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片岡千之助、祖父・仁左衛門を追う21歳

2021年10月29日 20:52
片岡千之助、祖父・仁左衛門を追う21歳

人間国宝である片岡仁左衛門さん(77)を祖父にもつ21歳の若手花形役者、片岡千之助さん。11月歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』では祖父と7年ぶりに「連獅子」で共演します。祖父の教えや舞台への意気込み、そして同世代に伝えたい歌舞伎への思いをお聞きしました。


■「とにかく、“俺の背中を見ろ”」

——祖父・仁左衛門さんとの「連獅子」、心境はいかかですか。

「前回は7年前ですけれども、本当に7年も経ったのかっていう時間の早さを感じながらも全力でぶつかれたらなと思っています。元々小さい時から「連獅子」っていう演目がすごく好きで、“いつか連獅子を僕とやって”、ということをずっと伝えていて、それがちょうど10年前に叶いまして、その後7年前に続いて久しぶりですけれども、常々変わらず嬉しいですね」

「踊りの稽古をしていたらいっぱいダメ出しはありますけれども…とにかく、“俺の背中を見ろ”なんじゃないですかね。基本的に(祖父は)そういう部分が強い人なので、そこは自分なりに感じながら吸収したいなって思っていますね」

 「連獅子」といえば“毛振り”、獅子が長い毛を派手に振り回す様子が有名ですが、実はコツがあるとのこと。首を回しているのかと思えば…。

「基本的には腰です。腰で、体全体で引いて振るっていうのが基本的なやり方です。最後にテンポ上げていくことがあるんですけど、その時にちょっと首を使うことはありますね。(コツは) 引くことです!やっぱり皆さんご覧になってると、出てくる毛のイメージがすごく強いと思うんですけど、その分、何ならそれ以上に引く、引いた力の勢いで(毛を)軽く前に出すっていうのが基本ですね」

——本番に向けての意気込みは。

「とにかく体力つけて病気にならずに、ご飯をちゃんと食べていっぱい寝て、本当に健康体で臨みたいです。やはり7年前の14歳、(10年前の)11歳の時ってある程度頑張っていれば、その仔獅子なりによく見えると思うんですけれども、21歳になってから仔獅子っていうのは一つハードルも上がって、芝居として谷に落とされた仔獅子の駆け上がってくる強さ、親子の愛をもっと感じていただけるように頑張りたいなと思いますね」

 何度も勤めたことがある役だからこそ、年齢を重ねるごとに難しいと話す千之助さん。その思いの背景には、やはり祖父・仁左衛門さんの姿がありました。

「どんな演目でもそうでしょうけれども、常に成長したいじゃないですか。やはりそれは僕の祖父の姿を見ていても、毎回どれだけお客様に素晴らしかったと言われても、自分の中ではまだまだという気持ちがあって、毎日映像見て、本当に常に努力をしている人なので。歌舞伎役者っていうのは基本的には死ぬまでじゃないですか。生涯現役なので、現役であるうちは、常にその姿を見習って成長したいなと思いますね」


■「この人誰だろう、とフォローして、歌舞伎役者なんだ!でもいい」

——新しく始めたことは。

「本当にただの若者というか学生の趣味なんですけど、俳優の友達とよくゲームしていますね。筆頭は新田真剣佑くんで、彼の人脈と僕の共通の友達もいて、プロゲーマーの人たちとも一緒にやっていただいて、本格的ですね(笑)」

気がついたら5、6時間もゲームをしてしまっているという千之助さんは夜型で、朝がとても苦手とのこと。現役大学生であるため、朝が苦手とも言っていられず…。

「授業を取る時、1限…2限がギリギリかなと。本当に難しいところですよね。行けば(単位を)取れるけれど、行くのか俺!?みたいな(笑)出席できなかったら元も子もないじゃないですか。そこの戦いは履修登録でありましたね」

——同世代に歌舞伎を知ってもらうには。

「簡単なのは…今SNSあるじゃないですか、“この人誰だろう”とフォローして歌舞伎役者なんだ、歌舞伎の舞台を見てみたい!でもいいですし。最近、僕思うに若干僕らの世代って古いものに対しての興味がちょっと多い気がするんですよ。文化的なものとか、日本の昔の技術とか。歌舞伎もこの流れで興味持っていただけたらいいなと思いますし、衣装に対してでも大道具でもいいですし、もちろん芝居、役者でもいいんですけど、それぞれ自分の好きなところに着目していただいて、そこから色々知っていただけたら面白いなと思いますね」

——千之助さん自身もインスタグラムでの発信において、こだわっていることが…。

「僕、ファッション系の仕事をやらせていただくことがあるんですけども、その投稿が多くて…たまに知らない人からすると、この人モデルなのかな?から始まって、歌舞伎役者なんだ!って言ってくれることもあるので。歌舞伎とはまた違うファッションの世界の投稿もしながら、その月にやっている(公演での)化粧した姿とかをあげていますね」

——最後に、どのような歌舞伎俳優を目指しているか。

「祖父がよく“人に求められる役者になってほしい”というので、僕はその幕内(裏方の方々)だったりお客様だったり、とにかく周りの人に求めていただける役者。やはり僕の中での特に憧れて尊敬しているのが祖父だったり、十八代目中村勘三郎のおじさまだったり、諸先輩方がいらっしゃる中で、それぞれその時代の歌舞伎を守られて、そしてさらにその歌舞伎を伝統の中で進化させていく、その姿を見ていると、その時代その時代に求められる役者さんが僕の憧れですね」


◇◇◇
若い世代が歌舞伎に触れるきっかけがなかなかないと話していた千之助さん。同世代に歌舞伎の魅力を伝え、広めていくにはどうしたらいいのか、もっと古典を見てほしい…人一倍、真剣に考えていらっしゃる姿が印象的でした。千之助さんの同級生は積極的に歌舞伎を観劇してくれているとのことで、それが本当に嬉しいと目を輝かせていました!祖父・仁左衛門さんの背中を追いながら、様々な分野で挑戦を続ける千之助さんに注目です!

【片岡千之助(かたおか・せんのすけ)】
2003年7月、初お目見え。2004年11月、『松栄祝嶋台』お祭りの若鳶千吉で初代片岡千之助を名乗り初舞台。


【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。