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中国の受験に変化“闇塾”摘発と運動塾人気

2022年1月9日 17:00
中国の受験に変化“闇塾”摘発と運動塾人気

「大学入試で人生が決まる」と言われる中国では、壮絶な受験競争が社会問題になってきた。しかし去年、中国政府が発表した“学習塾禁止令”で状況が一変。“闇塾”の摘発が相次ぐ一方で子どもたちの「運動塾」通いがブームに。

(NNN上海支局 長谷川敬典)

■名門大学に合格したら「人生の成功者」「英雄」に

中国の名門・北京大学に合格した男子生徒が馬に乗せられ、派手なパレードが行われていた。これは中国・江西省景徳鎮の光景だが、大学の合格発表の時期には中国各地でこのような盛大な合格祝いが行われる。

中国は日本以上に学歴社会で、名門大学に合格した生徒は「人生の成功者」であり「村の英雄」として扱われる。また合格した本人だけでなく、その両親や出身校の校長も村の誇りとして称賛される。そのため中国社会にとって受験は、多くの人の人生を左右する特別なイベントだ。

受験シーズンになると、試験会場に向かう高校三年生を乗せたバスを、保護者たちが涙ながらに旗を振って送り出す。試験当日の朝は、遅刻しそうな受験生を警察官がサイレンを鳴らして会場まで送り届ける光景も。

「あなたが塾に来るなら、あなたの子どもを教えます。あなたが来ないなら、あなたの子どものライバルを教えます」

――これは学習塾が掲示した生徒募集の文言だ。保護者の不安をあおると批判されたが、実態をよく表している。

「我が子を受験で失敗させたくない」という親心から受験競争は年々激化し、小学校低学年で1日に複数の習い事を掛け持ちする子も少なくない。

上海の小学校に子どもを迎えに来ていた保護者は「塾の費用は1年で4万元(72万円)は必要で、子どもたちには遊ぶ時間もありません」と語る。

■「塾規制」でピアノ教室を装う“闇塾”出現…すぐに摘発

過熱気味だった中国の教育業界に、いま改革の嵐が吹き荒れている。きっかけは去年7月に中国政府が発表した「学習塾規制」。今後、塾の新設は認められず、既存の塾も営利目的の活動は禁止に。さらに土日・祝日の授業も一律で禁止された。

そのため各地で学習塾の閉鎖や倒産が相次ぎ、保護者たちが学費の返還を求めて抗議するなど大混乱となった。

教育費を抑え「子育てがしやすい社会」にするのが中国政府の狙いだとされているが、塾規制が始まるとネット上で家庭教師を探す保護者が急増。高学歴や英語が堪能な先生の争奪戦が始まり、月謝が30万円を超えるケースも続出した。

また違法に営業する“闇塾”も各地に出現。表向きは「ピアノ教室」を装っているが、実はピアノの前で勉強を教えていた、という“事件”も報じられた。

当局はこのような闇塾を次々と摘発している。

■「受験のために」運動を習う時代に

学習塾への締め付けが強まる中、にわかに注目されている“塾”がある。上海のショッピングモールの一角にオープンした「運動塾」だ。取材で訪れた時は、カラフルな陸上のレーンで子どもたちが短距離走の練習をしていた。

ここは6歳から12歳の子どもたちに運動の基本動作やサッカー、バスケットボールなど様々な競技を教えている。週1回60分の授業で月謝はおよそ2万8000円(3か月コース)。決して安くないが希望者が急増している。その理由は「受験のため」だと言う。

「運動ができるようになれば、子どもが受験する時に大きな助けになります」――運動塾の責任者はこのように説明する。

実は上海では去年から「運動」が高校入試の正式な試験科目になった。短距離走やバスケットボール、サッカー、バドミントンなどの中から4種目を選択し、試験を受ける。750点満点のうち運動の配点は現在30点だが、今後さらに配点が大きくなることが決まっている。

「入試で運動が重視されるようになったので、点数を失いたくないのです」――観覧席から我が子の様子を見守っていた保護者が語った入塾の理由だ。すでに複数の運動塾に通い年間の費用は75万円にのぼると話す保護者もいた。

運動を正式な試験科目にする自治体は増加傾向で、運動塾ブームは中国各地に広がっている。受験のために、本気で運動に取り組み始めた中国の子どもとその親たち。厳しい競争がなくなることはなさそうだ。