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注目のイギリス王室御用達、伝統のワイン商

2010年12月1日 16:17
注目のイギリス王室御用達、伝統のワイン商

 ウィリアム王子とケイトさんの婚約発表に沸くイギリス。ロンドンには、その王室御用達のワイン商がある。「王室のワイン」を扱う店とは…ロンドン支局・岩崎建記者が取材した。

 ロンドン中心部の賑やかな通りの一角に、ひときわ目を引く店構えがある。一見すると何かの博物館のようだが、そうではない。ここは、1698年に創業し、300年以上の伝統を誇るイギリス最古のワイン商だ。しかも、ただ古いだけではない。イギリス王室御用達なのだ。

 店内には、その歴史と伝統を物語る品々が残されている。開店当初はワインではなく、コーヒー豆を扱っていたため、量り売りしていた当時のままの器具も残されている。中には、あのタイタニック号が沈んだことを記した書類もあった。買い付けたワインが積んであったために発行された、いわば「沈没証明書」だ。しかし、店内には、肝心のワインが見当たらない。いったいどこにあるのだろうか。

 実は、店内にある階段の下が、ワインセラーになっている。階段を下りた先には、鉄格子で厳重に管理された棚がある。その鉄格子の向こうに、眠っているのは、すべて1945年以前のワイン。ほこりをかぶった、見るからに「年代モノ」のワインがズラリと並んでいる。今回、そんな貴重なワインの中でも、一番古いものを見せてもらえることになった。

 ワインコンサルタントの松岡さんが、鉄格子の鍵を開けて、恐る恐る取り出してくれたのは、1834年のハンガリー産ワイン「トカイ・エッセンシア」。松岡さんは、「こちらは非売品で、(オーナーの)ベリー家とラッド家に属しているものです。ですから、どんなに欲しいと言われてもお売りできません」と、説明する。仮に値段をつけるとしたら…という意味の質問を投げかけると、「そうですね、値段はないですし、これができた時(1834年)から、ここに置かれて一度も旅をさせたことがないものですから、本当に貴重です」と、その希少性を強調する。決して市場には出ることのない非売品のワイン。本当に特別な場合にだけ封が切られるという。果たして、ウィリアム王子とケイトさんのロイヤルウエディングに登場することはあるのだろうか。もちろんワインはこれだけではない。迷路のような地下には、合わせて10万本が貯蔵されているという。

 そして、夜。日が沈むと、店はもう1つの顔を見せる。店内の脇にある細長い不思議なトンネルを抜けて行くと、ある建物にたどり着いた。柔らかなあかりが漏れる部屋の中では、男性が入念にワインを選んでいる。実は、この男性の名は、アラン・グリフィスさん。世界に300人弱しかいないというワイン界の最高峰、「マスター・オブ・ワイン」の称号を持つスペシャリストだ。これから、この建物の中で、アランさんによるワイン講座が開かれるという。

 この日のゲストはすべて日本人。秋の味覚、野鳥などの「ジビエ料理」を楽しみながら、アランさんがワインについての説明をする。「きょうは白ワイン1種類と赤ワイン3種類をお出しします。それぞれが料理とどう合うのかを私がご説明します」と、語りはじめるアランさん。この日のポイントは、肉料理に赤ワインではなく、あえて白ワインを合わせたこと。王道だけでなく、新しい驚きや発見も体験してもらうのが目的だという。アランさんは、「最初の白ワインは北ローヌ産のサン・ジョセフです。この香りや風味は、桃やアプリコットなどのいわゆる核果果実のものです」と、さらに説明を加えていく。ゲストとして参加した男性は、「食事とワインのマッチングが最高ですね。我々では選ばないようなものを提供しているので、新たな発見というのを感じます」と、語る。また、別の女性は「伝統的な建物の伝統的な部屋の中で、しかも専門家の方の話を聞けるというのは、なかなかないと思っています」と、こちらも満足げな様子だ。

 300年の歴史を持つ王室御用達のワイン商。ロイヤルウエディングに沸くイギリスで、さらに存在感を増していきそうだ。