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“マスクがつけられない”コロナ禍のわたし

2021年8月25日 14:35
“マスクがつけられない”コロナ禍のわたし

デルタ株による感染拡大が続く中、日常生活に欠かせなくなったマスクですが、マスクをつけたくてもつけられない人がいます。後ろめたさを感じながら生活している人に話を聞きました。


■マスクがつけられない大学教員、学校に行けず自宅待機。

マスクをつけたくてもつけられない人がいます。首都圏の大学に勤めるAさん。原因は肌荒れではなく「感覚過敏」。

「感覚過敏」とは五感と呼ばれる視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚などが非常に過敏に反応する状態のことです(※平衡感覚などでもおこることがあります)。

大学教員のAさんの場合は、幼少期から鼻の先に何か触れるものがあると、めまいや吐き気、頭痛がひどくなるため、マスクを長時間つけられないといいます。このため、勤め先の大学に通えず対面授業ができなくなりました。

大学教員Aさん
「大学内はマスクの着用が義務なので、自宅でオンライン授業の対応が続いています」

Aさんは、マスクを着用しなくても対面授業ができるよう、アクリル板の設置やソーシャルディスタンスを保った授業の提案をしましたが……

大学教員Aさん
「学校側からは『感染対策が不十分なため対面の授業をお断りします、先生のご提案の形での授業はできません』と言われました」

変化せざるを得なかった働き方。


■マスクつけられない…「他人に顔を見られないように」

愛知県在住のBさんも マスクがつけられない一人です。発達障害があるBさんは、マスクをつけたくてもつけられないといいます。

愛知県在住のBさん
「マスクをしていないことが後ろめたい、他人に顔を見られないように生活をしています。感染拡大も世間の目も怖いので外出したくないです」

Bさんは、“触覚”と“嗅覚”が過敏だといいます。

愛知県在住のBさん
「マスクのゴムを耳にかけられません。つけると後ろから『ギュッ』と締めつけられているような感覚です。肌にあたると“もう嫌”と拒絶反応をしてしまいます。ニオイもダメなのでつけられません」

マスクをつけていない人が目立ってしまう、コロナ禍の社会。Bさんは自分が避けられているのではないかと感じています。

愛知県在住のBさん
「駅のホームで待っている時も、多くの人が私のことをジッと見てきます。避けられている感じがします。私は下を向いたり、電車の壁や窓側を向いて人と顔をあわせないようにしています」

先月、ワクチン接種についてコールセンターに問い合わせをすると、こう言われたといいます。

愛知県在住のBさん
「『マスクをしていない方は入れません』と言われました。私が『タオルで口を押さえてもダメですか?』と聞いたら『ダメです』と……理由は『マスクをしてない方がいると会場にいる周りの方が気になるので』と言われました。自分が否定された感じです」

Bさんによると、ワクチンの接種会場では、マスクのかわりにフェイスシールドを着用すれば接種できるということですが、Bさんはフェイスシールドもつけられません。


■「脳の中で感覚が強く感じてしまう」

なぜ、マスクをつけると過敏に反応するのでしょうか。国立障害者リハビリテーションセンター研究所の和田真室長に話を聞きました。

和田真室長
「感覚調整の問題が考えられます。例えば、マスクをつけた時、ゴワゴワを感じても次第に慣れていきますが、感覚過敏の方は脳の中で感覚信号の調整の問題により、常に脳が不快と認識してしまうのではないか。感覚を強く感じてしまいやすいことが感覚過敏の原因ではないかと考えられます」

同センターが行った調査によりますと、発達障害がある人の56%が「がまんしてマスクをしている」「マスクをすることが難しい」と、着用に困難を感じているということです(※「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う発達障害児者および家族への影響」調査:去年7月~8月 発達障害の当事者352人が対象)。


■“マスクがつけられません”を可視化した高校生。

マスクがつけられないことが周囲に理解されづらい現状に声をあげる高校生がいます。自身も感覚過敏の加藤路瑛さん、15歳。過敏を通して暮らしやすい社会をつくろうと「感覚過敏研究所」を立ち上げました。

加藤路瑛さん
「感覚過敏は目に見えないもの。当事者でさえ表現が難しいのに、他人に伝えることはさらに難しいんですね、過敏を知ってもらうために意思表示として“マスクがつけられません”と書いたシールやバッジなどをつくりました。全国の自治体のワクチン接種会場や病院などにシールを寄贈するプロジェクトを行っています。(可視化することで)当事者の解決の一つの方法になればと思います」


■対立ではなく「まずは知って、うけとめて」

加藤路瑛さん
「感覚過敏の人は外出を控えたり、人混みを避けたり、なるべく感染防止に向けて注意を払っています。マスクがつけられる人からすると怖かったり『なぜつけないの?』と思うかもしれないけど、まずは知って受け止めてほしいです。対立するのではなく、コミュニケーションのきっかけになればいいなと思います」


■厚労省「国民の皆様のご理解を」

感覚過敏の人は、どう感染対策をとれば良いのでしょうか。国立障害者リハビリテーションセンター研究所の和田真室長は、「不織布マスクをつけるのが難しい場合でも、布であれば装着は大丈夫、という人もいます。素材を工夫することで対策をとってほしい」と話します。

また厚生労働省は、「発達障害のある方は、感覚過敏といった障害特性により、マスク等の着用が困難な状態にある場合があります。障害特性により、マスク等の着用が困難な方に対する国民の皆様のご理解をお願いいたします」と呼びかけています。