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東京五輪 南スーダン選手らついに帰国

2021年8月26日 22:45
東京五輪 南スーダン選手らついに帰国

東京オリンピック・パラリンピックのため、群馬・前橋市で1年9か月に及ぶ合宿を続けてきた南スーダンの選手ら5人。ついに26日、日本を離れ、帰国の途についた。選手らにとって前橋市は、「第2の故郷」となった。


■選手の支援は「ふるさと納税」で

2019年11月。東京オリンピック・パラリンピックに向け、陸上競技・南スーダン代表の選手4人とコーチの5人は、前橋市に到着した。

宗教や民族の対立から紛争が絶えない南スーダン。マイケル選手は「南スーダンの多くの人は1日一度しか食事がとれない」「トラックもハードルもない」と話す。母国では、整った環境での練習ができないという。

こうした状況を知った前橋市は、「スポーツを通じた平和促進」に貢献したいとの考えから、早期に南スーダンの選手らを受け入れ、東京大会延期後も支援を続けてきた。選手らの滞在にかかる生活費は、3000万円以上集まった市の「ふるさと納税」でまかなった。さらに、支援の一環として、日本語学校に通う機会を用意。選手たちは、日本語や習字などの日本文化、そして、パソコンの使い方を学んだ。


■希望と感謝を胸に快走

慣れない日本での生活。選手たちを支えたのは、練習の指導や通訳を担う市民ボランティアの存在だった。冬の寒さに慣れていない選手たちに手袋やネックウォーマーを用意したり、怪我をしたときには整骨院に連れて行ったりと、全面的に選手たちをサポートした。

通訳ボランティアとして選手らを支えてきた松村文雄さんは、大会前、「開会式で選手が国旗を振り、歩く姿を見たら涙がでてしまう」と話し、大会を心待ちにしていた。

前橋市の人たちの手厚いサポートもあり、選手たちは全員が自己ベストを更新するなど、大会に向け、着々と準備を進めていた。

東京オリンピック開幕まで1週間となった先月16日。市内で行われた壮行会で、陸上・男子1500mのアブラハム選手と女子200mのルシア選手は出場権を獲得したことが発表された。

しかし、男子400mと400mハードルの出場を目指していたアクーン選手と、パラリンピック男子100mの出場を目指していたマイケル選手は、出場できないことが明らかになった。マイケル選手については、南スーダンの国際パラリンピック委員会加盟が間に合わなかったことが理由だった。

壮行会で、出場できない2人の選手の分も頑張ってほしいと激励されたアブラハム選手は、日本語で「南スーダンと前橋市のために最善をつくす」と決意を口にした。

そして今月、ルシア選手とアブラハム選手は、夢の舞台である国立競技場で快走。2人とも予選敗退したものの、アブラハム選手は自己ベストを更新し、南スーダン記録を樹立した。

アブラハム選手は大会を振り返り、「自分の人生で最も素晴らしい瞬間だった。前橋市の人のサポートのおかげでベストの走りができた。前橋市は第2の故郷だと思っている。感謝している」と話した。

また、紛争が続く母国に対し、「オリンピックは平和の祭典。平和が国の発展と幸せのために最も良い手段だということを伝えたい」と話した。


■「ありがとう前橋」母国へ帰国

大会後、前橋市に戻った選手たち。世話になった人への挨拶や地元の人との最後の交流を行った。

そして1年9か月に及ぶ合宿を終え、ついに帰国の日を迎えた。見送りに駆けつけた前橋市の人たちにアブラハム選手は、「家族に会えるのは楽しみだが、すてきな前橋市の人たちと良い時間を過ごしてきたので、寂しい気持ちが半分だ」と述べた。ルシア選手は「またすぐに会えることを願っている。サポートし、親切にしてくれてありがとう」と話し、目に涙を浮かべた。また、アクーン選手は、前橋市で学んだ日本語で「ありがとうございます、前橋」と感謝の言葉を口にした。

選手らの来日以来、サポートを続けてきた前橋市役所・スポーツ課の萩原伸一さんは、「前橋市で学んだ日本文化やスポーツなどを南スーダンで伝え、平和につなげてほしい」と話している。

1年9か月。異例の長期合宿を終えた南スーダンの選手らは、多くの市民に見送られ、前橋市を出発。26日午後10時半ごろ、成田空港から母国へと飛び立った。

前橋市は今後も、南スーダンから年間2人のスポーツ選手を受け入れ、日本文化を学び、トレーニングに励んでもらう計画を予定しているという。今回の長期合宿を通じた交流は、前橋市における“東京2020大会のレガシー”として残っていく。


画像:市役所前で見送られる選手(群馬・前橋市 26日)