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94年ぶりの五輪連覇へ 羽生結弦の覚悟

2022年1月7日 20:30
94年ぶりの五輪連覇へ 羽生結弦の覚悟

2014年のソチ、そして2018年の平昌で五輪2連覇した羽生結弦選手(27)が、北京五輪に向けて、思いを語りました。

「寸分の迷いもなく勝ちを取るんだって思えている。平昌の時よりもまたより一層強い気持ちで、平昌の経験も使って勝ちに行きたいと思います」

北京で3連覇を─。羽生選手がそう思えるまでには、苦悩の日々がありました。

■小学生の頃の夢

2006年。当時11歳の羽生選手に、将来の夢を聞くと──

「目指せオリンピック金メダルです」

笑顔でそう答えた11歳の羽生選手。小学生の頃の夢は、19歳と23歳のオリンピックで金メダルを取ることでした。

そしてこのインタビューから8年後の19歳の時、自らの言葉通り、ソチ五輪で日本男子初となる金メダルを獲得。23歳の時には平昌五輪でも金メダル。2つの五輪金メダルを獲得し、子供の頃の夢をかなえました。

2018年、取材中に2つの金メダルを手に取り、見比べた羽生選手は、「ソチの方が大きい」、そう話して笑いました。幸せでいっぱいの様子でした。

当時、北京オリンピック出場について聞くと。「もう北京はないですね。自分の気持ちがそこに向いていないとすごく感じている」北京五輪には気持ちが向いていないと答えました。

実は、羽生選手には、北京五輪よりもかなえたい子供の頃からの夢がもう一つあったのです。それは…

「4回転半とかをやりたい」

小学生の頃、すでに4回転半ジャンプ、つまり4回転アクセルへの夢を語っていたのです。

■4回転アクセル挑戦へ

4回転アクセルとは、左足で前向きに踏み切り、4回転半回って後ろ向きに着氷するジャンプ。これまでに誰も試合で成功させたことのない、最高難度の超大技です。2018年、平昌五輪で連覇した直後には、こう語っていました。

「4回転アクセル。自分の小さかった頃の夢や願望をかなえたい」

そして、平昌五輪から5か月後、新しいシーズンを前に、羽生選手にプログラムのジャンプの構成を聞きました。

「一応、入りとしては…」

羽生選手が冒頭のジャンプとして記したのは「4A」の文字。4回転アクセルを入れたいと考えていたのです。

「どこまで形になるか分からないですけど…」

■4回転アクセル 高い壁

しかし、実際に挑戦してみると、壁の高さは想定以上だったといいます。ジャンプの飛距離や高さに苦戦しました。

「自分の体にとって一番回転が速く回って、一番高く跳べて、滞空時間が長い場所を見つけるのが一番大変」

また、4回転アクセルは、体への負担も大きく、怪我のリスクもつきものです。時が流れても、挑戦は思うようには進みませんでした。2019年には──

「壁が思った以上に高かったです。4回転って思っちゃいけないんだなって。5回転くらいの勢いでやらないとダメ」

そして2020年の夏には──

「少しずつ…本当に1週間に1歩進めているか、進めないかのスピード」

前人未踏の超大技を追い求める日々。それは暗闇を一人、歩くようなものでした。

「進めば進むほどに壁が襲ってくる。壁に打ちつけながら来たような気がします。スケートやめたいなって思いながら…もうしんどかったです、本当に」

■4回転アクセル初挑戦

そして先月。羽生選手は北京五輪の最終選考会、全日本選手権に臨みました。ついに、あの超大技に挑戦する日がやってきたのです。子供の頃から夢見た4回転アクセル。平昌から4年、試行錯誤を続けてきました。本番のスケートリンクに入った羽生選手は、集中を高めます。そして、演技直前に、4回転アクセルを確認して、フリースケーティングに挑みました。

フリーの曲は「天と地と」。4回転アクセルは、冒頭に組み込んでいます。初めて、試合で挑戦した4回転アクセル。回転は足りなかったものの、着氷しました。そしてその後は、4回転サルコーや、4回転トーループの連続ジャンプなどを次々と成功。冒頭の4回転アクセルの回転不足以外は完璧にまとめ、優勝しました。

立ちはだかる4回転アクセルの壁。成功への道筋が見えてきました。試合の翌日、羽生選手は──

「やっとここまで来て、その(4回転アクセルの)壁にはちょっとした突起があったり、ちょっとしたへこみがあって、そこに足を引っかけたり、手をつければいいなと見えてきました」

■3度目の五輪 北京へ─

羽生選手が次に4回転アクセルに挑戦するのは北京五輪。しかし、3度目の五輪出場は、羽生選手にとって重い決断でもありました。

「オリンピックってやっぱり特別なんですよ。その特別さを知っているから怖いんですよね。勝ってきたのになって。本当に色んなことを覚悟して勝ってきたものを、ほんの…ほんの1秒間くらいの油断で全てがなくなってしまうんじゃないかという怖さがすごくあるんですよ」

ソチ、そして平昌。オリンピック2連覇の栄光を自らの手でつかんだからこそ感じた怖さ。しかし今、全てに立ち向かう準備ができました。

「4回転半さえちゃんと決め切れれば戦えるという自信になった。オリンピックに向けて頑張りたいなと、なんか・・・やっと思えました」

4回転アクセルを武器として、オリンピックで94年ぶりとなるフィギュアスケート男子3連覇へ。王者は挑みます。

写真:アフロスポーツ