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韓国大統領選の行方 支持拮抗も双方に疑惑

2021年12月29日 7:17

次の韓国大統領選に向けて、革新系与党「共に民主党」の李在明候補と保守系の最大野党「国民の力」の尹錫悦候補が激しく争っている。

前編の『対日観で論戦“解禁”』では両候補の対日観を見てきたが、果たして李候補の本音とは──。さらに、両候補の足元でくすぶる疑惑のリスクを紐解く。
(NNNソウル支局長 原田敦史)


■李氏 尹氏の対日観を猛批判 日本への警戒あらわに 本音は?

NNNの単独取材に対して、岸田政権との友好姿勢を示した与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補だったが、11月に入ると再び、日本に対する“強硬な発言”が目立つようになった。

野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補がSNSで、当時の金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相が発表した日韓共同宣言を基にした日韓関係の改善方針を発信した翌日、李在明氏もSNSでメッセージを投稿した。

タイトルは『金大中=小渕宣言を読んだのか?』

李氏は「今の日本は、宣言が出たときの日本ではない。ずっと右傾化している」「日本関連の発言は、歴史の脈絡を理解してより慎重にするように」と、尹氏を攻撃したのだ。

11月10日の討論会では、「日本は完全に友好国家、常に信じられる友好国家なのか」「アメリカとの軍事同盟に、日本を入れることは慎重に考慮すべき」と日本への警戒感をあらわに。

さらに、11月25日に外国メディアに向けて行った会見でも、元徴用工訴訟に関連して、「賠償以前に謝罪が先にあるべき。賠償判決を実行しないことは不可能だ」などと言及した。

その一方で、李氏は「私が対日強硬だというのは、1つの側面だけ見た誤解だ」「歴史・領土などの問題と、経済・交流の問題をツートラックで分けて接近すべき」と日本側との“実用的外交関係”についても語っている。

攻撃的な側面と友好的な側面が“まだら模様”になっている李氏の対日観をいったい、どうとらえたら良いのか。韓国事情に詳しい日本政府関係者に聞くと、次のような言葉が返ってきた。

 「彼が日本との“未来志向的な関係”などと言うのは、公認候補者としてのリップサービスだろう。厳しい本音の部分は、すでに色々な場面で出てきている」

別の日本政府関係者は、「日本についての外交が、大統領選挙の争点になることはあり得ない」との見方を示しつつも、「両候補の舌戦に巻き込まれるのは、好ましくない」と警戒。日本について積極的に議論のテーマにしないよう、水面下で両陣営に働きかけも行われているという。


■両候補の支持は“ほぼ拮抗” 尹氏にくすぶる疑惑と相次ぐ失言

最近の世論調査では、調査機関によって多少の差はあるものの、尹錫悦候補と李在明候補は「ほぼ拮抗」の状態が続いている。

 ※尹錫悦氏 44.4% : 李在明氏 38.0%(12月20日、リアルメーター)
 ※尹錫悦氏 37.4% : 李在明氏 40.3%(12月20日、韓国社会世論研究所)

両候補とも全国行脚を行うなどして支持拡大を図っているものの、支持拡大には苦戦。また、互いのスキャンダル追及や相手候補の批判などが目立ち、肝心の政策についての論戦は、低調気味だ。

尹錫悦候補については、検事総長時代に与党関係者の立件を狙い野党側に刑事告発を促した疑惑で、「高位公職者犯罪捜査庁(検察改革の柱として文政権が発足させた捜査機関)」が尹氏の捜査を進めている。また、妻についても株価操作に関与した疑惑に加え、経歴詐称疑惑も次々に噴出。

本人の失言が相次いだことや、選挙対策チームの発足にあたり党内の主導権争いも表面化し、盤石とは言いがたい。


■文政権批判の李氏 狙いは“疑似政権交代”か

一方の李在明候補についても、城南(ソンナム)市長時代の不動産開発事業をめぐり“側近”とされる人物が逮捕・起訴されるなど、検察の捜査が進んでいる。また、息子の賭博疑惑が取りざたされるなど、尹氏と同様に家族の疑惑もくすぶっている。

こうした中、李候補は不動産高騰問題などで国民から現政権への不満が高いとみるや、最近では、身内であるはずの文政権の政策に対して批判を強めている。世論調査では「次の大統領選挙で政権交代を望む」と答える人が約5割にのぼる中で、李候補としては“疑似的な政権交代”を演出し、カギを握る無党派層の支持を広げたいものとみられる。

ただ、そもそも与党内で非主流派の李候補にとっては、文政権の批判を行うことは、党内の基盤をさらに弱体化させるリスクもはらむ。

韓国の政治関係者は、次の大統領選挙について、冷ややかにこう語った。

 「互いに中央での政治経験がない、スキャンダルを抱えた候補者同士の争いだ。どちらかの選択を迫られる韓国国民の悩みは、これからますます深くなる……」

韓国大統領選まで残り2か月あまり。今後、本格化していくであろう両候補の論戦の行方に、隣国としても注目していく必要がある。