東京から埼玉「県またぎ」搬送…緊迫の病院
新型コロナウイルスの深刻な感染状況の悪化が続く中、「制御不能の状況」と指摘された東京で入院できない患者を埼玉県の病院に県をまたいで受け入れてもらう事態になっています。重症患者を受け入れる埼玉県の病院内部に密着しました。ほぼ満床になるほどひっ迫。一年以上患者を診察してきた医師も、最近は「恐怖」を感じているといいます。
◇◇◇
■ICUに収容しきれず…重症患者増で
埼玉県で新型コロナウイルス治療の中核を担う埼玉医科大学総合医療センターを10日訪ね、医師の指導のもと、病院内部の様子を取材しました。
「いろんなところから相談が、ひっきりなしです」
そう話す岡秀昭教授(46)。取材を始めてすぐ、電話が舞い込んできました。コロナの疑いがある発熱患者を診察した直後も電話があり、鳴りやみません。
原則として中等症の患者が入院するエリアについて、岡教授が説明してくれました。
「向こう(別のフロア)のICU(集中治療室)に収容しきれないほど患者さんがいて、普通(中等症以下)の病床に人工呼吸器の患者さんを入れざるを得ない状況になっています。そこまでして、重症の患者を受け入れているということです」
■第5波「ほとんど基礎疾患なし」
病院内のカンファレンスで「あ、(肺炎像)出てるな」とつぶやく岡教授。映し出されていたのは都内に住む40代女性のCT画像です。
岡教授
「昨日(9日)電話で報告を受けたのは、夜中の2時に救急搬送の依頼があって、朝10時までどこも見つからなくて、うちに依頼が来て受け入れたという話だったけど」
自宅療養中に容体が急変しましたが、都内では約8時間、病院が見つからず、受け入れることになりました。こうした、都内の患者を受け入れるケースが一週間ほど前から出てきています。
別の医師
「やっぱりね、(従来型とデルタ株は)全然違うんだよ、このウイルスって」
岡教授
「この何十年で最悪のウイルスですね」
連日の入院要請で、ほぼ満床の状態が続く中、取材した10日はさらに2人の中等症患者を受け入れることになりました。27床に24人が入院していましたが、26床が埋まりました。
受け入れた患者には、第5波ならではの特徴がありました。
2人の患者について岡教授は別の医師と、基礎疾患や肥満の有無を確認しますが、いずれもありませんでした。岡教授は1人の50代患者の状況を見て「もう本当に、基礎疾患なくなってきたね。ほとんど(の入院患者が)基礎疾患なくなってきた。でも、これ(2人のうちの1人)もそんなに(症状)軽くないですよ」と話しました。
■中等症患者に「ここ数日が勝負」
岡教授は、カメラの前で本音を漏らしました。
「ちゃんと防備はとっているけど、今まではお年寄りが多かった。だから自分は大丈夫かなって。1年以上患者を診察していて、実際にうつってないし」
「(ただ最近は)自分より健康そうな人まで重くなるので、それを見ると、ちょっと(診察エリアのレッドゾーンに)入るのが怖くなりましたよね。でも仕事なんで、やらざるを得ないですけどね」
1年以上、コロナ患者を見続けてきた医師が恐怖を感じるようになったレッドゾーン。岡教授に、レッドゾーンの様子を撮影してもらいました。
搬送されたばかりの59歳の中等症患者の病室。岡教授は「CTとかもちょっと見てきました。ちょっと申し上げにくいですけど、軽くはないです。この数日中が勝負だと思うんですよね」と患者に話しかけました。
この2、3日で容体が急変する可能性を伝えました。
岡教授
「うーん…あんまり心配させたくもないし、楽観させたくもないので、正直に申し上げて、一般的に人工呼吸器をつけるようになると、亡くなる可能性が20%くらいあります。大変な治療になります。眠ってもらって、命がけの治療になります。できるだけそうならない方がいいので、今日からステロイドという薬を始めますね。だいたいの人は生存してますので」
患者
「頑張ります」
岡教授
「頑張ってください!」
■「やがて死亡者が増える」危機感
重症者が入院しているICUで岡教授は「ご病気のない、非常に若い40代の方ですね。基本的には鎮痛剤で眠らせて、機械につながって、治療しています。会話はできません」と説明しました。
入院しているほとんどが40代~50代でした。
岡教授に話を聞きました。
「これから感染者がもっと増えていくんですよ。これから増えるのに、もう既に病床が埋まっているんです。次はこの重症者が、やがて死亡者として増えてきてしまいます。残念ながら」
「私どもはできる限り患者を受け入れたいと思っています。ただ、医療は有資源なんです。自らが感染しないということにご協力いただかなければ、いざ感染して重くなったら、残念ながら助けることができない状況になっています」
(8月12日『news zero』より)