×

皇居入りの車列でも 皇室の「順番」とは

2020年10月23日 14:59
皇居入りの車列でも 皇室の「順番」とは

天皇皇后両陛下をはじめとする皇室ご一家の動静や、宮中行事などを取材する宮内庁担当記者。日々のニュース映像とは別の角度から見た取材のこぼれ話を宮内庁キャップがつづります。

◇   ◇   ◇
宮内庁キャップの取材日記
 ~笛吹雅子の現場こぼれ話
◇   ◇   ◇


■両陛下そろっての「神嘗祭賢所の儀」

2012年から宮内庁担当、笛吹雅子です。取材のこぼれ話や感じたことをこのコラムでつづっていこうと思っています。

10月17日朝。天皇皇后両陛下や皇族方が車で皇居に入られました。伊勢神宮の「神嘗祭」に合わせて、「神嘗祭賢所の儀」が行われたためです。

「神嘗祭」は、その年に採れた新穀を捧げ、収穫に感謝するお祭り。皇居では、天皇陛下が伊勢神宮に向かって拝礼し(はるか遠いところから拝むので「遙拝」と言います)、その後、皇室の祖先とされる天照大神がまつられている賢所で陛下と皇后さまがそれぞれ拝礼されました。いまだ「療養中」の皇后さま、お二人そろっての「神嘗祭賢所の儀」は実に21年ぶりでした。

今年は新型コロナウイルスの感染拡大で皇室の活動も大きな影響を受けましたが、宮中祭祀は変わらず行われてきました。毎月の「旬祭」、春と秋の「皇霊祭」、半年に1度の陛下のお祓い「節折」、香淳皇后や明治天皇の命日など。儀式そのものが公開されるのは、代替わりやご結婚などごく限られた機会しかありませんが、大切に続けられていることが分かります。


■車列の「順番」の意味

ところで、半蔵門に入る車列のニュース映像を見て、どうして陛下と皇后さまは別々なの? 皇族方は後から入られるの? と思った方がいたようです。この日は、まず皇后さま、およそ1時間後に陛下、しばらく経ってから高円宮家、三笠宮家、秋篠宮家の方々が入られました。

私たち記者が半蔵門で取材する際には、コーンで仕切られた中でカメラマンと一緒に待っています。両陛下は記者にもにっこり会釈されるのが常、特に皇后さまは1人1人と目を合わされます。ほんの短い時間ですが、お元気かどうか拝見する貴重な機会といえます。

儀式に出席される方々の名前は前日には発表され、それを見ると記者は大体入る順番が分かるので「次は~~さまが入られます。~台目の車」などと小声でカメラマンに教えたりしています。というのも、入られる順番は宮家によって決まっているのです。よほどの交通事情が無い限り、最後は最も「身位が高い」(皇室にはこういう表現があります)方。もし順番が違えば「何かあったの?欠席されるの?」と多少動揺します。


■宮中祭祀では両陛下が早く皇居に

では、なぜ宮中祭祀では最も身位が高い両陛下の到着が早いのでしょう。半蔵門の奥、うっそうとした森の中には、皇室の祖先とされる天照大神がまつられている「賢所(かしこどころ)」、歴代天皇や皇族方をまつる「皇霊殿(こうれいでん)」、国中の神々をまつる「神殿(しんでん)」があって、これらを総称して「宮中三殿」と呼んでいます。

取材に行くと自然にすうっと背筋が伸びる、静かで張り詰めた空気のある場所です。夏にはそれは大きな蚊がいるので、刺されやすい私はドキドキ、、というのは余談ですが。

宮中三殿に上がって(殿上と呼んでいます)拝礼する際には、装束を着用されるのが習わし。両陛下は装束で宮中祭祀にのぞまれています。女性の装束や髪の支度には時間がかかるため、皇后さまは陛下よりいつも1時間ほど早く皇居に到着し、着替えられます。そして、陛下が皇居入りし、装束に着替えをされます。

一方、皇族方は、三殿には上がらず前の庭で(庭上と呼んでいます)拝礼されるので着替えはなく、洋装のままで良いので直前に皇居に入られています。皇族方の順番が決まっているのは前述の通り、最後が秋篠宮家です。半蔵門で拝見する皇居入りの順番には、こういうワケがあるのでした。

11月8日の「立皇嗣の礼」を終えると、秋篠宮ご夫妻は平成の皇太子ご夫妻と同じように装束に身を包み殿上で祭祀にのぞまれることになります。ですから、以後の宮中祭祀では、秋篠宮ご夫妻は装束に着替えるため早く皇居に入られ、これまでと順番は変わることに。

11月23日から24日にかけては1年で最も重要とされる宮中祭祀「新嘗祭」がありますが、秋篠宮さまは今年の「新嘗祭」には「黄丹袍(おうにのほう)」の装束でのぞみ、祭祀の殿上デビューをされる予定です。


■中曽根元首相の合同葬儀でも「順番」

さて、17日の午後には、都内のホテルで行われた中曽根康弘元総理大臣の内閣と自民党による合同葬儀に8人の皇族方が参列されましたが、ここでも、入場の順番や両陛下が出席されないことに気になった方はいるようです。

両陛下や上皇ご夫妻は、側近である侍従を「お使い」として派遣されました。陛下は葬儀の席には直接出席しないという慣例があり、宮家の皇族方の葬儀にあたる儀式でも使いを送り、日を改めて墓所へ参拝されています。お使いは陛下の代わりとして同じ位置づけとなり、皇族方が入った後に、上皇ご夫妻のお使いが、そして両陛下のお使いが入り、皇族方は席を立って入場を見守られました。退場の際にはその逆で、使いが帰るのを皇族方が見送られました。

このように、皇室では、入る順番も帰る順番も厳格に決められています。

今回は、皇室の「順番」について書きました。皇室のルールには、いにしえからの古いものもあれば、明治以降のもの、戦後以降の比較的新しいものがあり、混ざり合っているために、「伝統」とは何かをよく考えさせられます。これからこのコラムでは、取材のこぼれ話を少しずつ紹介していきますね。