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“45歳定年発言”そこにいた経営者たちは

2021年9月18日 15:01
“45歳定年発言”そこにいた経営者たちは

炎上した「45歳定年制導入」発言は、経済同友会のセミナーで提案されたものだった。同席した企業トップらはどう答えたのか? 45歳定年だけでない、雇用環境の変化とは。

■「優秀な商社マンでも転職先苦労」(ロッテホールディングス・玉塚元一社長)

「転職相談をよく受けるんです。大手商社や金融の50代半ばから後半。MBA持っていて、海外駐在経験あり。英語もしゃべれる。ヘッドハンターを紹介するが、なかなか転職先が決まらない。これ喫緊のテーマです」

こう明かしたのは玉塚元一氏。自身はファーストリテイリング社長、ローソン社長などを歴任し現在、ロッテホールディングスの社長を務める、企業から企業を渡り歩くいわゆる“プロ経営者”だ。 

発言の場はおよそ40人の企業経営者らが参加するオンラインセミナー。経済同友会が今月9日に開催したものだ。

「(サントリーホールディングスの)新浪さんから45歳定年制、提案ありましたが、ぼくは賛成」

新浪氏の提案とは、「生産性向上のために45歳定年制などを導入し、従来型の日本の雇用モデルから脱却しよう」というものだ。(翌日、「制度というのは言い過ぎだったかもしれない」と修正) 

玉塚氏は45歳定年という考え方に賛同を示したあと、先の優秀な50代でも転職先を探すのに苦労しているという身近な例を紹介。「50歳で会社から放り出されても非常に困る」ので、企業間で連携して人材の流動化がうまくいく仕組みをつくることが必要だと唱えた。

このセミナーでは、多くの経営者が「人材の流動化」や「ダイバーシティ」の進まない日本に危機感を示した。すでに具体的な人材施策を進めているのは日本IBMだ。

■「多様性、面倒くさいです」(日本IBM・山口明夫社長)

「社員が3年働いて他社に行き、4年働いて戻ってくる。2年育児休暇をとる。(リカレントで)大学に3年行く。また会社に戻ってくる。それがいいんじゃないのと」

「IBMにいる間は『良かった』と思ってくれる会社にする。そのためにスキル向上の支援はしっかり行う」という。企業が人材育成にかけるコストは大きいはずだ。にもかかわらず社員を抱え込もうとしないのは、なぜなのか? 山口社長に聞いた。

――社員が外に出てキャリアアップして戻ってくることを期待?

「戻ってきてくれればうれしいですが、そうじゃなくても良い。外で活躍いただいて、業界をまたいで仕事ができれば」

つまり日本IBMの社員が今度は取引先の銀行や自動車メーカーなどに転職しても、「共創」という形で関われれば、それが日本IBMにとってもプラスになるという考え方だ。

「育児や介護で休職というのもあるが、その間(IBMを辞めて)もっと楽な会社で働いた方が良いという人もいる。通いやすい地元の会社で頑張りますとか、NPOで働いて人生見つめ直したいとか」

それぞれのライフスタイルに合わせて休職や復職など柔軟に応じているという。また、採用では多様性を意識し、新卒採用600人程度に対して、中途採用は800人から1000人。中途採用を大きく増やしている。

経営陣もアメリカ、オーストラリア、デンマーク、韓国と多様な国籍からなり、転職経験者や女性も加えダイバーシティを維持している。

「面倒くさいです」、思わず本音が出た。

「多様性の中で議論しようとするとお互いの意思疎通に時間がかかって面倒くさいです。だけど、それ以上に何か得られるものがあると思って、なんとかがんばってやってます」

■「下積みが長いのはもったいない」(ブイキューブ・間下直晃社長)

一方、駅構内などで見かける電話ボックスのようなテレワークスペースを展開している「ブイキューブ」社長の間下直晃氏(43)は、「日本では定年が延びる傾向にあるが、(逆に)どうやって早められるか。社員の経営層への昇格をいかに早くできるかが大事」だという。その真意を尋ねた。

「日本では経営層に昇格する年齢が海外と比べて5歳から10歳遅い。これが競争力の差になっているはず」「優秀な人が管理者になって能力を発揮するまでにすごく時間がかかる。下積みがやたら長いのはもったいない。若いうちは『体力』『新しいことへの受容性』『チャレンジへのモチベーション』もあるし、若いほど変化に強い」

一方で、若者だけが良いわけではなく、経営層の年齢のダイバーシティも必要だとの見解を示した。さらに、早期退職したあと資産運用しながら、次のチャレンジや趣味の生活ができるよう、企業や学校が金融リテラシー教育をすることも必要だとした。

■「カーボンニュートラルで人材流出」懸念(全日本空輸・平子裕志社長)

コロナ禍で深刻な影響を受けている航空業界からは、人材の流動化に対するセーフティーネットを求める声が上がった。

「カーボンニュートラルに向けて、どう見ても日本経済社会が変わらざるを得ない。人工知能(AI)、DXもますます進展してくるし、労働市場における需要と供給のミスマッチが必然的に起きてくるんだろうと思う」(全日本空輸・平子社長)

産業の変革に伴い、人材の需給でずれが生じるとした上で、「一番怖いのは、市場がなくなったからと、優秀な人材が海外に流出すること」と指摘し、政府に、セーフティーネットを求めた。

 ◇◇◇ 

サントリーHD・新浪社長の「45歳定年」提案をきっかけに、いよいよ「一つの会社に一生勤め上げる」が当たり前ではなくなったという実感が広がっている。

経営者の頭の中をのぞくと、従業員の流動化や多様化を進めていかなければ「競争に勝てない」という危機感があった。

しかし一方で、今いる社員が落ち着いて業務に当たれなければ、社員の力を引き出すことはできないだろう。

セミナーで出た「会社が人事で人を使う時代から、社員が会社を上手に使い倒す、成長するという会社にしたい」(リコー・山下社長)という発言。働き手が会社とどうつきあうか、考えるものさしになるかもしれない。

(写真は「経済同友会 夏季セミナー2021」より)