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「陛下が懸念と拝察」発言で波紋…真意は

2021年6月25日 19:28
「陛下が懸念と拝察」発言で波紋…真意は

東京オリンピックまで1か月を切る中、24日、宮内庁の西村泰彦長官が、天皇陛下の思いを「拝察する」と発言して、波紋を呼んでいます。発言の真意は何なのか、どのような影響があり得るのか、詳しく説明します。

    ◇◇◇

今回、西村長官は「天皇陛下は、現下の新型コロナウイルスの感染状況を大変心配されている。国民の間に不安の声がある中でオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか懸念されていると拝察する」と発言しました。

五輪の開催について、陛下のお考えや思いを宮内庁長官が言及するのは初めてのことで、極めて異例なことです。この発言について、加藤官房長官や菅総理、丸川五輪担当大臣も「長官ご自身の考え」と述べて、あくまでも西村長官自身の考えであるとの認識を示しました。

宮内庁長官は「私の拝察」という言い方をしていますが、政府関係者は、「陛下の意を汲まずに、宮内庁長官があんなことを言うわけはない」との見方を示しています。

■記者と西村長官 実際にはどのようなやりとり?

実際に、今回、会見の中での記者と西村長官とのやりとりを、詳しく見てみます。

最初に、記者が「東京オリンピックまであと1か月だが、陛下の開会式出席や競技御覧は、どのように調整されているか」という質問をしたところ、西村長官は「関係機関と調整中です」と述べました。

そして、「ただ、オリンピックをめぐる情勢と致しまして」と前置きをした上で、「天皇陛下は、感染状況を大変心配されておられます」と発言をしました。

ここで、「国民の間に不安の声がある中で、オリンピック・パラリンピックの開催が、感染拡大につながらないか懸念されている。ご心配であると拝察致します」と、突然、陛下の思いを述べました。

そこで記者は「陛下はオリンピック・パラリンピックが、感染拡大のきっかけになることを懸念されているということか」と確認します。すると長官は「それは私の拝察です。日々接して、陛下とお話ししている中で、私が肌感覚でそう感じていると受け取っていただければ」と、述べました。

さらに記者が、「仮に拝察としても、長官の発言には影響がある。このまま発信していいか」と確認したところ、西村長官は、「はい、認識しています。感染防止の対策を関係機関に徹底してもらいたい、ということとセットでとらえてほしい」と応じました。。

そしてもう一度、記者が確認で「これは陛下のお気持ちと受け取って間違いないか」と質問すると、西村長官は「それは私の受け取り方ですから。私は、陛下がそのようにお考えではないかと思っています。ただ陛下から直接、そういうお言葉を聞いたことはありません。誤解のないようにお願いします」と答えました。

■海外メディアも反応「予想外の介入」と報道も

この発言には、海外メディアも敏感に反応しています。アメリカのワシントンポストは「東京オリンピックは重要な『不信任』を突きつけられた」との見出しを掲げています。またイギリスのガーディアンも「天皇が予想外の介入をした」と報じました。

そして中国の環球時報は「異例のコメント!」と題して、「天皇がオリパラ開催による感染拡大の可能性を懸念」と伝え、韓国の朝鮮日報も「天皇が宮内庁を通じ国内の懸案に意見。極めて異例だ」などと論評しています。

そもそも天皇陛下は、東京オリンピック・パラリンピックの名誉総裁をつとめていて、開会式で開会宣言することで調整されています。陛下は常々、新型コロナの感染拡大を心配されていた中での、今回の「拝察」発言でした。

宮内庁長官が陛下の思いやお考えを「拝察」することは、非常によくあることだということです。日本テレビ・宮内庁担当の笛吹雅子解説委員によると、宮内庁の慣習として、長官や側近の会見などで陛下の言葉を直接引用することはまれで、基本は全て「拝察」だということです。

これまでも、例えばコロナの感染状況について、長官が「今こそ心をひとつにして、この危機を乗り越えていかなければならないと拝察しますし…」と、陛下の思いを代弁するような形で「拝察」という言葉をたびたび使っています。

今回の発言も、笛吹解説委員によると「長官は陛下のお気持ちをよくわかった上で、『拝察』という表現を使って発言していることは間違いないと思う」ということです。今回の発言も、笛吹解説委員によると「長官は陛下のお気持ちをよくわかった上で、『拝察』という表現を使って発言していることは間違いないと思う」ということです。

その上で、「五輪に関して様々な意見ある中、陛下も宮内庁も影響与える発言は控えられてきた。今回の発言に驚いている」と話していて、「“陛下が感染状況を心配している”という、強いメッセージだと受け取った」ということです。

■「拝察」発言…なぜこのタイミング

では、なぜこのタイミングでの発言だったのでしょうか。

IOCや東京都などによる5者のトップ協議が今週21日に行われ、観客数のルールなどについて一定の方向性が決まりました。それを受けて翌日には、菅首相が陛下と直接、面会しました。感染対策などについて説明を行ったものとみられます。

笛吹解説委員によると、その直後の定例会見での発言という点からみて、「五輪の方向性が見えたタイミングなら、開催の是非などに直接の影響を与えず、陛下の思いを国民に伝えることができる、との思いもあったのでは」ということです。

さらに、「長官会見は2週間に1回なので、今回を逃すと開催のギリギリ直前になってしまうため、今回の発言だったのでは」という見立てです。

政界の反応はどのようなものでしょうか。今回の発言について、ある与党幹部は「踏み込みすぎだ。この件は政治に任せてくれないと。もしこれで中止となったら、天皇陛下が政治に介入したことに」と指摘しています。ある自民党幹部は、「これでなおさら、オリンピックをやめるわけにはいかなくなった。感染対策に気をつけて、万全の状態で開催するしかない」と話しています。

一方で、ある政府関係者は「無観客開催にせざるを得ないかも。陛下にお出ましになってもらえないと、五輪の開会宣言ができなくなる。何としても、陛下のご懸念に応えないと」と、コメントしています。

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これまでも陛下は、国民の安全や、感染対策によって影響を受けている飲食店などの苦境に対して、心を寄せて、折に触れて思いを語られてきました。オリンピック開催の是非や観客数などについての議論とは別に、現在の感染状況を心から心配されている陛下の強い思いを、大会主催者らはしっかり受け止めてほしいと思います。

(2021年6月25日午後4時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)