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北京五輪 取材ツアーで見たコロナ対策

2022年1月1日 17:37
北京五輪 取材ツアーで見たコロナ対策

約1か月後に開幕する北京冬季オリンピック。競技会場の取材ツアーでは入念なコロナ対策が行われていた。しかし国内では再び感染者が増え始め危機感が強まる。欧米では外交的ボイコットの動きもあり、習近平国家主席にとって正念場となる。

■取材ツアーに参加 入念なコロナ対策が

2021年12月、中国政府は河北省の張家口にある北京冬季オリンピックの競技会場を外国メディアに公開した。張家口は計3つの競技会場エリアの1つ。取材ツアーは移動を含め2泊3日の日程で行われ、交通手段や宿泊先などは全て政府側から指定された。

参加者は各自、出発前日に北京でPCR検査を受けた。競技会場がある張家口に入るには、48時間以内に受けたPCR検査での陰性証明を提示する必要があるからだ。

初日は北京~張家口を1時間弱で結ぶ中国版新幹線の「京張高速鉄道」で移動。大会では選手や報道関係者なども利用するが、外部との接触を遮る厳格な「バブル方式」に組み込まれるため、一般客とは別の専用車両に乗ることになる。

「1人ずつ確認しているから並んで!」
「慌てないで!勝手に行かないで!」

夜遅くに張家口の駅に到着すると、静まりかえっていたはずの駅構内が突如、慌ただしくなった。そこでは地元の警察官や病院関係者が立ち会いのもと、私たちの陰性証明書や入国時期、最近訪問した地域などの細かいチェックが行われた。一人一人の確認に時間がかかり、大荷物を抱えた約60人の報道陣は長時間足止めされた。

駅を出ると、政府側が手配したバスで宿泊先へ移動。私たちと運転席の間は、隅々を粘着テープで固定した透明のシートで遮られていた。ホテルに到着すると、受付前で再びPCR検査を実施。翌朝までに全員の「陰性」を確認し、ようやく競技会場へと向かうことができた。この陰性証明は北京に戻る際にも必要だ。とにかく移動の度にさまざまなチェックがあるので、慣れていないと苦労する。

中国では年末から新型コロナの感染者が増え始め、会場エリアの安全確保に躍起だ。北京五輪では、夏の東京大会も参考にして「バブル方式」をさらに厳しく運用し、私たち報道関係者もバブルの外へ出られなくなる。東京では勝手に外出する関係者が相次いで問題となったが、北京で違反した場合は厳しい罰則が予想される。

■「対策は万全」も…再び感染者増に危機感

国家スキージャンプセンターは、今回の北京五輪に向けて張家口の山に新設された。独特の曲線を描く外観が中国の縁起物「如意」に似ていることから「雪如意」との愛称もつけられている。

現地は積雪量が少なく、ジャンプ台の近くでは人工降雪機が常に稼働していた。建設担当者は「もともと競技会場には硬度の高い人工雪が必要。雨水などを再利用しており環境に悪影響はない」と説明した。

ざくざくとした硬い雪の上を歩いていると、観客席の脇に小屋がたっているのを見つけた。会場で感染の疑いがある人が出た場合、一時的に隔離するスペースだという。近くで撮影していると、係員から「そこに近づいてはダメだ」と制止された。また会場では、バブル内の選手や関係者と一般客が接触しないよう、観客の専用通路が設けられている。通路には係員が間隔をあけて立っており、報道関係者が立ち入らないよう見張っていた。

会場の担当者は「感染対策は万全だ」とアピールする。ただ、実際に観客をどこまで入れられるかは不透明だ。21年12月に行われたスキージャンプのテスト大会では、直前になって無観客に変更された。これに先立ち、別の競技のテスト大会では計3人の選手の感染が確認され、不安の残る結果となっていた。

さらに、ここに来て国内での感染者が急増している。観光地としても有名な陝西省西安では、12月9日以降の2週間で200人以上の感染者を確認。北京を含む複数の都市で西安から来た人の感染が見つかり、当局は警戒を強める。西安では12月23日から、市民1300万人を対象に事実上のロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。原則として市外へは出られず、外出は生活必需品の購入に限り「各家庭で1人のみ、2日に1回」に制限。小中学校も休校とした。

わずかな感染者も許容しない「ゼロコロナ」政策を堅持する中国では、今でもこうした“力業”が最優先される。最近では、新たにオミクロン株の感染者も確認されており、北京五輪を間近にして危機感を強めている。

■外交的ボイコットも…習近平氏の正念場

中国としては、東京大会が実現できなかった「有観客」での大会を成功させれば、ゼロコロナ政策をとった習近平政権の優位性を国内外にアピールする絶好の機会となる。一方で、もし会場で感染が広がり混乱を生めばメンツは丸つぶれだ。陽性が確認された場合、各国の選手らに“中国流”の強権的な処置を施せば、大きな批判を招きかねない。コロナの感染状況が刻一刻と変わる中、大会運営側は難しい調整を迫られる。

22年の秋には5年に1度の中国共産党大会が控える。異例の3期目続投をうかがう習主席にとって、北京五輪の成功は最重要課題だ。しかし、コロナの問題に加え、欧米では人権問題を理由にした「外交的ボイコット」の動きも出るなど不安定な要素が多く、正念場となりそうだ。さまざまな面で注目される北京五輪はまもなく開幕する。