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感染拡大インド“コロナ孤児”直面する危機

2021年5月19日 22:06
感染拡大インド“コロナ孤児”直面する危機

新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大が続くインド。5月は、1日あたりの感染者数が40万人を超える日もあり、世界の感染拡大の中心地となっています。両親を失い孤児になる子供が増え、人身売買や虐待のリスクにさらされているといいます。

ユニセフ(国連児童基金)・インド事務所の木村泰政副代表に、インドの子供たちを取り巻く危機的な状況について聞きました。
(バンコク支局・森鮎子)

■人身売買に虐待 “コロナ孤児”の危機

インドは今、猛烈な感染拡大の第2波に直面しています。2020年の第1波の4倍の規模で、感染力が非常に強く広がるスピードも速くなっています。過去24時間に、平均して1秒に3人以上が新たに感染し、1分に3人近くが命を失っています。

感染者の増加にともない、子供たちを取り巻く環境は厳しさを増しています。親を新型コロナウイルスで失う“コロナ孤児”のケースが増えているのです。孤児たちは貧困に陥っているほか、人身売買や虐待に巻き込まれやすい状態に置かれています。

SNS上では、人身売買や児童労働を目的とした違法な養子縁組を求める掲載が数多く見られ、危惧しています。また、親の失業などを背景に、家庭内暴力や虐待、児童婚、児童労働といったケースも増加しています。

ユニセフはNGOや関係省庁と協力しながら、ガイドラインの作成や孤児の親族の追跡を行っています。また、「チャイルドヘルプライン」を通じた支援にも力を入れています。これは助けが必要な子供のための緊急電話サービスで、平均で1日約2500件もの問い合わせがあります。

■学校閉鎖 2億人超の子供が教育機会を失う

現在、インド全土の学校150万校が休校し、2億4700万人の子供が教育の機会を失っています。子供たちがリモート教育を受けられるように政府と協力しながら対策を進めていますが、デジタル格差の壁があります。インドでは家庭内に男子と女子がいる場合、デジタル機器は男子が優先され、その結果、女子がリモート教育を受ける機会が減っています。

ロックダウン中は、生徒は1日平均3~4時間勉強しているという調査結果が出ています。しかし、全体の60%の生徒しか遠隔学習のリソースを使用していません。そのうちの80%は、「学校で勉強するよりも学習量が減っている」もしくは「著しく減っている」と報告されています。

学習レベルの低下は、子どもの発達や学習に長期的な影響を及ぼすので、重要な課題です。最も懸念しているのは、女子生徒の中退の増加です。学校に通わない時間が長いほど、学校に戻る可能性が低くなり、早期婚や児童婚、児童労働のリスクが高まると予想しています。

■医師も助産師もいない出産 女性への深刻な影響

インドでは年間2400万人の子供が生まれていますが、新型ウイルスの拡大で医療がひっ迫し、妊娠中の女性や乳幼児が、助産師や医師のサポートを受けられずに苦しんでいるという報告があります。

インドの農村部には「母子保健センター」が全国で130万か所ありますが、ロックダウンのため多くの州で閉鎖されています。新生児や母親の産後ケア、6歳以下の子供への予防接種、3~5歳の子供を対象とした修学前教育に大きな影響が出ています。ユニセフとしては、訓練を受けた助産師のもとでの出産・産後ケア、予防接種、栄養支援などを継続して行っています。

■手洗いの習慣が無い 農村部の意識改革へ

新規感染の傾向が都市部から農村部に移ってきているので、その地域の実情に合わせて様々なリスクについて情報交換を進めていくことが必要です。

農村部では病院の数が少ないことに加え、隔離療養する環境が整っていないことを危惧しています。また、手洗いの習慣がない地域もあり、衛生観念の意識改革も急務です。東部のビハール州では46%の家庭で石けんがなく、42%の家庭が手洗いの習慣がなく、34%の家庭が手洗いするために水を汲みに行かなければならないという状況があります。

コミュニティー内で、ソーシャルディスタンスや手洗いの習慣、マスク着用の重要性などを伝えていく必要があります。

■ユニセフ事務所も人手不足 スタッフにも感染拡大

ユニセフ・インド事務所のスタッフにも感染者が数多く出て、亡くなった方もいます。軽症でも職場復帰には少なくとも4週間かかり、後遺症が残る人もいます。感染した家族の看護をするスタッフもいますし、家族を亡くしたスタッフのメンタルケアも必要です。

こうした事情で、私たち自身も人手不足で大変厳しい状況にあります。ユニセフの強みの1つは、農村部などのコミュニティーレベルでの実地調査や支援活動です。通常は貧困家庭を訪問するなどして現地の状況を細かく調査しますが、この感染拡大のさなか、スタッフを最前線に立たせて良いのかという葛藤があります。

現在は、電話での聞き取り調査などを行っていますが、リアルタイムで貧困層の子供たちや女性の健康状態をモニタリングするのは難しい状況です。インド政府からは医療機器の調達など様々な要望が来ており、ユニセフの組織全体でインドを支えていく体制をとっています。

■世界的パンデミックに打ち勝つために

インドはワクチン製造の世界的な拠点です。インドにおけるワクチンの需要の急増は、低所得国に配布を予定していた何百万のワクチンを輸出できなくなることを意味しています。供給に大きなギャップが生じて、さらなる感染拡大や変異ウイルスのリスクが高まると言えるでしょう。

新型コロナウイルスは急速に広がり続けていて、さらに多くの支援が必要です。第3波、第4波が必ず来ると考え、保健分野での緊急支援をいかにシステム構築・強化に繋げていけるかが、我々にとっての課題です。保健、栄養、水と衛生、教育、子供の保護、ジェンダー問題、防災の全ての分野で、コミュニティーレベル、州中央政府へのサポートを継続していきます。

今回のパンデミックは、私たちは互いにつながり合う世界で生きているということを、これまで以上に表していると思います。インドは今、脅威にさらされています。他の国でも状況悪化を防ぐために、私たちはグローバルコミュニティーとして一致団結する必要があります。ユニセフは国際社会の支援と思いやりに心から感謝しています。パンデミックが終わりを迎えるまで思いやり支え合うことが必要だと思っています。

写真提供:日本ユニセフ協会