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幸せな最期のため…「地域包括ケア」の課題

2016年12月8日 18:16
幸せな最期のため…「地域包括ケア」の課題

 「地域包括ケア」――団塊の世代が75歳以上となる2025年をメドに、介護が必要な状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう、医療や介護など地域の中で支援していくシステムだ。

 諏訪中央病院・鎌田實名誉院長は今年、地域包括ケアに関する研究所を立ち上げた。研究所の活動の第1弾として行われたのが「地域包括ケア甲子園」だ。

 「地域包括ケアシステムを作りあげるにはどうすればいいか」という課題について、医学部の大学生にチームに分かれて考えてもらうアイデアコンテストだ。

 先月、このコンテストで、素晴らしいアイデアを出した学生を、鎌田さんが10年前から関わっている北海道本別町の地域包括ケアの勉強会に招き、一緒に医療の現場などを見学してきた。

 地域の人が見守ることで認知症の人が徘徊(はいかい)しても安心な町づくりを目指している本別町。鎌田さんは今回、本別町を中心に集まった周辺の町長や村長らを前に講演を行った。

 「地域包括ケアの若い発想で町が元気になったり、今までにない新しい地域包括ケアができるんじゃないかということで、若いお医者さんたちと医者のたまごと連携をとっていくことは、将来の地域を変えていくには、とても大事だと思います」


■人口減少を防ぐ「3つのターン」

 「地域包括ケア甲子園」で優勝した医学生たちのアイデアを披露してもらった。テーマは人口減少を防ぐための対策「3つのターン」。

 1つ目は「X(エックス)ターン」。離婚した人、いわゆる「バツイチ」の人や、シングルマザーを町に呼び込み、まずは人口を増やそうというアイデア。このアイデアを提案した背景には、学生たちが感じた本別町のある特徴があった。

 東京大学医学部3年・吉田智哉さん「(本別町は)働く女性でも安心して子育てができる町だなと感じました。それだったら、子供が安心して遊びに出かけることもできるなと思って」

 2つ目は、一定期間、医師や看護師に来てもらい、町の良さを知ってもらおうという「インターン」。

 3つ目は、高校生が主体となる避難訓練を行うなど、若い人たちみんなが参加出来る仕組みを作って町への帰属意識を持たせ、いずれ地元に戻ってきてもらおうという「Uターン」。

 この「3つのターン」を進めることが地域の活性化につながるのではという学生の意見に対し、本別町の高橋正夫町長は「若い世代の人たちが本別町に向かって、こういう発信をしてくれた。話を聞いてるとさ、これはいけるぞと、すぐやるぞと。またやらなければならないという決意も含めて、私どもに大きな力を与えてくれた。そんな気持ちですよ」と語る。

 この翌日、医学生たちは、鎌田さんと共に本別町の医療現場を見学した。鎌田さんと患者とのやり取りを目にした東京女子医科大学3年・藤田真依子さんは「都会ではなかなか時間をかけておしゃべりしながらいろいろ伺うってことは難しいと思うんですけど、その端々でそういう情報を先生がキャッチして、いかに本人の希望をかなえていくか方針を決めてらっしゃるのが印象的」と話した。

 本別町での勉強会について、吉田さんは「本別に来てみると、自分たちが考えられてなかったことがたくさんあるなと感じて、行政も関わるし、医療関係者も関わるし、市民も全員一体となってやらなければいけないが、温度差が意外とあるんだなと感じて、まだまだ考えなきゃいけないことがあって、東京に帰ってからも追い続けていきたいなと」と語ってくれた。

 最後には、本別町の医療や介護の関係者たちが学生のために懇親会を開いてくれた。みんな学生たちの提案に感心していて、少なからず刺激になっているようだった。

 医学生たちも実際に地域包括ケアに携わる人たちに接して医師を志す思いを新たにしていた。


■あたたかい関係を

 地域包括ケアは、医師だけでも介護士だけでも、ましてや行政だけでも成り立たない。地域の住民が一体となってあたたかい関係をつくることが必要不可欠だ。

 まだまだ進む高齢化社会、地域包括ケアを充実させていくことで町は魅力的になり、人も集まってくる。人と人とのあたたかい関係を築いていくことで、幸せな最期を迎えることができると思う。