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“ポスト文在寅”異色の候補者ら対日観は2

2021年7月3日 10:08
“ポスト文在寅”異色の候補者ら対日観は2

“ポスト文在寅”異色の候補者ら対日観は

来年3月に迫った韓国の大統領選挙。有力候補の顔ぶれが出そろい“ポスト文在寅”をめぐる選挙戦が本格化している。

東京五輪ボイコットを主張し“竹島Tシャツ”を着てTikTokに参戦した首相経験者。意外にも「日本国民に反感を持っていない」と話した“対日強硬”有力候補。文政権を「腐敗した無能」とこき下ろした前検察トップ。後編2では、与野党の最有力候補者2人の対日観をひも解く。(※前編1から続く)

(NNNソウル支局長原田敦史)


■“対日強硬”の与党最有力候補「私は日本に反感持ってない」

一方、同じ「李」氏でも姓以外はすべて異なるとも言われるのが、与党最有力候補の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事だ。貧しい家庭に育ち、苦学の末に高卒検定試験で大学に進学。弁護士を経て、ソウル近郊の城南(ソンナム)市長から京畿道知事に上り詰めた。歯に衣着せぬ発言から“韓国のトランプ”などと言われたが、実際には「左派系ポピュリスト」で、トランプ氏の政治性向とはまったく異なる。

かつて日本について、「侵略国家」と述べるなど“対日強硬派”として知られ、福島第一原発の処理水問題、東京オリンピックHPの竹島表記問題でも、日本政府を厳しく批判している。

出馬表明翌日の7月2日、オンライン形式で会見を開いた。およそ1時間半に及ぶ会見の最後、日本メディアから日韓関係について質問を受けると、次のように答えた。

 「私を反日的と評価する方もいるが、私は日本を憎んだり日本国民に反感を持ってはいない」「しかし、問題は(日本の)保守右翼の政治集団だ」

さらに、「政権対政権ではなく、国民と国民、国家と国家の関係で近づき、パートナー的関係に進むのが正しい」とも述べている。つまり、【今の日本政府】と、【日本国・日本国民】を切り分け、協力すべき部分は協力するという実利的な関係を考えているようだ。

一方、日本に対しての厳しい物言いも忘れなかった。いわゆる慰安婦問題、元徴用工問題、親日残滓の清算などを挙げて、「韓国社会に残っている重要な課題」と主張。日本とパートナー的関係になる過程は「屈辱的になってはならない」、「許しは加害者でなく被害者がするもの」と牽制し、日本政府に対し、「反省的で未来志向的な行動をするように」と求めた。

李知事は、与党内で文在寅大統領と距離を置く非主流派だが、世論調査では与党内で最も高い支持を集めている。

 「“李在明大統領”は想像したくない」

こう話した日本政府関係者の表情は冴えなかったが、現実は、次の大統領に最も近い場所にいる1人といえる。


■文政権を「腐敗・無能」と批判 前検察トップが語る日韓関係

李知事と並び、世論調査でトップ争いをするのが野党系の最有力候補、尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長だ。今年3月に辞任後、去就を明言していなかったが、6月29日、ついに出馬を表明した。

会見場所には保守系の支持者が大挙して集まり、異様な雰囲気に包まれた。名前に由来する「悦地帯」という名前の“ファンクラブ”まで登場し、ロゴ入りのマスクやTシャツ姿を着た人が溢れた。鋭い目つきで首を左右に振りながら尹氏が語り始めたのは、文在寅政権への強烈な批判だ。

 「腐敗して無能な勢力の執権延長と国民略奪を防がなければならない」「同意するすべての国民と勢力は力を合わせ、必ず政権交代を成し遂げなければならない」

検察トップとして文大統領の側近、チョ・グク元法相の疑惑に切り込み、次の法相に就いた秋美愛(チュ・ミエ)氏とも鋭く対立。知名度は一気に上がり、いつしか反文政権の象徴として次の大統領を期待される存在に。

政治経験はまったくなく、尹氏の外交観、対日観は未知数だったが、出馬会見では日韓関係についても言及した。

 「外交は実用主義、現実主義に基づかなければならないが、(文政権は)理念偏向的にここまできた。政権末期にどうにか収拾しようとしているが、もはやうまくいかないようだ」

さらに関係の改善策についても──。

 「韓日関係では、過去の歴史は過去の歴史のとおり、後生が歴史を正確に記憶するため真相を明確にしなければならない問題がある。しかし、未来の世代ために実務的に協力しなければならない関係だ」

その上で、いわゆる元徴用工、慰安婦、安全保障、経済貿易などの問題を、1つのテーブルに載せ「グランドバーゲン(一括解決)」方式で扱うべきとの考えを披露。外務・防衛の「2+2」協議など定期的な政府間の対話の重要性にも言及した。

検察公務員の政治参加について韓国メディアから追及されると、日本の状況を引き合いに出すなど、隣国の政治についても造詣が深いことをうかがわせた。ただ、出馬会見の場所に抗日運動家の記念館を選んだことなどを含め、日本にとってどのような存在となるのか未知数な部分は多い。

すでに与党系だけで9人、野党系でも4人の立候補が明らかになっている。各党内での候補者絞り込みに、入党をめぐる探り合い、有力候補へのスキャンダル合戦-。大統領選挙までおよそ8か月となる中、本格的な選挙戦が始まった。