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北京五輪競技場全解剖 超厳重コロナ対策も

2021年12月28日 18:00
北京五輪競技場全解剖 超厳重コロナ対策も

北京冬季五輪がまもなく開幕する。外交的ボイコットなどに焦点が当たっている折、海外観客の受け入れも見送られたことから、競技会場にはこれまであまり脚光が当たってこなかったが、日本勢の戦いの舞台は徐々に準備を終えつつある。

会場を紹介するとともに、中国が今回の五輪を通じて世界に向けどんな演出を狙っているのか解剖したい。


■選手村は“無人化”でヒトヒト接触の低減狙う

北京市中心部にある選手村には、スケートやカーリングなど北京の街中で開かれる競技に参加する選手たちが滞在する。選手たちが最初に到着する玄関には、ヒトヒトの接触を避けるための案内ロボットが出迎えた。英語で話しかけてくる。

 「こんにちは!お手伝いは必要ですか?」

試しに「トイレに連れて行って」と話しかけると、記者をトイレまで案内してくれた。

選手村の中にはいくつかのタイプの部屋があり、複数でシェアする部屋ではみんなで囲める食卓も。また、大会関係者はボタン一つで角度を変えられるベッドを紹介。

 「部屋に戻ってきた後、よりよい休息とリラックスしてもらえるためです」

大会期間中は選手村と競技場だけを行き来することになるが、選手村にオープンする各種ショップも徐々に営業を始めていた。コンビニではレジの店員との間が透明な仕切りで完全に区切られていた。中国側は、いわゆるバブル内でも、選手たちと運営側スタッフの動線を完全に分ける対策を取ると説明している。

また、カフェテリアや美容室の他、銀行の支店も開店していた。銀行では日本円やアメリカドルなどの外貨から中国の中央銀行が発行するデジタル通貨「デジタル人民元」に交換できるATMも設置されていた。中国政府は、オリンピックを期に「デジタル人民元」を世界にアピールすることを狙っている。


■日本勢メダル期待、スピードスケート会場は新技術導入

2008年の北京オリンピックの会場の跡地に新設された「国家スピードスケート(通称アイスリボン)」は、外側を開催年である2022年を表す22本の管(リボン)が回っているのが特徴で、中国側が内外にアピールする目玉施設の一つ。

リンクの広さは1万2000平方メートルで、中国側によると、アジア最大。さらに温室効果ガスを一切出さずにリンクの氷を張ることができる新技術を投入したと説明している。

また、フィギュアスケートの会場となる「首都体育館」は、2008年の夏季大会でバレーが行われた、いわゆるレガシー会場。今回の競技会場の中では最も歴史が古く、建設は1968年。1971年にはアメリカと中国の卓球試合が行われ、いわゆる“ピンポン外交”の舞台となった。現地を訪れると古びた外観が印象的だったが、五輪を前にしたお化粧直しか、周辺の各所で工事が行われていた。


■施設再利用で環境対策アピールも…PM2.5も課題

この他、夏の大会で水泳の会場となった「水立方(ウォーターキューブ)」は「氷立方(アイスキューブ)」と名称を変えて、カーリングの会場になる。

またアイスホッケーが行われる2会場、国家体育館、五カ松体育館(※カ は木偏に果)もそれぞれ夏の大会で使われた会場で、中国側としては、こうした施設の活用を通じて節約、環境五輪をアピールする狙いがある。

一方、フリースタイルスキーやスノーボードのビッグエアの会場となるビッグエア首鋼は製鉄工場の跡地を再利用してつくられ、本来、独特の景観が売りの場所だが、取材に訪れるとちょうどその日は大気の汚染がひどく、見通しが悪かった。

中国では、PM2.5の大気汚染は以前ほどではないものの、暖房需要が高まる冬場は時折、大気汚染の警報が出される。中国は今回、“環境五輪”の演出にやっきになっていて、大会期間中だけ周辺の一部の工場が操業の停止を予定するなど、なりふり構わない対策に乗り出している。


■水も電気もない山間部に2年余りで巨大施設

五輪会場は、北京中心部の他に、郊外の延慶、そして河北省の張家口と大きく3つのエリアが設定されている。このうち延慶エリアは、北京の中心部から万里の長城がある観光名所「八達嶺」を超えてしばらく進んだ場所にあり、アルペンスキーとそり競技(通称「雪遊龍」)の2つの会場がある。

この場所は元々、水も電気も道路もなかった山間部だが、習近平政権はここに大号令をかけてわずか2年余りで巨大な競技場を完成させた。

雪も少ないため170もの人工降雪機を配備するなど、いわば“力業”でつくられた会場。近くの展示館では、工事の作業員たちを激励する習主席の写真と共に「しっかり計画を立てて時間通りに完成すべきだ」という習氏の言葉が展示されていた。


■テスト大会は…直前「無観客」に 選手の感染判明も

張家口エリアで11月から12月にかけて、本番そっくりの条件で行うテスト大会が行われた。その会場の一つ、雲頂スノーパークでは、防護服姿の大会関係者も。観客席の看板にはマスクの着用呼びかけと共に、飲食、さらに声援禁止の看板が置かれていた。

また12月初旬、スキージャンプの会場で行われたテスト大会は、直前で無観客への切り替えが決まった。大会中のダンスショーも無人の観客席を前に気の抜けた様子。選手へのインタビューはオンライン形式、取材陣は毎日PCR検査を受けた。

また別の会場では、テスト大会中に選手のコロナ陽性が確認されるなど、感染対策は大きな課題になる。

また、厳しいゼロコロナ政策を取る中国では、万一、陽性が確認されたとき、適切な環境で処置を受けることができるのか不安視する声も後を絶たない。


■中国のいまの“立ち位置”象徴する五輪に

競技会場以外にも、五輪施設に運ぶ物資を集めた「五輪物流センター」などのメディア公開もあった。そこでは、自動で荷物を運ぶロボットや手荷物にまで消毒液を吹きかける様子、環境に配慮した機材など。ゼロコロナやハイテク強国、温暖化対策はいずれも習近平指導部がメンツをかけて推し進めているもので、中国が五輪を通じて発信したい姿が重なる。

大会期間中には新疆ウイグル自治区の人権問題などにも引き続き厳しい目が注がれることになりそうで、まさに今の中国の立ち位置を象徴する大会になりそうだ。