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闘う市民「独裁なくす最後の世代と決めた」

2021年5月29日 11:07
闘う市民「独裁なくす最後の世代と決めた」

ミャンマー軍は、抗議活動を続ける著名人やメディア関係者を相次いで指名手配し、国営メディアで名前や顔写真、居住地などを公表している。その対象は市民にも広がり、情報をさらされた人たちの多くは、住む家を追われ、逃亡生活を強いられている。ある日突然、「犯罪者」になった人たち。いま何を思い、どう受け止めているのか、その声に耳を傾けた。(NNNバンコク支局長 杉道生)

■「次世代が暗闇の中で生きることがないように」

軍当局が賞金1000万チャット(約70万円)を懸けて行方を追う男性がいる。テイザー・サン氏(33)。ミャンマー第2の都市マンダレーで、抗議デモの先頭に立ってきた男性だ。拡声器を持ち「独裁はいらない」と叫ぶ姿は、多くのメディアで報じられ、いわば“デモの顔”となっていた。

指名手配から約1週間後の4月26日、テイザー・サン氏が潜伏先からリモートインタビューに応じた。「恐怖はまったくありません」。テイザー・サン氏はあっさりと言った。潜伏先を変えるとの理由で、一度インタビューの日程が延期されていただけに、安否を心配していた私たちは驚いた。

「私たちは独裁主義を無くす最後の世代だと決めています。ミャンマーにもうクーデターが起きないようにします。逮捕される可能性もあり、デモ中に銃撃される可能性もあります。それでも、恐れて後ろに下がることはありません」。テイザー・サン氏は言い切った。

抗議デモを徹底して弾圧する軍。デモの主導者に対する取り締まりは特に残忍だ。中部モンユワで4月15日、デモ隊のリーダー格の男性がバイクで抗議活動に向かっていたところ、治安当局の車にはねられた。衝突の瞬間を捉えた映像には、車が男性のバイクに向けて突然ハンドルを切る様子が映っていた。明らかに男性を狙った行為だった。

その後に公開された写真では、男性の顔が変形するほど腫れ上がっていた。治安当局から暴行を受けたとみられている。容赦ない弾圧を通じて、軍は恐怖による支配を強めている。

テイザー・サン氏は、モンユワでリーダー格の男性が拘束されたことについて「とても残念だ」と話したが、その決意は揺らがない。

「私たちの革命は、続けなければならない革命です。いろいろな形で独裁主義に反対し続けます。つまり、一生恐れて生きることがないように、次の世代が暗闇の中で生きることがないように、いま闘っているのです」

テイザー・サン氏は、「正しくないことを受け入れられないのが元々の性格」と話す。治安当局に追われる身でありながら、インタビュー中に何度も見せた笑顔が印象に残った。

■医療従事者の苦悩

ミャンマーではクーデターから4か月を迎えるいまも、市民らが職場を放棄する「不服従運動」を続けている。これに対して軍は、運動に参加する人を相次いで逮捕し、市民らに職場に戻るよう圧力をかけている。

運動の中心となっている公立病院の医師が、リモートインタビューに応じた。53歳の医師は現在、妻子と離れて身を潜めている。医師は、ある地域の新型コロナウイルス治療センターで働いていた。医療従者全員が一丸となってコロナに立ち向かっていたという。「自宅に帰る暇もなく、疲れていた」と振り返ったが、その顔からは充実した日々だったことがうかがえる。

しかし、クーデターが発生して医薬品やワクチンが没収され、「国のコロナ治療の体制が突然停止した」という。クーデターに抗議するため不服従運動に参加した医師だが、当初は個人のクリニックなどでデモの負傷者の治療を行っていたと話す。

しかし、同僚の医師らが逮捕される中で身の危険を感じ、いまは妻子と離れて身を潜めているという。

「私たちは反逆者ではありません。泥棒をしたわけでも、誰かを殺したわけでもありません。しかし、いまは身を潜めて生きていくしかありません。もし、逃亡者になりたくなければ、(軍に)奴隷としてひざまずくしかないのです。これはすべてのプロフェッショナルに対する侮辱です」

不服従運動は、武器を持たない市民が軍に抵抗する数少ない手段だ。収入の手段が絶たれ、自らの首を絞める行為だが、市民の多くがこの運動を支持しているとされる。

ただ、医師は苦悩ものぞかせる。

「病院での治療が必要な人が、治療を受けられずに死んでしまうことがないように、医師は仕事に戻るべきです。」

■不条理に対する必死の抵抗

今回、取材に応じてくれた2人に、国際社会に求めることを聞いた。賞金を懸けられ指名手配されたテイザー・サン氏は、「民主派勢力がつくった国民統一政府を、日本政府に認めてほしい」と話した。

一方、家族と離れて逃亡生活を続ける医師は、「国際社会は制裁以上の断固とした行動をとってほしい」と訴えた。

武力によって政権を奪うクーデターという不条理に対して、市民らはいまも必死に抵抗し、声を上げ続けている。