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LGBTQ選手「どうしても言えない」

2021年8月6日 20:01
LGBTQ選手「どうしても言えない」

東京五輪ではLGBTQをカミングアウトしている選手が急増しました。ただ、日本ではまれで、選手には公表しづらい特有の事情があるといいます。フェンシング元女子日本代表でトランスジェンダーの杉山文野さんが、自身の体験をもとに語りました。

■居場所がなくなる…「どうしても言えない」

フェンシングの競技自体は非常に魅力的で、競技が楽しいなと感じる一方で、常にフェンシング界では自分の居場所がないように感じていました。

というのも、スポーツの世界は非常に男社会。強い者が評価されます。そこで自分が「マイノリティであり、弱い立場である」ことはどうしても言えなかったんです。練習中も、体力がない男子の選手がいると「なんだお前、オカマかバカやろー!」といった言葉が飛び交っているんですよね。そんな中で、「自分の性のことがバレたら、居場所がなくなってしまうのではないか」と思って、どうしても言えませんでした。

■言えずに辞める選手も…「非常にもったいない」

実は僕と仲が良くて、インターハイで活躍し、大学もフェンシングの強豪チームに入った先輩が、突然いなくなってしまったことがありました。「あんなに強い選手なのにどうしてフェンシングを辞めてしまったんだろう」と不思議に思っていたんですね。すると、何年もたって本人と再会したとき、「実は自分はゲイだったんだ」と告げられました。大学のチームでカミングアウトすることができず、競技を辞めてしまったというんです。

特に男性のチームだと、女の子の話をしたり、合コンに一緒にいったりすることがチームビルディングのひとつかのように扱われます。非常にホモソーシャル(男性同士のつながり)な世界でもあるので、言えなかったというんです。

その先輩の仲間から、「あいつオカマなんだろ?一番大事なときに急に辞めて超苦労したんだよ」という言葉も返ってきて、非常にショックでした。知らないが故に、ハイレベルの強い先輩をチームから辞めさせてしまっていたんですよね。非常にもったいないと感じました。

■五輪メダリストからの相談

僕はオリンピックでメダルをとったような人からも「カミングアウトできない」と相談を受けたことがあります。どんな声があるかというと……

 「応援してくれる家族やファンを裏切ってしまうのでは…」
 「ホモ!オカマ!という言葉が当たり前のように飛び交っているチームで、もしバレたら自分の居場所がなくなってしまう…」
 「協会の関係者に受け入れてもらえなかったら、代表に選ばれなくなるかも…」
 「チームの理解がなかったら、パスが回ってこなくなるのでは…」
 「シャワーや更衣室を一緒に使うことで、何か変な目で見ているのではないかと疑いをかけられたらどうしよう」

こんな不安を選手は抱いています。競技を続けたい一方で、「どうしても言えない」ジレンマに苦しんでいるんですよね。

■オリ・パラ選手の「パワーカミングアウト」 子どもたちに夢

ただ世界では変化が起きています。「パワーカミングアウト」というんですが、オリンピック・パラリンピックの選手でカミングアウトする人が増えています。

応援席で編み物をする姿が世界的に話題になった水泳・男子シンクロ高飛び込みのイギリス代表トーマス・デーリー選手が、「ゲイであり、オリンピックチャンピオンである自分を誇りに思う。子どもたちにも夢をあきらめないでほしい。どんな自分であっても夢をつかむことができるんだ」と世界にメッセージを発信したのが、非常に印象的でした。

■日本人選手 まだまだ言えないのが現状

日本人選手のカミングアウトはごくまれです。日本人の選手の中にも決していないわけではありません。まだまだ言えないのが現状なのです。

ただ決してネガティブな話だけをするつもりはなくて、「心理的安全性」をスポーツ界でどれだけ高めていけるかが大事だと思うんです。つまり、選手に安心感があるとパフォーマンスを発揮しやすく、逆に不安があると競技に集中しづらいといえます。

日本のスポーツ界はLGBTだけではなく、ハラスメントの問題を含めて、選手が安心して競技に打ち込める環境を整えてほしい。そのことで、ポテンシャル(潜在能力)がもっと発揮できるのではないでしょうか。


◆杉山文野(すぎやま・ふみの)1981年生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。日本フェンシング協会理事、JOC理事。

◆日本オリンピアンズ協会主催「オリンピアン同窓会~スポーツにおける多様性と調和」での発言をnews every.小西美穂キャスターが取材しまとめました。


写真:杉山文野さん(7月31日、日本オリンピアンズ協会主催「オリンピアン同窓会」にて)