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10代なぜ「ラスカル」 地道な戦略とは?

2021年7月28日 20:57
10代なぜ「ラスカル」 地道な戦略とは?

10代の若きメダリストが話題にしていたというテレビアニメ「あらいぐまラスカル」。40年以上前に放送されたアニメがなぜ10代の話題にのぼったのか。そこには制作会社の地道な戦略と、子どもたちへの思いがありました。

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■10代メダリストの「ラスカル」発言に「なぜ」の声

スケートボード女子ストリートで金メダルを獲得した西矢椛選手(13)と、銅メダルを獲得した中山楓奈選手(16)が試合後のインタビューで明かした「ラスカル」。SNS上には「懐かしい」といった書き込みの他に、若い彼女たちがラスカルを知っているのか、という疑問の声も相次ぎました。

一体なぜ10代がラスカルを知っているのか。テレビアニメ「あらいぐまラスカル」を制作する日本アニメーションに話を聞きました。広報担当の村岡佑哉さんは、「寝耳に水の出来事だった」と驚きつつ、子どもたちの感情が豊かになるようにという思いでアニメ制作を続けてきてよかったと話します。

「あらいぐまラスカル」がテレビ放送されていたのは今から44年前、1977年。放送期間は約1年間でしたが、アライグマのかわいさだけでなく、人間が野生動物と共存することの難しさを訴えた作品で、当時「アライグマブーム」を引き起こすきっかけにもなったといいます。


■アニメ版とは違う「現代版ラスカル」の誕生…若者浸透への戦略とは?

放送終了後もラスカルを通じて制作陣の思いを子どもたちに伝えたいと、イベントやキャラグッズの販売を長年続けてきましたが、2013年、ラスカルの「LINEスタンプ」の発売が決まったとき、ある大きな変化があったといいます。

「ラスカルが現代風のキャラクターに生まれ変わったんです」(村岡さん)

それまでのラスカルがオリジナルの「アニメ版」なら、生まれ変わったラスカルは「現代版」。一見するとどちらも同じ「ラスカル」のようですが、アニメ版では表情がより動物的で、手足や体の形状が実物に近い形で表現されているのに対し、現代版は全体的に丸っこくデフォルメされていて、目が大きくなっているなど、その違いが確認できます。

LINEスタンプをきっかけに、より親しみを感じやすい外見に生まれ変わったことで、若い世代や女性にも受け入れられやすくなったのではないかと村岡さんは分析します。

さらに、近年では「鬼滅の刃」や「クレヨンしんちゃん」などの人気作品とのコラボ商品も相次いで発売。アニメ作品というより、キャラクターとしての独立したラスカル像が、現代の若者にも広く周知されていくことになります。


■選手にも届いてほしい「ラスカル」に込められた思い

「再放送やアニメ専門チャンネルで放映されており、それで知ってくれたという若い方も少なくない」という村岡さんですが、そんな村岡さんが今回特に感激したというのが、若いメダリストたちが「キャラだけでなく、アニメやテーマ曲までご存じだった」ということ。「かわいいラスカルということだけでなく、アニメのストーリーを通じて制作陣の思いも届いているとうれしい」と話します。

かつては、アニメを見てキャラを知る、という流れだったものが、現在ではキャラを知ってからアニメを知るという逆転現象も起きており、「コンテンツが多様化した現代ならではの流れ」と説明する村岡さん。日本が世界に誇るアニメや漫画などのコンテンツが、思わぬ形で五輪効果の恩恵を受けていることに、喜びを隠しません。


■「スケボーラスカル」の発売は?

ちなみに、話題になったことで同社が急きょTwitterにアップした「スケボーラスカル」は6.2万件のいいねと2万リツートにのぼり(28日午後6時在)高い関心を集めています。しかし、あくまでも選手の応援のための投稿であり、現時点で商品化の予定はないとのこと。

広報担当の村岡さんは、「日本選手のメダルラッシュに喜んでいます。パラリンピックも控えており、引き続きみなさんを応援し続けたい」とコメントしています。


写真:大きな話題となった「スケボーラスカル」
(C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.