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「木を切らない」は時代遅れ?木の可能性

2021年9月21日 8:32
「木を切らない」は時代遅れ?木の可能性

「環境のために木は切らずに大切にしよう」という考え方は、時代遅れかもしれない。地球温暖化を防ぐため、木を“適切に利用する”ことが注目されている。木を使うことが地球温暖化とどう関係するか「C(炭素)」に注目しながら考えた。

■木は大気中のCO2を吸収して育つ

木にとってC(炭素)は栄養だ。木、植物は成長するときに、大気中のCO2(二酸化炭素)を吸い、Cを体に蓄え、O(酸素)を大気中に吐き出す。つまり、大気中のCを減らす効果があるといえる。

そう聞くと「木は切らない方がいい」と考えるのが妥当だが、なぜ「木を切ったほうがいい」という議論が進められているのか。音楽家・坂本龍一さんが代表を務める森林保全団体more treesの事務局長で、日本各地やアジアで森を健全な状態に保つ様々な試みをしている水谷伸吉さんに解説してもらった。

「木も人間と同じ様に、一定の年数が経過すると、成長スピードが徐々に遅くなります。だから、ある程度成長した段階で切っていかなければならないんです」

成熟してCの吸収率が下がった木を切り、新しい木を植えた方が、大気中のCが減らせるということだ。さらに、木を切らない状態は、他の木の成長を阻害する要因になるともいう。

「木を切らない状態が続くと、過密で密集した状態になってしまい、地面に光が差し込まなくなってしまうんですよね。そうなると、お互いの成長を阻害するような悪影響も起きます。日本の場合は、戦後に木材資源が足りないということで、全国的に植林が奨励されていました。その結果、全国的にスギやヒノキがかなり増えました。植えてから50年、60年と経ち、木は十分に成長して使ってもいい状態になっていますが、きちんと使われずに過密な状態の森が増えているのが現状です。

世界の木を伐採して、輸入して使うのがいいというわけではありませんが、日本で戦後から育ててきた木は使える状態になっているので、それを僕らの生活の中に取り込んでいくということが大事だと思います」



■活用先が広がる日本の木材

十分に成長した木を利用するといっても、燃やせば木に蓄えられたCが大気中に戻ってしまう。燃やすのではなく、家具など生活の中で木のまま保ち続けることが大事だという。

「木を伐採するとそれ以上のCを吸収することはありませんが、それを家具などの木材として燃やさなければ、いわゆるCの貯蔵庫になっている状態です。大気中に放出されることなく、木の一部として存在し続けるわけです」

最近では、木材の活用先として、木造の高層ビルの建設なども進んでいる。例えば、今年10月には東京の銀座に日本で初めての耐火木造の12階建ての商業施設ができる予定だ。

また、今年3月にできた「桐朋学園宗次ホール」は、木材がふんだんに利用されている音楽ホール。木材が織りなす音の柔らかさや響きが特徴だという。さらに、大手ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営する株式会社ZOZOの新たな本社でも、屋根や壁に多くの木材が使われている。

さらに、こうした木材の利用を促すための法律も整備されている。今年6月に、木材利用促進法が改正され、脱炭素社会を目指して公共建築物だけではなくて民間の建築物にも木材利用を促進することが推奨されている。また、森林の適正な整備を後押しする内容も含まれており、今年の10月に施行される。



■正しく木を活用する

木材利用が推奨される中、やはり国産の木材を選択することが重要だと水谷さんは話す。

「国産の木材は一般的に、外国の木材より二重の意味でエコだといわれています。1つ目の理由は、海外の木材の中には残念ながら違法伐採されて日本に運び込まれているような木材も混ざっているからです。また、仮にそうでなかったとしても、わざわざ国外からCO2を吐き出して運搬するコストや環境負荷を考えると、身近な日本国内の木材を使うことに意義があると思います。

現在、日本の木材自給率は残念ながら37%程度ぐらいで、裏を返すと6割以上は輸入に頼っている状態です。その背景としては、海外から、安定した規格のものを大量に輸入しやすかったことがあります。環境のためにも、日本の山村の活性化のためにも、適正に切られた日本の木材を使っていくことが大事です」

国産の適切な木材の活用について、WWF(世界自然保護基金)ジャパンで地球温暖化に関する情報発信に取り組む市川大悟さん、防災の観点からも重要な取り組みと話す。

「Cのストックは、気候変動を抑制するという観点だけでなく、防災の観点でも大切と感じました。今後、気候変動の影響で雨が強く降ったり、災害が起きやすくなることが懸念される中で、健全に保たれた森でないと自然災害が起きる確率が高い。災害を抑制するという観点からも、国内の森を健全に、適切に手を入れていくことは、これまた重要。Cの貯留にプラスアルファして重要な取り組みだなと感じました」

身の回りにある木材が、どこから来たどんな木材なのか。それを意識することも、私たちにできる一歩なのかもしれない。

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この記事は、2021年8月27日に配信された「Update the world #8 あ゛づい…地球はどこまで暑くなるの?」をもとに制作しました。
 
■「Update the world」とは日本テレビ「news zero」が取り組むオンライン配信番組。SDGsを羅針盤に、社会の価値観をアップデートするキッカケを、みなさんとともに考えていきます。