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国家安保戦略の改定 焦点は敵基地攻撃能力

2022年1月1日 7:00
国家安保戦略の改定 焦点は敵基地攻撃能力

日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、政府は日本の外交・防衛の基本計画にあたる「国家安全保障戦略」を2022年末にも改定する考えだ。岸田首相が検討を指示した、相手領域内でミサイルの発射を阻止する「敵基地攻撃能力」の保有を明記するかどうかが焦点となるが、与党内調整がハードルになりそうだ。

■国家安全保障戦略の改定

21年10月、岸田首相は総理就任後初の所信表明演説で、「国家安全保障戦略」、「防衛大綱」、「中期防衛力整備計画」の3文書の改定に取り組むと宣言した。

「国家安全保障戦略」は日本の外交政策・防衛政策の基本方針を示したもので、13年に安倍内閣の下初めて策定され、これまで一度も改定されていない。岸田首相は「いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」方針を示しており、おおむね1年をかけて新たな戦略を策定する考えだ。

■2021年 日本を取り巻く安全保障環境の変化

改定の背景にあるのは、日本を取り巻く安全保障環境の急速な変化だ。ここ数年、「わが国を取り巻く安全保障環境は、これまで以上に急速に厳しさを増している」というフレーズを度々耳にしているが、実際に21年を振り返るだけでもその変化が見て取れる。

北朝鮮はミサイル技術の高度化を進めており、21年も弾道ミサイルの発射が相次いだ。同時に日本のミサイル探知能力の弱点もあらわになった。

10月19日に北朝鮮が発射したミサイルについて、アメリカと韓国が発射は「1発」とする中、防衛省は「2発」と発表。しかしその3週間後、実際は「1発だった」と訂正した。

また9月15日に発射されたミサイルへの対応では、防衛省は、当初「EEZ=排他的経済水域の外に落下したと推定される」と分析したが、その後、「EEZ内に落下したと推定される」と修正している。ミサイルがこれまでの規則的な放物線状の軌道で飛ぶ弾道のものではなく、変則的な軌道で飛ぶものだったことが影響した。

しかし、現在の日本のミサイル防衛システムは弾道ミサイルが従来の規則的な軌道で飛ぶことを前提としていて、変則軌道は想定していない。ミサイルの軌道の探知が難しくなれば、迎撃も難しくなることは言うまでもない。

ある政府関係者は「北朝鮮、中国のミサイルの能力や数を考えると今の日本の弾道ミサイル防衛ではもう守り切れない」と危機感をあらわにしている。

一方、中国は年々軍事力を強化しており、中国海警局の船による領海侵入も度々確認されている。また最近ではロシアとの軍事的な連携の強化もしており、中露海軍の艦艇が日本周辺海域を一体となって航行する様子が初めて確認されたほか、中露の爆撃機が日本周辺の上空を共同飛行するなど、活動を活発化させている。

さらに、中国による台湾への武力行使の懸念など、安全保障環境の急速な変化への対応は喫緊の課題であると言える。

■焦点は「敵基地攻撃能力」保有の明記

国家安全保障戦略の改定において焦点となるのが、相手領域内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」の保有が明記されるかどうかだ。

岸田首相は21年12月の所信表明演説で、「いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」と強調した。防衛省は早速、改定に向け議論する「防衛力強化加速会議」を新たに立ち上げ、検討に着手した。

また自民党は21年の衆院選の公約で、「敵基地攻撃能力」という言葉こそ用いなかったものの、「相手領域内で弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有を含め、抑止力を向上させる新たな取り組みを進める」と掲げており、保有に積極的な姿勢がうかがえる。

すでに自民党内では検討の議論が本格スタートしており、2022年5月中をめどに政府への提言書をとりまとめる予定だ。さらに22年夏の参議院選挙の公約にも盛り込みたい考えだ。

■慎重な公明党 課題は与党内調整

ただ「敵基地攻撃能力」の保有を巡っては、自民党と連立を組む公明党との間に大きな隔たりがある。公明党の山口代表が国家安全保障戦略の改定について「敵基地攻撃能力に主眼があるわけではない」と述べるなど、公明党は一貫して「敵基地攻撃能力」の保有には慎重な姿勢だ。

敵基地攻撃能力についてどこまで踏み込んだ内容を盛り込めるかは、与党内での調整が最大のハードルとなりそうだ。防衛省幹部からは「最後の最後は公明党にさようならと言えるか、そのくらいの覚悟がないと進まないのでは」などと指摘する声もある。

積極的な姿勢を示す自民党と慎重な姿勢を崩さない公明党。要となる与党内の調整をどう進めていくのか。岸田首相の調整力と覚悟が試されることになるだろう。

写真:北朝鮮によるミサイル発射(2021年9月)朝鮮中央テレビ