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向井千秋さん独占インタビュー全文 3/3

2020年9月23日 21:33
向井千秋さん独占インタビュー全文 3/3

宇宙飛行士の向井千秋さんが、日本テレビ「the SOCIAL」榎本麗美キャスターの単独インタビューに応じました。向井さんが語る、最新の宇宙開発事情とは。日本の強みとは。インタビュー内容を全文掲載します。
(インタビュー:2020年7月16日)

――向井さんからみた、今の日本の宇宙開発と今後の展望を改めて聞かせてください。

日本の宇宙開発は、非常に効率は良くやっていると思います。予算は少ないですが、宇宙ステーションだとかそういったものは、アメリカやロシア、ヨーロッパ、そういうところと日本は肩を並べてやっていますし、今の宇宙ステーションの滞在時間も、ロシア、アメリカに次いで日本人の滞在時間が3番目に多いのです。
日本は、1回約6か月の滞在を2年で3人くらいのペースでどんどん行っているので、滞在時間がすごく長いです。
その代わりJAXAの人たちを含め、本当にアメリカの人たちの3倍は働いているのではと思いますが、かけている予算に比べると効率良くやっていると思います。
いまは、宇宙ステーションに行って科学技術をやる、というのはだいたい先進国が普通にやっています。
次に向かっているところが月面で、アメリカが行うアルテミス計画に日本も参画するとなっています。そういう点でいうと、日本は予算が少ない割に世界の大きな流れの中に一緒についていっていると思います。それはやはり日本の技術力もあり、日本人は約束や時間も守る。そういった意味で、日本人の宇宙飛行士はみんな優秀な人たちで、そこを評価されて国際社会の中に入っているのだと思います。

――スペースXの「クルードラゴン」などスピード感のある世界に対し、日本の宇宙開発が対抗するにはどういうことが必要かをお聞きしようと思っていたのですが、今の話聞いていると、日本には日本の良さがあるのですね。

クルードラゴンなど人を乗せる有人のロケットはものすごくお金がかかります。地球は狭いので、どの国も全部が同じロケットを持つ必要はなくて、アメリカやロシア、中国と、人を乗せるロケットに興味持っている国はそれでやってもらい、日本は逆にアメリカや他の国にないものを作る。それが技術力でできるわけです。
元々日本は天然資源のない国で、科学技術こそが日本を繁栄させるというふうに信じて一生懸命やってきています。企業の人たちも含めて色々なことを日本で展開してやっています。
私は次の宇宙時代も、日本はアメリカや他の国を真似するのではなく、今後アメリカが何かやりたい、ロシアが何かやりたい、というときに「日本のこの技術がないと、日本のこの知識がないと駄目だ」というくらいのものを日本が出せば、一緒のチームに入り得意分野をやりながらみんなで開発できる。そういうものだと思います。
宇宙開発はチームワークでやっているため、1つ1つが良い意味の競争はしているけど、やはりチームワークがないとできない。宇宙という相手は大きいから。そう思います。

――こういうものは競争社会になるのかと思いきや、宇宙業界は本当に協力が必要なのですね。

両方必要です。よく「ヘルシーコンペティション、健全な競争」と言うのですが。例えばオリンピック選手も競争する相手がいるからお互い記録が伸びるわけです。
それと同じで、企業同士も競争相手がいるから、自分のところも頑張ってやろうと思って伸びる。手を組むときは手を組みますが、それはお互いがチームを組む時、相手ができる人じゃないと組まないじゃないですか。競争相手になるくらいの相手で、「悔しいけど自分が持っていないものを相手は持っているな」と思えば、一緒になった時に1+1が3にも4にもなる。そういった「競争のもとに協力する」というものが、一番強力な推進力になると思います。

――よくわかりました。宇宙飛行士さんの中で日本食が宇宙食の中で一番人気と聞いたことがあります。そういった意味でも日本の良さというのはどんどん出せそうですね。

日本食は宇宙だけでなく世界遺産にもなっていますから、いま日本食ブームで、健康だし、美味しいし、季節感はあるし、自然を取り入れているので。そういう意味でいうと、文化も含めて日本が打ち出していけるものはたくさんあると思います。お金があるとか、資源がたくさんあるから尊敬されるというのではなく、その人たちが生きている生き方。
例えば日本が3.11の時に、みんなが水に困っていれば取り合いにならずにしっかり並んで水をもらうとか。誰が教えているわけではなく、国民性にそういうのはある。そういう意味で、日本の芯は強いけれども協力してやっていくだとか、あるいは、物は粗末なものしかないかもしれないけれども、それを自分たちの工夫でより良いものにして世界に出していけるようなものにするとか。自然を愛でて出す日本食のような。
そういったことが日本人はいくらでも出来ると思うので、とても期待しております。私も日本人だし。
?次に行くとしたら月がいい

――最後に少し余談なのですが…。向井さんは2回宇宙に行かれていて、また行きたいなと思いますか。

次に行くとしたら月がいいです。3日で行けますし。

 ――月に行ったら何がしたいのですか。

月の遊覧飛行で裏側を見て、一番は月から地球が見たいです。もともと私が宇宙に行きたかったのは、自分が宇宙から自分のいる地球を見ることで、考え方とか視野が広がると思ったからです。
いまの(宇宙ステーションからの)400キロくらい(の距離)では、地球1個が見えるわけではないから、「(見える範囲で)こういうふうな地球が見えた。故郷って綺麗だな」と。
それが月に行くと、地球はボールのように見えるから、「やはりあそこに住んでいたんだ」と(思える)。みんなが旅をして自分の故郷を振り返るときに、やっぱり故郷の中にいたらどんなに良い故郷でも良さがわからない。そこから離れたときに、私の故郷って意外と綺麗で良いところだったんだというふうに思えるじゃないですか。
ぜひそういう思いをしたいと思っております。

――そのお話を聞いたら、私も月から地球を見たいです。

本当にすごく概念が変わるじゃないですか。地球から月が出る時は地平線から出るわけですが、(月から見た場合)あれは月平線。地平線じゃなく、月平線から地球が出るというのは、昔の天動説ではないけれど、全部地球が中心で動いている、地球から見たものしか見えていないけれど、アポロの飛行士のようにあっち(月)側に立って、こっち(地球)を見た人がいるというのがものすごいことだと思うのです。

――アポロ以来、誰も見ていないというのもすごいですね。

それが2020年(代)の後半に行き、日本の人も行く可能性があるので期待しています。