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フランス大統領選 マクロン氏“敗北”か?

2022年1月3日 20:00

2022年は5年に一度のフランス大統領選挙が行われる年だ。現職のマクロン大統領が再選されるのか、それとも新たな大統領の誕生か。世論調査ではマクロン氏が敗れるとの衝撃的な結果が出た。一体なぜか?今後のヨーロッパを占う注目の選挙の行方は――。
(NNNパリ支局長 宮前明雄)

■主要候補出そろう 右派3候補 左派“埋没”

フランス大統領選挙は22年4月10日投票で、新型コロナウイルス対策や経済復興、移民問題などが主な争点となりそうだ。1回目の投票でどの候補者も過半数を獲得できない場合、上位2人による決選投票で勝者が決まる。

立候補はまだ表明していないが、出馬が確実視されている現職の中道「共和国前進」のマクロン氏(44)。

新型ウイルス対策を巡っては「我々は過ちをおかした」と異例の謝罪を行い、地方選挙で敗北を繰り返すも、左派でも右派でもない政治を目指し、左右の中道寄りの支持者をうまく取り込んでいるとみられる。フランスは22年前半にEU(=ヨーロッパ連合)の議長国となるため、大統領選挙をにらみ、マクロン氏はこれをリーダーシップを発揮する機会として最大限に活用するだろう。

再選を目指すマクロン氏に挑む主な候補者は既に出そろっている。

17年の前回選挙で、決選投票まで勝ち上がった極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏(53)。

極右と目されているが、前回選挙での敗北後、EU離脱論を事実上封印し、経済や環境政策の重要性を訴え、現実路線への転換を図っている。また、“自由”を制限する政府の新型ウイルス対策を批判。フランスでも新型ウイルスの感染が再拡大し、政権への不信感が広がる中、治安対策などでも政権批判の受け皿となっている。

次に、有力紙フィガロの元記者で、極右評論家のエリック・ゼムール氏(63)。

反移民や反イスラムなどを訴え、“フランスのトランプ”とも呼ばれている。コメンテーターや作家として知名度は高く、過激な主張を控えているルペン氏の支持者が流れているとみられる。一方、自らの人種差別発言から選挙集会で男に殴りかかられ負傷したほか、通行人に中指を立てられたことに対し、同じジェスチャーを返すなど、その言動がしばしば物議を醸している。

一方、最大野党の中道右派「共和党」は、パリを含むイルドフランス地域圏議長のバレリー・ペクレス氏(54)を擁立。共和党はドゴール元大統領を支えた保守政党が源流で、シラク氏やサルコジ氏ら歴代大統領を輩出した伝統ある政党だ。ペクレス氏はサルコジ政権で予算相などを歴任。公務員削減や移民の受け入れ制限、月額手取り3000ユーロ(日本円で約38万円)以下の国民の給与10%アップなどを主張している。共和党が大統領選挙で女性を擁立するのは初めて。知日派としても知られている。

そして、パリ市長で中道左派「社会党」のアンヌ・イダルゴ氏(62)。

“女性初のパリ市長”として知名度は高い。右派の顔ぶれが目立つ中、左派からはイダルゴ氏を含めた7人が立候補。しかし、移民問題などで解決策を見いだせず、左派陣営は存在感を示せないでいる。イダルゴ氏は左派として統一候補を出すことを提案しているが、他の候補者の対応は冷ややかだ。オランド政権の失政や17年のマクロン政権発足で、長年にわたり野党第一党だった社会党は、勢いを完全に失ってしまっている。

■衝撃の世論調査 マクロン大統領“敗北”

選挙戦が本格化して以降、世論調査では常にマクロン氏が首位に立ち、ルペン氏とゼムール氏が2位を争っていた。しかし、ここにきて、衝撃の調査結果が出た。

調査会社「エラブ」の2021年12月7日の世論調査によると、1回目の投票の支持率はマクロン氏23%、ペクレス氏20%、ルペン氏15%、ゼムール氏14%の順だった。ペクレス氏は、11月の前回調査より、実に11ポイントも上昇していた。

さらに、決選投票では、ペクレス氏52%、マクロン氏48%と、ペクレス氏が上回る結果となったのだ。今回の選挙に関する調査でマクロン氏が敗れる結果は初めてだっただけに、国内では驚きをもって受け止められた。

一体なぜなのか。ポイントは1回目の投票で敗れる極右2候補の票の行方だ。決選投票では、1回目の投票でルペン氏を支持する人の31%、ゼムール氏を支持する人の45%が、中道右派「共和党」のペクレス氏の支持に回るという。一方、マクロン氏の支持に回るのは20%未満にとどまっている。

ペクレス氏が掲げる政策が、行政の効率化などマクロン氏と似ている部分が多い上、イスラム過激派の国外追放など強硬な政策を打ち出しているため、極右支持者の中にはペクレス氏の方が指導者としてふさわしいと考える人たちがいるようだ。

また、前回の選挙では共和党候補の妻らによる公金横領疑惑が発覚したことでマクロン氏に消極的に投票した共和党支持者たちが、今回はクリーンなペクレス氏に投票するという背景もあるとみられている。

その後の世論調査ではマクロン氏が巻き返したが、その差はごくわずかで激戦となっていて、投票日まで目が離せない展開になっている。


■2022年の欧州は変化の年 “メルケル後”のEUの行方は―

22年のヨーロッパは“変化の年”を迎える。“EUの顔”だったドイツのメルケル前首相が退任したからだ。ロシアのプーチン大統領やアメリカのトランプ前大統領とも渡り合うなど、世界のリーダーの中で大きな存在感を示してきたメルケル氏。最後の記者会見では「今の状況を懸念している」と語った。「私たちは敬意と共通の解決策を見いだすための努力によって、危機を乗り越えてきたが、未解決の問題が多く残っている」と。

実際、ヨーロッパでは新型ウイルスのオミクロン株の感染が広がり、緊迫するウクライナ情勢やヨーロッパに向かう大勢の移民の問題など多くの課題が山積し、各国の団結が必要不可欠となっている。

新たな“EUの顔”には誰がなるのか。ドイツでは21年12月、中道左派「社会民主党」のショルツ氏が新たな首相に就任した。しかし、メルケル氏の退任でEU各国の力関係が変わる可能性も指摘されている。

フランスはドイツと並ぶヨーロッパの牽引役で、大統領選挙の結果はEUの動向にも大きな影響を与える。マクロン大統領は選挙に勝利し、ヨーロッパのかじ取り役になれるだろうか。


写真:現職・中道「共和国前進」マクロン氏(画像提供:AP)