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「外国人に投票権」武蔵野市条例案が否決

2021年12月21日 22:29
「外国人に投票権」武蔵野市条例案が否決

■怒号が飛び交う吉祥寺駅 「住みたい街ランキング」上位常連の街で一体何が

「外国人に投票権を認めたら、大挙して乗っ取られる!」「レイシスト帰れ!」

12月17日、吉祥寺駅前では怒号が飛び交い騒然となっていた。「住みたい街ランキング」で上位の常連となっている吉祥寺。その吉祥寺を含む東京都武蔵野市で、大きな議論となっていたのが外国人に住民投票を認めるかどうかの採決。

■「住民投票で外国人にも投票権を」

武蔵野市は今年11月、住民投票を可能にする条例案を市議会に提出。注目されたのは、日本人と同じ要件で、市に3か月以上居住している18歳以上の外国人に対しても、投票権を与えるとした点だ。

市はホームページで、「外国籍住民に限って在留期間等の特別な要件を設けることには明確な合理性がないと考えている」とし、市が今年3月に実施した市民対象のアンケートでも賛成が73%を超えたという「市民の声」に沿ったものだと説明した。

また、この条例案について市は市議会で、「多様性を認め合う、支え合いのまちづくりが市としての考え方だ。共に地域で生活する外国籍の方の意見を聞かないということは、市の市民自治に対する考え方とそぐわないことになってしまう」と、外国人にも投票権を認める意義を強調している。

■条例案に「待った!」国会議員が相次いで懸念表明

こうした動きに「待った」をかけたのが、武蔵野市を選挙区に持つ自民党の長島昭久衆議院議員らだ。長島氏が問題としているのは「日本人と同じく市に3か月以上居住している外国人に対しても投票権を与える」という点。街頭演説で、「何の要件も満たさずに外国人に投票権を認めるのは異例中の異例だ。要件を付して、条例案を出し直してほしい」と、成立に反対する意向を繰り返し訴えた。

同じく条例案に反対している日本維新の会の石井苗子参議院議員も、外国人の集団移住などを念頭に「3か月だけしか住んでいない人に投票権を与えていいのか」と懸念を示した。

しかし、こうした国政からの声に対し、地方行政に詳しい成蹊大学の武田真一郎教授は、「外国人も住民票で登録され、日本人と同じく税金も納めており、地域の問題に意見を言う資格はある。外国人だけに居住期間の要件を課す合理的な理由はない」とし、「地域の問題を外国人と一緒に考えることは、相互理解の一歩としていいのではないか」と話す。

■導入済みの自治体の実態は?すでに住民投票を導入している自治体の実態はどうなのだろうか?

住民投票で外国人に投票権を認めている自治体は全国で43にのぼるが、その大部分は、居住期間を1年以上とするなど、外国人の投票権に要件を設けている。武蔵野市の条例案とは違い、1年以上居住をしている外国人に投票権が認められている愛知県高浜市、滋賀県野洲市では、それぞれ2016年と2017年に住民投票が実施された。(※いずれも投票率が50%を超えず不成立)しかし、こうした自治体でも、統計上、外国人の数は近隣の自治体と比べて顕著に増えておらず、反対派の懸念するような事態には至っていないのが実情だ。

一方、武蔵野市の条例案と同じく、外国人も日本人と同等の要件にしているのは、神奈川県逗子市と大阪府豊中市の2市のみだが、実際には未だ住民投票は行われていない。逗子市の市民協働課の担当者は、「条例ができてからも外国人の人口は増えていない」とした上で、「条例をめぐって特段困ったことや混乱はない」と話す。

■賛否拮抗(きっこう)する中での採決 2票足りず「否決」

賛成派と反対派の声に揺れる中、21日、武蔵野市議会の本会議で条例案の採決が行われ、自民党や公明党などの反対多数で否決された。松下玲子市長は、「人権が尊重されて、多様性を認め合う支え合いの社会を築いていくことをこれからも考えていく」とし、再度条例案を提出することも含めて検討する意向を示した。

条例案成立に反対していた長島昭久議員は「徐々に市民の関心が高まって、『これはおかしい』と市議会の中間派の議員も反対に回ってくれた。武蔵野市民の良心が示されたということで安堵(あんど)している」と、条例案の否決を歓迎した。

■当事者たちは…海外では地方参政権を認める動きも

この結果を受けて、武蔵野市に15年以上住んでいるというイラン人の男性は「地域に住む外国人も同じ市民だと認めてほしい」と残念がった。前述の武田教授も、「日本は外国人と共生しないといけないのに、相互理解の一歩がつぶされるのは非常に残念」だと話し、「説明が十分ではないという意見があるなら、議論を尽くして条例制定を実現すべきだ」として、住民投票の制度が必要だという認識を示した。

■アメリカでは外国人に地方参政権認める動きも

くしくも今月、アメリカでは外国人への地方参政権を認める動きがあった。アメリカ・ニューヨーク州で、市長選などの地方選について、外国人にも投票権を認める法案が可決されたのだ。法案が施行されれば、ニューヨーク州に30日以上居住していて、合法的に就労している外国人に対して投票権が認められるため、ニューヨーク州に駐在する日本人も投票が可能になる。

ただ、「全米の模範になり得る」と歓迎する声があがる一方で、外国人に地方参政権を認める法案に対し、保守系の共和党議員などが憲法違反だとして提訴する動きもあるという。

今回、武蔵野市で否決された外国人の住民投票への参加。外国人とどのように共生し多様性のある社会をつくりあげていくのかは、日本社会全体に問われているテーマだといえる。

画像:条例案反対を掲げて街頭演説する自民党・長島昭久衆院議員(向かって左側)