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ワクチン接種後に出産、日本人医師の体験談

2021年3月7日 12:11
ワクチン接種後に出産、日本人医師の体験談

新型コロナウイルスワクチンの接種について、日本では妊婦が「努力義務」の対象から除外となるなど、妊婦への影響はまだわからない部分が多いのが現状です。こうした中、妊娠34週と38週でモデルナ製のワクチンを2度接種し、先日、無事に3500グラムの赤ちゃんを出産したハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長の内田舞医師(38)に、接種を決断した経緯や、迷いを感じている人達へのメッセージを聞きました。

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■「受けるリスク」と「受けないリスク」をてんびんに…

2020年5月末に第三子を妊娠していることがわかり、アメリカで新型ウイルスの感染が広がる中、出産を迎えることになった内田さん。ワクチンを接種する決断をした一番大きな理由は、「重症化のリスク」だったといいます。

内田舞医師「妊娠中にコロナにかかってしまった場合、重症化リスクが非常に高いのが怖かったというのが、一番大きな理由です。

アメリカ産婦人科学会のまとめた資料によると、妊娠中に感染した場合、集中治療室での治療が必要になるリスクは約3倍、死亡率も妊娠していない人の約1.7倍とされ、重症化のリスクが非常に高い状態です。

それ以外にも、実際に私のまわりで感染した友達や患者さんなどから、発熱や呼吸困難が数週間続いたという経験を聞き、妊婦として、風邪をひくだけでもつらい状況なのに、長い発熱を経験しなければいけない、というのは私自身辛いだろうなと感じました。

副反応などのニュースを見ると、『受けるリスク』の方にばかり目が行きがちですが、『受けないリスク』をしっかりと検証し、この2つをてんびんにかけて考えました。

私の場合、感染者数の多いアメリカに住み、いつ感染してもおかしくないという状況の中で、受けないことで重症化するリスクの方が、受けることで私の体や赤ちゃんに対して影響を与えるかも知れないリスクよりも圧倒的に高いと考えました。

1回目の接種は、1月7日で妊娠34週目でした。その時は拍子抜けするくらい、発熱も倦怠(けんたい)感もなかったです。ただ、2回目の接種の後は、がつんと倦怠感が来て、注射部位が痛くなりました。

接種翌日はゆっくりと寝て休んだところ、翌々朝に起きたら回復していました。ただ、接種の前も後も変わりなく胎動を感じてましたし、妊娠検診でも何も異常はなかったです」

■赤ちゃんにも抗体が渡る?進む追跡調査

2度のワクチン接種を終え、迎えた出産当日。分娩(ぶんべん)室の中では、医師やスタッフ、内田さん本人も含めて全員が、すでにワクチンを接種した状態で出産に臨みました。

多くの人が近い距離で触れ合い、呼吸が苦しくマスクを外さなくてはいけない場面もある中、ワクチンを接種していたことで、感染するかも、させるかも、という余計な不安を持たずに落ち着いていられたといいます。

さらに、出産直後には、今後の研究のために、“あるもの”を提出したといいます。

内田舞医師「アメリカでは、出産後に子供の父親がへその緒を切るのが習慣になっているのですが、そのへその緒の一部を研究のために提出しました。

実は、私は妊婦がワクチンを接種した効果や安全性を追跡調査するための研究プログラムに参加しています。これは、私自身と赤ちゃんの血液や、赤ちゃんと繋がっていたへその緒や胎盤の組織を採取することで、抗体がどのくらい生成、また赤ちゃんに移行したかなどを調べるものです。

また、母乳も小さなチューブに入れて提出しました。私が接種したmRNAワクチンは、非常にもろい性質で、体内で抗体を作り出した後、すぐに分解されて消えてしまいます。

ただ、私がワクチンに反応して体内で作った抗体はそのまま残り、さらに、胎盤と母乳を介して赤ちゃんのもとにいく可能性が高いです。

アメリカでは、妊娠後期にワクチンを接種して、母体で作られた抗体を移行させて生まれたばかりの赤ちゃんを守るということは、百日咳(ぜき)などの他のワクチンではすでに行われています。

もし、私が作った抗体が、赤ちゃんもコロナから守ってくれたら、素晴らしいプレゼントになると思っています。

妊婦については、製薬会社の臨床試験だけでなく、こうして実際にワクチンを接種した妊婦に対する追跡調査も各地で進んでいます。いずれ、安全性や赤ちゃんに抗体がわたるのかどうかなどのデータが出てくると思うので、楽しみにしています」

■「努力義務」適用外は、妊婦に「選択肢をあげる」ということ

厚生労働省は、「データが十分に集まっていない」などとして、妊婦への接種については「努力義務」ではなく、「医師と相談した上で行うこと」としました。このことで、「ワクチンはやはり妊婦には危険なのではないか」という不安の声も一部では聞かれました。しかし、内田さんは別の見方をします。

内田舞医師「厚労省が妊婦を完全に「対象外」にしなかったのは、勇気のある判断で、ありがたいと思います。住んでいる場所や職業、健康状態などで、感染や重症化のリスクが高く、『受けたい』と思う方々には、『接種する』という選択肢を与えてくれた。

ただ、妊婦はみんなすでに努力しているんです。コロナ禍の毎日の生活の中で、お腹の中で赤ちゃんを育てるために身体的にも精神的にも努力しているので、『努力義務』から外れるというのは、これ以上に不安になるものを妊婦さんには負担として与えたくなかったということなのかなと思います。

受けたくないという人には『受けない』という選択肢をあげるという意味の『努力義務』からの除外だと思っています。

新型コロナウイルスは、グローバルな問題で、ワクチンは世界中でみんなが受けないと終わりません。日本では、まだまだワクチンに対する不安も大きいということを聞きますが、感染の拡大や変異株の誕生に加えて、経済的な影響や、自殺率の上昇などのことも考えると、接種は緊急性を持って進めなくてはいけません。

ただ、妊婦の皆さんが抱える不安は非常によくわかりますし、私自身も接種を受けるべきか悩み、色々な資料を読んで考えました。最終的に、受けるか受けないかは個人の判断なので、妊婦さんに限らず、受けるリスクと受けないリスクをしっかりと考え、納得した上で接種ができれば良いと思います」