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「ワクチンで遺伝子組み換わる」は誤情報

2021年7月24日 15:23
「ワクチンで遺伝子組み換わる」は誤情報

新型コロナの疑問に答えたい!「ワクチンを打つと遺伝子が組み換わるってホント?」

アメリカ・ワシントンで新型コロナ患者を診療、去年は常に約200人の新型コロナ患者が病院に。ジョージタウン大学医学部内科助教 安川康介医師に聞きました。

──新しい技術のワクチンとあって、不安がある人もいるようです。

日本で現在使われている新型コロナのワクチンは、メッセンジャーRNAワクチンという種類のワクチンです。この技術は、十数年以上におよぶ研究の蓄積があるものの、比較的新しい技術を使っていることもあり、遺伝子に影響を与えるのではないかと不安を抱く人もいるようです。

──新型コロナのワクチンを打つと、自分の遺伝子が組み換わってしまうのではないか、という情報がネットに散見されます。本当ですか?

結論からいうと、mRNAワクチンの成分がヒトの遺伝子に変化を起こすことはありません。もともとヒトの細胞の中にはたくさんのmRNAがありますが、これが私たちの遺伝情報がしまってある「核」の外から中には入ってこられないようにする仕組みがあります。ですから、

(1)ワクチンのmRNAは、細胞の核の中に入り込むことはできません。
(2)ヒトの細胞は通常、ワクチンのRNAをDNAに変換できません。
(3)また、たとえ変換されたとしてもそのDNAをヒトの遺伝子に組み込んだりすることもできないため、ヒトの遺伝子(染色体)に変化を起こすことはありません。

──このワクチンは「遺伝子組み換え技術」なのでしょうか?

遺伝子組み換え技術とは、ある生物の遺伝子の一部を、他の生物の遺伝子に組み込むことで、新しい性質を与える技術のことを指します。mRNAワクチンが遺伝子に組み込まれるということはなく、遺伝子組み換え技術というわけではありません。

──アメリカでもワクチンに関する誤情報、偽情報は流れていますか?

もちろんあります。日米共通している誤情報・偽情報がけっこうあって、英語圏で出回ったものが、時間差があって、日本に流れているような印象があります。例えば「ワクチンを接種すると不妊になる」というデマも、アメリカではフェイスブックなどで拡散されて、その後、日本にも流れました。「ワクチンを受けた人からウイルスが出て行って、周りの人が病気になる」という、いわゆる「ワクチン・シェディング(Vaccines shedding)」が起こるという誤情報、これも少したってから日本に入りました。

※デジタルヘイトの撲滅を目指す非営利団体「センター・フォー・カウンタリング・デジタル・ヘイト」は、ツイッターとフェイスブックにあるコロナワクチンの誤情報・偽情報の65%が12人が流したものだという調査結果を報告しています。

──アメリカではワクチンの正確な情報はどこが発信するのですか?

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)などの公的機関が積極的に発信しています。また、大病院も組織だって誤情報や偽情報に関して情報発信をしています。数々のメディアもファクトチェックを行っています。

日本も、厚生労働省や河野大臣が発信し始めていますよね、大きな変化かなと感じます。

──アメリカの若い人の接種率はどうですか?

日本と同様に、若い人の方がワクチン接種に躊躇する傾向はあります。

アメリカは一日400万回接種から100万回以下に減っていて、足踏みしている状況です。ワクチンを積極的に受ける若い人もいますが、ワクチン接種に躊躇している人や、あまり興味がないという人もいます。無関心層にどういう風にアプローチしていけばいいのかは難しいです。

地下鉄の駅や学校で接種できるなどアクセスをよくすることをしています。あとはインセンティブ、接種すれば地下鉄にただで乗ることができたり、一部の州ではワクチンを受けた人に対して宝くじを行ったりしていることは有名かもしれません。

ただ、宝くじのようなインセンティブが接種率をあげるのに効果があるわけではないという報告もあります。

──周囲は、ワクチンを接種?

メリーランド州とワシントンはアメリカの中では接種率が高い方です。医師仲間はほとんど全員が受けました。病院では医療従事者は全員受けなくてはならないという義務化が始まります。

私のいるジョージタウン大学は、期限が決められ、学生を含めワクチンを特別な理由がない限り、全員受けなくてはならないという通知が来ました。

──近況もお聞かせください。

去年3月ぐらいからコロナの患者さんを診てきました。一時期は常に200人のコロナ患者が病院にいる状況で、自分も多くの感染者の方を診てきました。ロサンゼルスでも最近、入院する人、亡くなる人はほとんどがワクチンを受けていない人だというデータが出ています。

ワシントンは、感染者自体も減っていますし、入院するほど重症な患者さんも減っています。

今年6月ぐらいからは、新型コロナの患者さんの数は減ったことを実感します。今診る新型コロナウイルス感染症の患者さんはワクチンを受けていない比較的若い人がほとんどです。臨床の現場で働いていて感じる、ワクチン接種による大きな変化です。


【安川康介医師】
慶応大学医学部卒。ワシントンホスピタルセンター・ホスピタリスト、ジョージタウン大学医学部内科助教