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南北ビデオ会談を検討か 北にも会議アプリ

2021年7月29日 17:33

韓国と北朝鮮が通信連絡線を再開させたことを受けて、韓国国内では、南北首脳会談につながるのか関心が高まっている。新型コロナウイルス対策で相互の往来が難しい中、取り沙汰されているのは『オンライン首脳会談』だ。

任期中の南北対話の「最後の機会」と賭けに出た文在寅大統領。さらに、すでに北朝鮮で使われているナゾのビデオ会議システム『楽園』とは?

(NNNソウル支局長 原田敦史)


■電撃的な通信再開 高まる南北対話の機運

韓国側職員「こちらは南北共同連絡事務所ソウル事務室です。およそ1年ぶりに通話が再開され非常にうれしく思います」

7月27日午前、1年以上にわたって途絶えていた南北の通信連絡線が復旧された。今年4月以降、複数回にわたって文在寅大統領と金正恩総書記の間で親書を交換し、復旧に合意したという。

南北の通信連絡線は、去年6月、脱北者団体が北朝鮮の体制を批判するビラを散布したことに反発し、北朝鮮側が一方的に遮断。その後、北朝鮮は南北共同連絡事務所を爆破し、双方の関係は冷え切った。

しかし、文大統領のアメリカ訪問前から水面下での親書交換が始まり、南北は再び対話に向けて動き出した。


■南北首脳会談の可能性は?

朝鮮日報とロイター通信は28日、韓国政府高官の情報として「南北が首脳会談開催に向けて交渉中」と報じた。韓国大統領府はこうした報道について、「事実ではなく論議していない」と即座に否定している。

ただ、同日、韓国大統領府の朴洙賢(パク・スヒョン)国民疎通首席秘書官は出演したラジオ放送で、「通信連絡線の復元だけでは、十分な対話と交渉の手段にならない」、「もっと自由に対話するため、ビデオ会議システムの構築、その程度は構想できる」と述べた。

さらに韓国統一省の関係者も29日に、「ビデオ会議システムや防疫措置を備えながら対面会議できる空間の配備が、南北が協議すべき緊急課題」と述べ、環境の構築を急ぐ考えを示した。

韓国の聯合ニュースは「まずは、南北高官の間で実務的なオンライン会談を進め、オンラインでの首脳会談につなげる」との見方を伝えている。


■南北オンライン会談?北朝鮮のナゾのシステム『楽園』

オンライン会談をするならば、北朝鮮はどのようなシステムを使うのかという疑問が湧く。

29日、MBCテレビは韓国大統領府の関係者の話として「北朝鮮には『楽園』というビデオ会議システムがあり、技術的に問題はない」と報じた。

実は、金正恩総書記もすでに幹部の会議をオンラインで行っている。昨年6月、北朝鮮の国営メディアは、朝鮮労働党の中央軍事委員会の会議が「画像形式」で行われたと伝えた。韓国政府は金総書記がオンラインで会議を行ったのは「これが初めて」とみている。

その翌月の中央委員会政治局の非常拡大会議もオンライン形式が併用された。韓国メディアはこのとき使われたのが『楽園』という北朝鮮のビデオ会議システムだと伝えている。

大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると、『楽園』は金日成総合大学の情報センターが開発したプログラムで、数千人が同時接続でき、録画保存などの機能もあるという。

韓国メディア『NEWS1』によると、Linuxベースの独自OS「赤い星」と、「Windows」で駆動する2つのバージョンがあり、2019年頃から北朝鮮全域の官公庁や工場、病院などで本格的に普及したという。

ただ、『楽園』はあくまで国内専用で、外国とのオンライン会議では中国のIT大手「テンセント」などのシステムが使われているという。

韓国統一省の関係者は29日、「オンライン会談方式は、南北がそれぞれ自分側で構築するが、回線はすでに整っている」と言及。「回線を指定して、互いに連結して使う」と述べ、双方が既存のビデオ会議システムを流用する可能性を示唆した。


■北朝鮮へのワクチン支援も議論か

では、今後、南北ではどのような議論が進む可能性があるのか。初期段階の議題として有力なのは、新型コロナウイルスのワクチン提供など保健分野での協力だ。

文在寅大統領は今年6月、訪問先のオーストリアで「北朝鮮が同意するならばワクチン提供を積極的に推進する」と支援方針を明確に示している。国際的な枠組み「COVAX」を通じた北朝鮮へのワクチン供給は当初、5月中とされていたが、計画通り進んでいない。韓国の情報機関・国家情報院によれば、北朝鮮には独自ルートによるワクチン導入もなく、金総書記がワクチンを接種した動向も見られないという。

ただ、韓国自体もワクチン不足で文政権への不満が高まっているため、そうした中で、北朝鮮にワクチンを提供するのは世論の反発を招くリスクは高い。

別の人道支援も考えられる。新型コロナ対策として北朝鮮は“国境封鎖”を続け、国内で食糧や物資が不足していることを金総書記自身も認めている。

北朝鮮側が今回、通信連絡線の復旧と南北対話の路線に舵を切ったのも、国内の経済難が最も大きな理由とみられる。アメリカとの対話再開のメドが見えない中で、まずは韓国から食糧などの人道支援を引き出そうという狙いだ。


■南北「最後の機会」 文大統領の打算も

韓国の文政権としても、任期中に再び南北首脳会談を実現できれば大きな“外交成果”となり、次の大統領選挙でも与党系候補に有利に働くとの打算もある。

今年5月、就任4周年の演説で文在寅大統領は、南北関係の改善に取り組む決意をこう述べている。

 「残りの任期1年、未完の平和から不可逆的な平和へ進む最後の機会にする」

残る任期が9か月あまりとなる中、南北首脳会談につながる「最後の機会」となるのか。朝鮮半島情勢はにわかにうごめき始めている。