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急がれる受動喫煙対策 その背景を解説

2016年11月4日 17:51
急がれる受動喫煙対策 その背景を解説

 他人のたばこの煙を吸う「受動喫煙」による国内の年間死者数の推計は、年間約1万5000人。交通事故死は年間約4000人なので、3倍を超えている。

 現在、日本で過去1か月に受動喫煙に遭遇した非喫煙者の割合は飲食店で46.8%、職場で33.1%、医療機関で6.5%などとなっている。

 そこで、厚生労働省は先月、不特定多数の人が集まる場所を中心に喫煙を厳しく規制する対策案を発表した。これを受けて、先月31日、検討会を開いた。飲食店やホテル・病院などの業界団体からヒアリングを行ったが、各団体からは反対意見が相次いだ。


■分煙スタイルは“禁止”

 厚労省の案では、飲食店などは「建物内は原則禁煙」となる。喫煙室の設置は認められるが、たばこを吸いながら食事ができる喫煙席を設置する「分煙」のスタイルは禁止される。違反した施設の管理者や喫煙者には罰則が科される。

 検討会に出席した飲食店の団体は「客離れが心配」などとして一律の規制に反対し、分煙などの自主的な取り組みをサポートしてほしいと訴えた。

 日本フードサービス協会・石井滋業務部長「居酒屋であったり、喫茶であったり、たばこがどうしても吸いたいというお客様がいらっしゃる業態は、相当売り上げがダウンすることは必至だと。中小零細は、そのまま閉店を余儀なくされることも当然出てくるかと」

 これに対し、厚労省側は「海外では全面禁煙にしても飲食店の売り上げは減っていない」と反論した。


■医療機関は“敷地内全体の禁煙”

 「医療機関」では「敷地内全体の禁煙」が検討されている。病棟など建物内はもちろん、外の敷地も全面的に禁煙となり、喫煙室の設置もできない。違反者には罰則が科される。

 こうした厳しい規制案に対し、病院の団体は「一律の敷地内禁煙はあまりにも厳しすぎる」として反対した。敷地内への喫煙室の設置など医療機関の実情に応じた柔軟な規制を求めている。

 また、病院の団体の出席者はこんな本音を漏らした。

 日本医療法人協会・馬場武彦副会長「医療機関が全面的に『敷地内禁煙』とは、少し行き過ぎではないかと。(全面禁煙化の病院では)患者がこそっと隠れてたばこを吸って、それがもとでボヤになることは私の病院でも経験しているし、病院の外、敷地外の公道で(患者などに)たばこを吸われると、そこに吸い殻がいっぱいになり、近隣からクレームが来るのは当然」

 厚労省は、各業界からのヒアリングを続け、早ければ来年の通常国会に法案を提出する方針。


――日本が受動喫煙の規制を急ぐ背景には何があるのか。

 実は、日本の受動喫煙対策は世界でも最低レベルだ。そうした中、日本も締結している世界保健機関枠組条約が2005年に発効した。この条約は締結国に対し、受動喫煙の防止対策を講ずることを求めている。

 さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が影響している。近年のオリンピック開催地では、違反した人に対して軒並み罰則を伴う受動喫煙防止策がとられている。

 日本もまた、他の開催国と同じ水準の強力な受動喫煙防止策を講じる必要が出てきている。


――意見の対立はどうすれば解消できるのか。

 ポイントは「防止対策への助成金」。喫煙室の整備など、受動喫煙の防止策にはお金がかかる。これについては今でも助成金制度があるが、それをどこまで拡充できるかがカギになると思う。

 たばこ税問題は、財源が諸外国に比べてまだ安いと言われている、たばこの値段に、たばこ税を上乗せして財源を確保するなど、具体的な検討が急がれる。