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御社の社長はその宣言、してますか?

2021年12月29日 20:00
御社の社長はその宣言、してますか?

政府が力を入れるポータルサイトに企業の代表者に名前を明示して「あること」を宣言させるサイトがある。宣言している企業は増え始め12月に4000を超えた。トップの宣言とは?その狙いと効果は。

■どうしたら賃金が上がるか

日本は賃金があがらない。この30年間を見ると、アメリカの1.5倍をはじめ、ドイツもカナダも韓国も上昇しているのに、日本だけが横ばいだ。なぜなのか。

アベノミクスでは企業が支払う法人税を大幅に減税した。描いていたシナリオは、「大企業が利益を拡大し、それで賃上げをし消費が拡大し、経済が好循環する」というものだ。

大企業の受けた恩恵が中小零細企業に波及するという「トリクルダウン」は―――結局、起きなかった。

日本の働き手の7割は中小零細企業に勤める。中小企業122万社を会員に持つ日本商工会議所。そのトップを務める三村明夫会頭(日本製鉄名誉会長)は、中小企業の賃金引き上げに必要なのは、生産性の向上もさることながら「取引価格の見直しだ」と繰り返し訴える。

つまり日本では下請け企業が契約を切られることを恐れ、原価が上がってもなかなか値上げを要求できない。それで十分な利益が得られず、従業員の賃上げもできないそういった状況が長く続いてきたのだ。

■御社の社長は宣言してますか?

この状況を打破しよう、と去年、日商や経団連、経済産業省や国交省などがあるポータルサイトをスタートさせた。企業に、社長の名前で、下請け企業に対する姿勢を表明するよう求める「パートナーシップ構築宣言」のサイトだ。

宣言文のひな形にある「価格決定方法」の項目には
“不合理なコスト削減要請を行いません”
“取引価格について、下請け業者から協議の申し入れがあった場合には協議に応じます”
“人件費の上昇分を考慮するなど下請け業者の適正な利益を取引価格に含むよう十分に協議します”
と明記されている。

各企業はこのひな形に沿って宣言を作成し、最後に社長の名前を明記し、ポータルサイトにアップする。会社名ではなく、あえて社長の名前で、自社だけでなく取引先の利益に配慮することを宣言させるこの仕組み。

――簡単なことではない。

その証拠にひな形にある「下請け業者の適正な利益を取引価格に含むよう」という文言を削除して宣言している企業が複数みられる。

■簡単じゃない、取引価格の見直し

「大手A社は2か月、大手B社は3か月かかりました」。「パートナーシップ構築宣言」の関係者は取引価格の見直しの難しさをこう語る。

普通、企業は購入価格を低く抑え、自社の利益を増やそうとするものだ。それを、逆に買取価格を引き上げる方向で検討するとなると、企業としてよほど納得いく理由がなければいけない。

ある社では取引価格の見直しにあたって取引先の財務状況を洗い出し、どれぐらいの期間、従業員の賃金が据え置かれてたままなのかまで調べあげ、それで「適正な価格」をさぐったという。

つまりこれは購買部門だけではできず、会社のトップが「取引価格を見直す」という方針を表明してこそ実現することなのだ。

■そして慈善事業でもない

下請けが賃上げできるように買取価格を引き上げる、これは慈善事業なのか? 否。

財界の重鎮は言う、「強い下請けをつくることも会社として重要なことだ」。

日商関係者もこう断言する、「親企業が一人勝ちしても、下請け企業が倒れたら親企業の好調も続かないですから」。

大企業は、どう受け止めているのか。経団連加盟企業約1500社のうちパートナーシップ構築宣言を行っている企業はまだ190社、全体の14%にとどまる(2021年12月時点)。

経団連十倉雅和会長は「日本の従業員の7割が中小企業で働く。ここを改善せずして日本の賃金所得の向上はない」と述べ、一層企業トップたちに宣言を呼びかけていく意向を示した。

さらに2022年1月半ばに企業に示す予定の経団連の方針(「経営労働政策特別委員会報告」)でも、パートナーシップ構築宣言について「大企業は率先して宣言し、中小企業と持続可能な関係を構築していく」ことを促す。

■「無理難題を言われなくなった」

2021年12月に4000社を超えたパートナーシップ構築宣言。宣言している企業と取引している下請け企業からは「無理難題を言われなくなったので価格をありのまま提示できるようになり、心にもゆとりが生まれた」「支払いが早くなり、資金繰りが改善されありがたい」という声が寄せられているという。

政府は、企業が宣言したとおりに実際に行っているかどうか、今後、調査もしていく方針だ。