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航空機で台風の目へ 直接観測の期待と課題

2021年8月28日 18:22
航空機で台風の目へ 直接観測の期待と課題

毎年日本に接近・上陸する台風。この台風の「強さ」の予測は衛星画像などを解析し、「推定」で行われています。こうした中、台風の強さを正確にとらえようと、航空機で台風の目の中に入って直接観測する取り組みが進められています。明らかになってきたことは?

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2019年10月、東日本に大きな被害を出した台風19号。中心気圧は915ヘクトパスカルまで急速に発達し、その後、伊豆半島に上陸しました。そして去年9月の台風10号。こちらも915ヘクトパスカルに匹敵する勢力に。最大級の警戒がよびかけられました。

気象庁・国交省会見「自分の命、大切な人の命を守るため、早めの対策をお願いします」

しかし実際は940ヘクトパスカルと、やや勢力を落とし九州の西を通過。予測には誤差があったのです。

■「台風発生」のプロセス

「台風発生」のプロセスは、まず、温かい海の上で水蒸気が雲になります。これがまとまって渦をつくると渦の中心の気圧が下がり、海からさらに水蒸気を吸収して、勢力が強くなるとされています。その予測方法は、主に衛星画像の解析、雲のパターンなどから勢力を推定しています。近年、「進路」予測の精度は高くなりましたが、勢力「強さ」については精度の高い予測が難しいのが現状。なぜなのでしょうか。

■強さの予測が難しい理由とは

台風の発達メカニズムを研究している名古屋大学の坪木和久教授。強さの予測が難しい理由を、聞いてみました。

坪木教授「以前より急速に発達するものが増えている。台風の強さなどを正確に知ることは防災対策の上で、最重要な要素の一つに」

そこで坪木さんたちの研究チームは、航空機で台風の中に入る“直接”観測の実験を4年前から始めました。航空機で、台風の上まで行き、装置を投下します。直接観測しないと、台風の強さを正確に知ることはできないと、坪木さんたちは考えています。

投下するのは「ドロップゾンデ」という観測装置。温度や湿度、気圧などを調べるセンサーが取り付けられています。

■台風の目へ!

2017年10月に超大型で強い勢力を保ったまま静岡県の掛川市付近に上陸した、台風21号。坪木さんたちは、この台風21号の巨大な雲の上に向かいました。徐々に、台風の目に近づいていきます。

台風の目を見つけました。中心付近には雲が少なく、その下には海も望めます。投下したドロップゾンデから、観測結果が送られてきました。調査の結果、予測と実際の気圧には、10ヘクトパスカル程度の誤差があることがわかりました。

例えば10月21日は予測より強い勢力、翌日10月22日は予測より弱い勢力でした。

台風の中心気圧は10ヘクトパスカル強くなると、風も秒速で10メートル程度強くなるということです。坪木さんたちは、2018年から、観測したデータを気象庁に送り、台風観測に役立ています。

■今後の台風観測は

今後の台風観測について、聞いてみました。

坪木教授「(Q:直接観測は全ての台風で可能でしょうか?)経費的にもマンパワーの面でも難しいと思います」

坪木さんは、将来的には、無人航空機を使った観測を考えています。

坪木教授「無人機なら、1週間、1か月と成層圏にとどまってられる。成層圏から台風を監視して、必要に応じてドロップゾンデを投下する。そうすることで全ての台風、少なくとも日本に接近する台風の観測が可能になると考えています」

坪木先生によると、台風の目の中は静寂につつまれていて、あたかかく感じたそうです。台風は、これからさらに接近・上陸する季節なので、気象予報を確認し、早めの備えをお願いします。