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習近平政権の「台湾統一」現実味は?

2022年1月2日 12:00

中国と台湾の緊張が高まっている。「統一するか、しないか」ではなく「いつ統一するか」。多くの中国国民が台湾に抱いている認識だ。台湾危機はすぐそこまで迫っているのか?中国で起きている“変化”からその現実味を探った。
(NNN上海支局 長谷川敬典)

■「2035年に台湾へ行こう」が中国で流行

最近、中国で話題になった歌がある。タイトルは「2035去台湾(2035年に台湾へ行こう)」。中国版TikTok「抖音」には、この曲に合わせて歌って踊る動画が多数アップされ、小学生が授業の一環として歌っているような動画もみつかる。注目はその歌詞だ。

♪あの電車に乗って台湾へ行こう
 2035年には澎湖湾に行ってみよう

♪あの電車に乗って台湾へ行こう
 2035年には阿里山を見てみよう

歌詞に出てくる「澎湖湾」も「阿里山」も台湾の有名な観光地で、台湾旅行のキャンペーンのようにも聞こえる。しかし、この歌が流行する背景には、習近平政権による「台湾統一」の動きがある。

■福建省と台湾を結ぶ道「2035年」までに完成

『祖国の完全統一を必ず実現する』

中国の習近平国家主席は21年10月の演説でこのように述べ、台湾統一に向けて一切妥協しない姿勢を強調した。その強い意思は、インフラ建設計画にも表れている。国務院が発表した「国家総合立体交通網計画綱要」には、中国の福建省から台湾を結ぶ海底トンネルか橋を「2035年までに完成させる」と明記された。台湾統一のめどが示されたと受け止めた中国国民も少なくない。

そして、先ほど紹介した歌「2035年に台湾へ行こう」には続きがある。

♪あの電車に乗って北京へ行こう(中略)
 あの天安門に太陽が昇るのを見に行こう
 あの雄大な万里の長城へ

♪あの電車に乗って北京へ行こう(中略)
 あの紅旗が山を紅く染める偉大な中国の夢の復興

2035年には北京と台湾を電車で自由に行き来する時代がやってくるという政治的なメッセージが感じ取れる。「統一後」をイメージさせるこの歌は、中国国民の愛国心をくすぐるようだ。

■あとは海峡を渡って台湾につなぐだけ

中国と台湾をつなぐ壮大な計画は、すでに大部分が建設済みだ。北京と台北を結ぶ「京台高速鉄道」と「京台高速道路」は台湾海峡を臨む福建省平潭島まで到達。平潭島には巨大な駅も完成した。あとは線路を延ばして約122キロ先の台湾につなげるだけ、という段階まで来ている。

しかし、この計画について台湾政府の報道官は「全て中国側の一方的な希望で、統一に向けての宣伝だ」「一度も協議したことはない」と拒絶している。

■「台湾との戦争が始まる」中国で買い占め騒動

『早ければ2025年にも台湾を全面的に侵略する能力を持つ』

台湾の国防部長はこのように中国軍の脅威を訴えた。21年には、のべ900機以上の中国軍機が台湾の防空識別圏に進入し、台湾側の危機感は日に日に増している。

一方、中国の一般市民にとって台湾問題は「統一するか、しないか」ではなく「いつ統一するか」という感覚だ。それを裏付けるような出来事も。21年11月、中国商務省が「緊急事態に備えて食糧の備蓄をするように」と呼びかけた。新型コロナウイルス対策のロックダウンに備えての呼びかけだったのだが、中国のSNSでは「ついに台湾との戦争が始まる」と噂が広がった。一部では市民がスーパーに殺到し日用品を買い占める騒動に発展した。それくらい中国国民は常に「台湾との戦争はいつか起きる」と感じている。

■国防部が公表した“台湾侵攻”シミュレーション

中国の人民解放軍が台湾を想定したとみられる上陸訓練を相次いで実施する中、台湾国防部は防衛のために“台湾侵攻”の詳細なシミュレーションを行った。

<台湾国防部によるシミュレーション>

(1)中国軍は“軍事演習”の名目で台湾の対岸に戦力を集め、戦艦を台湾周辺の海域に配置する。

(2)フェイクニュースなどで台湾を混乱させる。

(3)「演習」から「実戦」に切り替える指令が下される。

(4)サイバー攻撃で台湾の中枢機関や台湾軍を麻痺させる。

(5)ミサイルを発射し、台湾軍の指揮所やレーダー施設などを攻撃。

(6)周辺海域に配置した戦艦により外国の介入を阻止し台湾を包囲。

(7)中国軍が台湾に上陸。

中国は軍事演習を装って万全の態勢を整え、短時間で上陸作戦を完遂する。これが台湾国防部の想定だ。

■「平和統一」に向けて中国政府のアメとムチ

『統一後は、台湾の平和と安寧が保障され、経済発展する』
『台湾の財政収入が増え、住民サービスが向上する』

中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室が、台湾市民に向けて統一のメリットを強調した。その一方で、台湾の蔡英文政権を支える台湾企業には厳しい制裁を科している。

台湾の首相にあたる蘇貞昌行政院長に政治献金を行った台湾企業に対し中国政府は「台湾独立を支持する企業が中国で金を稼ぐことは絶対に許されない」として多額の罰金を科した。台湾企業の多くが中国とのビジネスに依存する中、中国市場から締め出す「制裁措置」によって蔡英文政権を追い込んでいる。

■「党が目指したことは全て実現」自信をつける中国

中国による台湾統一は「国際社会の反発が大きく難しい」と今は感じる。けれど香港の変化を見ると、そうとも言い切れない。19年の香港は中国の統制強化に反発する大規模なデモが頻発し、国際社会が注目していた。

しかし、中国政府が主導した「香港国家安全維持法」が施行されると、香港の民主活動家は次々と逮捕され、議会からも民主派は排除された。国際社会が反発しても状況はあっという間に変わった。

取材で聞いた、ある中国人の言葉を最後に紹介したい。

『中国共産党はこれまで目指したことは全て実現させてきた。経済発展も、香港も。だから台湾でも実現させると思う』