外選手を間近に見て意識したり、奮い立たせる機会がない中、乾選手は国内に敵がいないじゃないですか。彼女の一人旅になっている難しさがありますよね」

井村
「乾選手は自分がなりたい選手像、演技像はしっかり持っています。やっぱり人間ですから間近に敵がいない、切磋琢磨する相手が今いないのでテンションは落ちます。でも、落ちた時に、『そうじゃない。あなたの目標はここでしょう?テンションを下げている暇はないでしょう?』と言って、ものすごく繊細に彼女を見るようにしています。でも彼女はこういうパフォーマンスをしたいと、夢をしっかり持っているのが強さですね。偉いなと思ったのは、『OneHeartProject』というのを立ち上げて映像を作りましたよね。乾選手の発案で、『私たちには東京五輪という全然揺るがない目標がある。だけど、全国の選手たちは目標にしていた試合がなくなった。2020年の映像を残してあげたい。そのために全国の人たちに参加してもらって1つのルーティンを泳ぎたい』と言ったんです。それを聞いた時に、この子は日本のアーティスティックスイミング全員のリーダーになったんだと思ったんですね。日本中の選手たちの1つの大切な映像になったと思うんですよね。そんなことに気がつく、やってみようと思う。ただ技術的に上手なだけでなく、きっと乾選手が泳ぐ演技にはその心が入っていると思うんです。それが私は非常に嬉しかったですね」

小谷
「素敵。それだけでも井村先生、目尻が孫を見るおばあちゃんのように・・」
井村
「そんなに優しくないな。おばあちゃんになったら指導できないからせめて母親ぐらいでやめておきますね。おばあちゃんになったら可愛い一方じゃないですか。それはアカン」

■私生活を見てパートナーに抜擢された吉田萌選手との「珍しいデュエット」

不動のエース乾選手とデュエットを組むのが、26歳の吉田萌選手。井村監督は私生活を見て吉田選手をパートナーに抜擢したと言います。

小谷
「その乾選手と五輪の舞台でデュエットを組む吉田選手、また新しい素晴らしいデュエットだなと思っているんですが、どうご覧になっていますか?」

井村
「乾選手のいいパートナーだと思いますよ」
小谷
「すごくガッツと言うか、溢れるリズム感や、乾選手に合わせるというよりも、個性をぶつけていい化学反応が出ているような、若い選手なのに全然遠慮してないなという意味で」

井村
「それはありますね。デュエットはやっぱりどちらかが音感が良く、(どちらかが)そうじゃないというのが出てくるんですね。でもこのデュエットは音乗りがいいです。珍しいデュエットです」

小谷
「井村先生が吉田選手を選んだ?」
井村
「選びました。この子だろうなと」
小谷
「ポイントは何でしょうか?」
井村
「吉田選手は明るいですね。彼女の私生活を見ていて、この子だったらいけるなとか」
小谷
「私生活・・・。ひぃ?」

井村
「実可ちゃんも結構見られていたんですよ。私生活を見ていたら伸びるか、伸びないかがわかります」
小谷
「吉田選手の私生活のどういうところがお眼鏡にかなったんでしょうか?」

井村
「何か1つのことをするにしても面白おかしくするとか、すぐに興味を持つとかね。彼女の姿勢を見ていた時、この子だったら大きな課題を与えても怖じ気づくのではなくて、乗ってきてくれるんだろうなと思ったんです」

▼本番では「思いを込めて泳いでもらいたい」

選手が本番で力を発揮するため、井村監督のこだわりは音楽にも表れています。

小谷
「リオ五輪の時もですかね。選手の生の声が入った演出をされている時があったかと思うんです。東京の時はありますか?」

井村
「もちろん、彼女たちの声を入れようと思っています」

小谷
「曲に入れる意図、先生がそこにかける思いは何でしょう?」

井村
「自分の声が入った曲で泳いだ経験がないと思うんです。この曲で勝負をかけたい、思いっきりこの曲に乗って泳ぎ切りたいとか、いろいろな思いで録音すると思うんですね。曲に思いを込めて泳いでもらいたい。そのためにやっています」

小谷
「素敵。いろいろな工夫や思いを込めて作っていらっしゃる」

■日本チームのテーマは“祭り”

日本チームの演技テーマは“祭り”。コロナ禍で変化した世界と共にテーマに隠された思いも変わったと言います。

小谷
「本番の選手たちの演技、どんなものをイメージされますか?」

井村
「チームフリーのテーマは“祭り”なんです。日本開催の五輪を楽しもう、祭りの素晴らしさをみんなに味わってもらおうと、このテーマに決めてスタートしたんですけど、コロナで思いは変わってきて。この素敵な文化、祭りという伝統をみんなでやれる日を楽しみにしましょう、必ず戻ってこられるから。そういう気持ちを込めて、メッセージを伝えたいと私は思っています」

小谷
「希望につながりますね」
井村
「そうですね。もう希望だと思います」

【スケジュール】
8月2日 デュエット予選フリールーティン
8月3日 デュエットテクニカルルーティン
8月4日 デュエット決勝フリールーティン
8月6日 チームテクニカルルーティン
8月7日 チームフリールーティン

写真:日刊スポーツ/アフロ