ワクチンに異物混入…問題は 専門家に聞く
新型コロナウイルスの政府の政策決定やワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに、今更聞けない素朴なギモンから最新情報のアップデートまで聞く企画。
第9回は、日本ワクチン学会理事でもある『JA静岡厚生連 静岡厚生病院』の田中敏博医師を取材した。
◇
モデルナ製の新型コロナワクチンの異物混入問題などを受け、日本ワクチン学会は6日、「ステンレスの微小片が接種されたとしても、全身的な症状を起こす可能性は低いと考えられる」、「接種直後のアナフィラキシーの原因になる可能性は低い」などとする見解を公表した。
見解の作成に関わった田中敏博理事に聞いた。
■ステンレス混入・・金属アレルギーの人は?
──回収ロットの異物はステンレス。仮にステンレスが体内に入ったときの影響は?
(今回見つかったステンレスは)手術でも使える、人工関節とか人工弁にも使われるもので、直接その成分が人間の体に害を及ぼすのは考えにくいです。
また、針の穴を通らないと注入されないかなり微小片の金属が、体の中で悪さをする、悪い影響を与えるというよりは、打った局所で包み込まれるようにして落ち着いていくことが予測されます。
──金属アレルギーの人が接種しても影響はない?
可能性はもちろんゼロではないと思いますが、人工弁とか人工関節として使用の十分な経験がある物質ですので、過度に心配する必要はないのではないでしょうか。
また、金属によるアレルギー反応というのは、アナフィラキシーのような顕著なアレルギー反応を起こすタイプではないので、大きな心配はないと見解を示しました。
──回収ロット以外でも、ゴム栓のような異物も見つかった。こちらを接種した場合の体内の影響は?
例えば風船に使われているような「ラテックス」という成分のゴムであれば、アナフィラキシーを起こすようなアレルギーが知られています。
しかし、ワクチンに使われるゴム栓の成分からはラテックスは取り除かれているので、ラテックスアレルギーの方でも安全に接種が受けられるような環境が整っています。
──そもそも今回のようなワクチンの異物混入はよくある?
ワクチンは、非常に高いレベルで規制、監視されています。目に見えてバイアルに異物が入るということは、よくあることでは決してない。非常にまれな事象が、日本向けの中に紛れ込んでしまったという展開だと思いますが、引き続き調査の追加情報を待ちたいと思います。
──自主回収対象のロットを接種した3人の死亡については
調査・検証を待つことにつきます。正確な情報を待ちたい。推測だけで怖い、危ないという方向性で進めないようにしたいなと思います。
■異物混入と感染のリスク、どう比べる?
──異物混入のワクチンを打つかもしれないリスクと、コロナ感染のリスクを比べ、接種するか悩む人もいます
(異物混入は)非常にまれな事象で、接種前に目視のチェックで(異物の注射器への)吸入にまでいきつかない状況が、二重三重に取られていますし、この問題が生じてすぐに(自主回収されて)ロットは使われていない。
さらに、より気をつけてチェックしていると思いますので、安全性は高まっていると考えてよろしいかと思います。
■異なる種類のワクチン接種の導入検討・・問題は?
──ファイザーとアストラゼネカなど種類の異なるワクチンを1回目・2回目に受ける「併用接種」について日本で議論されている。学会の見解に「ワクチンの供給不足により接種が遅れた場合には、現状の感染の流行が災害級の非常事態であることから併用接種も選択肢にいれることを提案する」とあるが、現在は、やっていい状況ということか?
河野ワクチン担当相が「十分な量のワクチンが供給される体制ができた」と会見でも話しましたが、それであれば、基本的には、本来の使い方、同じワクチンを適正な間隔で2回打つということが進められるべきだと思います。
ただ、現場では色んな状況が各地域で起こっていると聞きますし、今回のような異物混入のようなことが起き、一刻も早く打ちたいと思っている人が待つようなことがあちこちで起きるような状況があれば、検討に値すべきじゃないかということで、今回の見解で、踏み込んだ形で示しました。
──別の種類のワクチンを打つことで、より抗体価が上がるとの海外の研究データもある。むしろ希望して併用で打ちたい人がいた場合は?
難しいですね。(様々な種類が混在することで会場で起きる問題として)打ち間違いと紙一重になってきますし、混乱を避ける意味でもやはり同じワクチンを打つのが第一義かと思います。
また(海外の研究データも)治験並みの十分なサンプル数ではありませんので、それだけを頼りにそちらに走るということはおすすめはできないと思います。
■ブースター接種・・やるなら接種何か月後?
──2回接種が完了した人に、さらに3回目を追加するいわゆる「ブースター接種」についての見解は
一旦上がった抗体価が下がるということは、これはどの種類のワクチンでも一定期間すれば認められることです。(ファイザーなどの)mRNAワクチンは、最初に得られた抗体価が極端に非常に高くて、(しばらくして)落ちてるようにみえたとしても、十分な感染防御ラインがまだ保てる中での変化の可能性もある。下がった値で効果がどうなんだという検証がまずは必要です。高い値が下がったから「じゃあブースターだ」というのはちょっとやや早いのかなという感じもあります。
──現実的には、3月4月頃に先行接種した医療従事者や早く打った高齢者にとっては迫る話だが、ブースター接種するならいつ頃から?
何ヶ月経ったら打つのがいいというのは、データをしっかりみてから判断すべき事柄だと思います。まさしく未知の領域に踏み込んでいるので、みんな心配してることだとは思いますけど、今の時点では回答は難しい。
──日本は、ワクチン接種が欧米より出遅れたこともあり、ブースター接種は遅れたくないという気持ちもあると思うが
いま現在は(接種希望者で)打っていない人がいるという現状をまずは解決すべきです。
また、世界を見渡すと、日本はそれでも先行しているわけで、いまだワクチンが届いていない地域、国がある。グローバルに考えると、まずは広く行き渡らせ、次の段階の準備をしながら考えていく。
日本ワクチン学会としても、「国内のことだけ考えていればいいのじゃないよ」ということは、メッセージとして見解に込めました。
■田中敏博
日本ワクチン学会理事
JA静岡厚生連 静岡厚生病院
小児科医師