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「ECMOカー」広域搬送で患者の命を救う

2021年3月9日 10:44
「ECMOカー」広域搬送で患者の命を救う

新型コロナウイルスの重症患者の最後のとりでである集中治療。その専門医の全国的なネットワークと特別な車が、ある患者の命を救いました。

先月、愛知県にある藤田医科大学病院に、北陸地方の病院から2時間半かけて、ある女性患者が搬送されてきました。新型コロナウイルスに感染し、重症化した女性です。女性はECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)を着けた状態で運ばれてきたのです。

この女性の治療について、藤田医科大学病院の医師で、日本集中治療医学会の理事長でもある西田修医師に話を聞きました。

西田理事長「そもそも通常の人工呼吸器は、傷んだ肺にさらに無理をさせて酸素を取り込む。肺がかえって悪くなるということもあります」

肺炎などで機能が低下した肺を休ませるため、体の外に血液を取り出して、二酸化炭素を取り除き、酸素を加えて、体に戻すという肺の役割をするのがECMOです。

西田理事長「もともとECMOを使うには、かなり高度な技術と経験が必要です。また、今回は、技術的に困難な部分がある症例だったので、(女性が入院した病院から)集中治療医の有志チームで運営するECMOnetに連絡がありました。女性が入院した病院の近隣にある、ECMO経験が十分にある医療機関をあたりましたが、どこも病床がひっ迫していたので、(西田理事長が勤務する)藤田医科大学の集中治療部に打診があり、お受けしました」

ECMO1台を稼働させるためには、医師や看護師、臨床工学技士などおよそ10人必要で、24時間、患者につく体制となります。

西田理事長「かなり太い管を首からと足の付け根から心臓まで向かっていれることになります。これは点滴なんかよりもずっと太い管ですので、血管を傷つけないように、それから場所を間違えないように入れる必要があります。失敗すると、本当に死に直結します」

今回、女性患者を搬送したのは、ECMOカーです。ECMOを着けた状態で患者を運ぶことができ、通常の人工呼吸器やモニターなども搭載した「走る集中治療室」ともいえる特別な車です。

要請を受けた関東地方の病院から医師とドライバー、そして「ECMOカー」が女性患者のいる北陸地方の病院に向かいました。その病院で、藤田医科大学病院から来た医師と臨床工学技士と合流。女性患者にECMOを装着し、そのまま藤田医科大学病院に搬送しました。

西田理事長「2つの病院が1つの病院に行って、合同チームを作り、広域搬送を行いました」「通常の救急車は、行政の県単位で動いていますので、患者を県境をまたいで運ぶにはかなりの壁があって、手続き等が煩雑になります。広域搬送の場合はなかなか難しい側面があります。今回は関東地方の病院の所有物である『ECMOカー』を使用したことで、かなり迅速に対応できました」

西田理事長は、重症者用の病床数や医療提供体制のひっ迫の度合いは、地域差があり、患者が多い地域と少ない地域で、こうした連携が出来ると、重症患者の治療がスムーズに行えると話します。

西田理事長「これまでの感染状況を見てきて、全国一様に同じようなスピードでどこもかしこも感染拡大しているというわけではなく、地域性があります。そういう中で、感染がまん延していないところ、まだ医療体制に余裕があるようなところを利用しない手はないと思うんですね。また、通常、ECMOができるような医療機関でも、集中治療室のベッドの椅子とりゲームみたいな状態になっている時に、(スタッフが多く必要な)ECMOをやること自体が正しいかどうかという議論もあります。ですから、そういう状況になったらですね、どんどんそういう重症患者を県外に連れて行って、そこでECMOなり、できるだけやれる治療をする。そういうことがスムーズにできるようになれば、患者が増えても対応できるキャパシティーが増えるということになると思います。ECMOによる治療ができる施設、スタッフ、場所が周辺にあるのであれば、いかに有効に使うかというところで、『ECMOカー』や広域搬送のシステムというのは非常に重要です」

西田理事長の下で、1か月ほど治療を行った女性患者は状態が改善し、先週、北陸地方の病院に戻ることができたということです。西田理事長に今後、感染が再拡大したときに備えて、どんなことを考えているか、聞きました。

西田理事長「今回のように本格的な広域搬送ができるシステムが、日本にはあるんだということ。それで実際に1人の貴重な命が救えたという事実。これはやっぱりね、次にいかさなきゃいけないと思っています。今、全国に『ECMOカー』がほんの数台しかありません。日本全土をカバーするには20台ぐらい必要になります。ECMOnetの存在をまだ知らない方もいらっしゃいます。これを全国に広げてやれるような、システムが必要であると、政府などにもお願いしていきたいと思います」