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会話の中に潜む「マイクロアグレッション」

2021年6月12日 16:29
会話の中に潜む「マイクロアグレッション」

多様な国や文化にルーツを持つ「ミックスルーツ」の人に投げかけられる言葉や表現には、悪気がなくても、ちょっとした偏見が隠れていることがある。無自覚で小さな“傷つける行動”は、どうしたら避けられるのか。アップデートの方法を探っていきたい。

■「マイクロアグレッション」の原因は無意識の偏見

これまで「ハーフ」や「ダブル」などとも呼ばれてきた、複数の国や文化にルーツを持つ「ミックスルーツ」の人たち。そんな彼らとの会話では、例えば、「日本語、上手ですね!」といった褒め言葉であっても、相手に違和感を抱かせてしまう場合がある。外見にかかわらず、日本で生まれ育ち、日本語を母語とするミックスルーツの人もいるからだ。

「実は、こういった発言の裏側には、ちょっとした偏見が入っている可能性があるかもしれません。これは以前からマイクロアグレッション(小さな攻撃)と呼ばれるものです」と説明するのは、自身もミックスルーツの当事者であり、日本に22年在住している作家・コラムニストのサンドラ・ヘフェリンさんだ。

「マイクロアグレッション」とは、「マイクロ=小さな」と「アグレッション=攻撃性」から成る言葉だ。言った本人に相手を傷つける意図がなかったとしても、そして一つひとつの発言がささいなものであったとしても、言われた側が心に傷を負ってしまうような、無意識の偏見を含んだ言葉や態度を指す。

「日本語、上手ですね!」のように、何気ない言葉の中に無意識の偏見が内在していないか、一度自身で振り返ってみてはいかがだろうか。これは相手がミックスルーツの人だけでなく、LGBTQや在日外国人などでも同じ話だといえる。


■マイクロアグレッションと感じるかどうか、個人差も

さらにいえば、幅広く一般的な日常会話の中にもマイクロアグレッションはある。まず相手の立場になって「もしかしたらこれは、自分の無意識の思い込みや偏見から来る言葉では?」と意識し、配慮していくことも大切だ。

例えば「女性ならではの視点で意見を聞かせてください」「関西人なんだから面白いこと言ってよ」という表現は、日常でもよく耳にするかもしれない。これも特に悪気がなく、何気なく発せられる会話かもしれないが、やはり「女性とはこういうもの」「関西人とはこういうもの」といった前提で語られている部分があるはずだ。

マイクロアグレッションに関しては、さらに注意したい点がある。受け手の感じ方も、やはり人それぞれだということだ。

タレント・俳優で、母が日本、父がアメリカにルーツを持つ副島淳さんは「僕の感じるハードルと、同じ境遇の方が感じるハードルも違いますし、本当に根が深くて難しい問題だと思います。言葉の裏側ばかり気になり始めると、もう話すことすらできなくなるくらい、追い込まれてしまいそうな気もします」と本音を語る。

実際に「この言葉はマイクロアグレッションだからダメ」「この表現はもう二度と使ってはいけません」と禁止することばかりを考え出すと、言葉狩りのようになってしまう危険性も。あくまで相手へ思いやりがあることを前提にしつつも、言葉や表現のアップデートには、バランス感覚が必要かもしれない。


■自分自身で気づくことがアップデートの第一歩に

自分の何気ないひと言が、マイクロアグレッションを生んでしまうかもしれない。そんな危機感について、お笑い芸人・NON STYLEの石田明さんは、こう語る。

「言う側と言われる側で、こんなにも感覚が違うのか! と大きな気づきになりました。僕は職業柄、お笑いで相方をいじっていますが、やはり捉え方や受け取り方で、まったく違う感覚を持っている人もいるわけです。そういうことを、ちゃんと認識できてよかったです」

また、自らの感覚がアップデートされた体験として、副島さんはあるエピソードを教えてくれた。

「以前別の番組で、『自分が嫌だったコンプレックスを個性という武器に変えて、テレビに出演できるようになった』と話しました。そしたら千原ジュニアさんから、『もう副島くんみたいな人は日本中に大勢いるから、個性とは思わなくなってきた』と言われたんです。ハッとしました」

副島さんの話のように、いつか「ミックスルーツ」であることが当たり前で、個性とも思われない日が来るかもしれない。多様なルーツの人たちが当たり前にさまざまな言語を話し、「日本語、上手ですね」が普通過ぎて話題にすらならなくなったときが、社会が本当にアップデートされたといえるのだろう。


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この記事は、2021年2月26日に配信された「Update the world #2 ミックスルーツ~『日本語、上手ですね」をアップデート~』をもとに制作しました。

■「Update the world」とは

日本テレビ「news zero」が取り組むオンライン配信番組。SDGsを羅針盤に、社会の価値観をアップデートするキッカケを、みなさんとともに考えていきます。