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今ブラック霞が関の変革を 現役官僚が語る

2021年4月30日 11:46
今ブラック霞が関の変革を 現役官僚が語る

月に300時間をこえる残業も明らかになった、霞が関の官僚。現状に疑問を持ち、辞める若手も増えている。霞が関の働き方をどうかえていくべきなのか。現役の官僚を取材した。

深夜の午後11時ごろ、厚生労働省の窓には、たくさんの明かりがついている。そのビルから出てきた1人の女性が、桝井千裕(ますいちひろ)さん。31歳で入省9年目、現在は新型コロナウイルスの対策本部で働いている。

桝井千裕さん
「これでも(帰るのは)早い方です。きょうは大変ありがたい。暗いうちに帰れる……」

普通は「明るいうちに帰る」というところだが、桝井さんは、夜明け前に帰れることが嬉しいと言う。

退庁が深夜になったのは「国会対応」のためだ。国会対応の仕事は、国会審議の議員からの質問に対する総理大臣や大臣などの答弁案をつくること。準備のために、質問内容は、議員から事前通告されるが、この通告がくるタイミングが遅い時や、内容によっては、残業は朝までになってしまう。

■霞が関の「過労死ライン」超え6532人、勤務の現状は?

桝井さんに実際の勤務状況について聞いてみると――国会対応にあたる日などは、「運が悪いと、朝5時や朝6時。場合によっては朝7時」にまでなると話す。

桝井さん
「机に突っ伏して、しばらく仮眠をとり、コンビニで着替えのシャツを買って、そのまま9時半の始業から働くということもある」

桝井さん自身の残業は、月に80時間台後半から90時間前半くらいだというが、「私の2倍、3倍働いている人もいる」とのこと。政府の調べでは、霞が関で働く国家公務員のうち、「過労死ライン」と言われる月80時間を超える残業をした人は、昨年12月から今年2月の3か月間で、のべ6532人にのぼった。

長時間労働の弊害は政策にも表れるのではないかと、桝井さんは指摘する。

桝井さん
「一言で言うと『良い政策をつくれない』っていうことだと思う。目の前の仕事でいっぱいいっぱいで、すごく視野が狭まっていくのを感じる」

「“ワーク”ばかりの人生で、“ライフ”の現実をよくわからない人間が、国民生活のニーズに合った政策を作れるのか?」

■増える若手離職者、負の連鎖

桝井さんが特に危機感を覚えているのは、キャリア官僚の辞職者数が増えていることだ。

桝井さん
「最近、同僚の離職は、わりとよく聞くようになった。基本的にやめる人は若い人たちで、私と同じぐらいの35歳くらいまでにみんな転職していく」

内閣人事局によると、20代の国家公務員の一昨年の自己都合による退職者数は86人で、6年前と比べて4倍以上にのぼる。

多くの職員が口にするのは、激務による体調面・精神面での不安や、仕事と家庭の両立の難しさだ。

「官僚の働き方改革を求める国民の会」のアンケートによると、「毎日2~3時間睡眠が続いている」、「現在の激務状態では、まともに子供も産めないし、産んで育てられるかわからない」といった声も聞かれる。

桝井さん
「離職が増えると、残っている人にしわ寄せがきて、(しわ寄せが来た人が)つらくて辞めてしまって、また残った人にしわ寄せがくる――負の連鎖をここで止めなきゃいけない」

■改革は急務、霞が関から日本の働き方を変える

霞が関の働き方を、今こそ本気で変えていく必要があると、桝井さんは考えている。

「これまでは、『自分のプライベートを犠牲にしても、目の前の仕事に全てを投げ打てる、24時間働けるスーパーマンこそが、尊敬される公務員像』という前提でやってきたと思う。でも、私のような普通の人間も霞が関には沢山いる。普通なりに本気で人の役に立ちたいと思ってる人間が、ずっと働き続けられるような職場をつくっていかなきゃいけないんじゃないか」

コロナ禍だからこそ、身近なところから、「ピンチをチャンスに変える」ことができたら、という桝井さん。

「省内の打ち合わせとか会議とかって普通に対面なんですよ。もともとテレワーク7割みたいに(国が)言っているので、それぐらい真剣に考えるべき」

厚労省によると、現在、テレワークに必要な電子機器を導入するなどの環境整備を行っているほか、職員の家庭生活への配慮や、休暇取得の促進など、改革に取り組んでいるという。

しかし一方で、厚労省だけでは解決できない問題も多い。霞が関全体の人員配置の見直しや業務の効率化、国会議員側が官僚の負担軽減に取り組むことなどが一層求められる。

桝井さんは「霞が関の働き方を変えるっていうことは、ひいては日本全体の基礎となる働き方を変えるっていうことだ」と訴える。

「自分たち(官僚)の生きやすさをアップできないのに、日本全体の生きやすさをアップできるはずがない」

「日本全体で、みんながワークとライフをどっちも両立して幸せに生きられるかどうか、いま岐路に立っている。これからの日本の人たちがどう働いていくか、どう過ごしていくかのひな形作りでもあり、すごく大事なことだと思うのです」

(4月28日『news every.』より)