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イランに強硬派政権 核問題どうなる?

2021年6月25日 22:40
イランに強硬派政権 核問題どうなる?

6月18日に行われた中東イランの大統領選挙。事前の予想通り、反米・保守強硬派のライシ師が得票率6割を超える圧勝で終わりました。現職のロウハニ大統領は保守穏健派で2期8年の任期中は国際協調路線を主導してきましたが、保守強硬派の新政権が誕生すれば今後の中東情勢はどう変化するのか?そして、日本への影響は?

■“出来レース”とも…

今回の大統領選挙では、ライシ師のライバルとなるはずだった保守穏健派や改革派の有力候補が事前の審査で“失格”となって出馬を認められませんでした。

ライシ師は、国政全般にわたる決定権を持つ最高指導者・ハメネイ師の後継者とも目される人物で、事前審査をしたのはそのハメネイ師が任命したメンバーらで構成される護憲評議会でした。投票前から圧倒的優勢が伝えられる中、予想通りライシ師が勝利しました(得票率60%超)。ライシ師は4年前の大統領選挙でロウハニ大統領に敗れ、いわばキャリアに傷がついた形となっていましたが、今回の勝利で面目を保つことができました。一方で、有力な対抗馬がいなくなったため、発表された投票率は50%を割り込みました。

■当面の焦点は“核合意”

次期大統領に決まったライシ師に世界が注目しています。当選後初めての記者会見で並べられたマイクの数を見るだけでも、その注目度が分かります。反米・保守強硬派の大統領の誕生で、対アメリカ外交はどう変わるのでしょうか?

当面の最大の焦点は「核合意」の行方です。「核合意」はイランのロウハニ政権が欧米など6か国と2015年に交わした合意で、イランが核兵器の原料にもなる濃縮ウランの製造について保有量や濃縮度などを制限し、その見返りとして欧米など6か国は原油禁輸などの制裁を解除しました。

しかし、アメリカのトランプ政権は2018年に核合意から一方的に離脱し、イランへの経済制裁を再開・強化しました。制裁はイラン経済に大きな打撃を与えていて、イランはコロナ禍の中で医薬品不足にも苦しんでいます。トランプ前政権のもとで、アメリカとイランは対立を深め、緊張は最高潮に達しました。

トランプ前大統領の後を受けたバイデン大統領はイランに対話を呼びかけ、核合意への復帰を検討することに。現在オーストリアのウィーンで、アメリカの核合意復帰とイランに対する制裁解除に向けた協議が断続的に続いています。

イランの大統領選挙は、その最中に行われましたが、選挙翌日には、ザリフ外相が8月の新政権発足までに協議がまとまる可能性は「十分にある」との見通しを示しました。協議が進展していることを示唆したものとみられます。協議をめぐる状況に大きな変化は起きていないもようです。関係国もイランの交渉姿勢は大統領が代わっても大きく変化はしないと見ているようです。

ホワイトハウスのサキ報道官は「イランの最終的な意思決定は最高指導者であるハメネイ師が行う」と述べていて、ウィーンでの協議の仲介役を務めるEU(=ヨーロッパ連合)のボレル外務・安全保障政策上級代表(=外相)も、核合意をめぐり「ライシ師が現政権と異なる立場を取るとは考えていない」と話しています。

実際、ライシ師は当選後初の記者会見で、アメリカの核合意復帰と制裁の全面解除を求めましたが、協議自体を否定することはなく、その主張は現政権と大きく違わなかったのです。制裁による生活苦が続き、イラン国民の不満は高まっています。まずは経済の再建を最優先する姿勢を示し、国民の不満を和らげたいものとみられます。ただ、アメリカ・バイデン大統領と会談する可能性を問われると、ライシ師は「ない」と即座に否定しました。

一方、アメリカや関係国はイランがウランの濃縮度を過去最高の60%に引き上げる中、核合意を立て直してイランの核開発がエスカレートするのを防ぎたいところです。

■アメリカと緊張続くか?周辺国との関係は?

アメリカはライシ師の当選直後から厳しい姿勢を見せています。国務省は20日、「イラン国民は自由で公正な選挙手続きのもとで指導者を選ぶ権利を否定された」として、選挙の正当性に疑問を投げかけました。さらに、ホワイトハウスのサキ報道官はライシ師が過去の政治犯の処刑に関与したなどとして、アメリカの制裁対象になっていることを踏まえ、「新大統領には当然、人権侵害への責任が問われる」と強くけん制しました。核合意をめぐる協議の成否にかかわらず、アメリカとイランの緊張関係は今後も続きそうです。

イランはサウジアラビアと互いに“中東の大国”として対立を続けてきましたが、ここへ来て関係改善に向けた協議も行われています。両国は現在国交を断絶していますが、ライシ師は記者会見で大使館の再開に言及しました。果たして、両国は関係の正常化に向かっていくのか、今後の行方が注目されます。

一方、イランと敵対するイスラエルは警戒感を強めています。ベネット首相は20日、ライシ師が反体制派を弾圧してきた「殺人者」と批判、アメリカが進める核合意の立て直しにも反対を表明しました。イランはイスラエルの隣国シリアやレバノンなどへの影響力を強めていますが、ライシ師のもとでこうした動きは続くとみられ、さらに強まる可能性もあります。

イランとイスラエルの対立が深まれば、中東全域で緊迫の度合いが増す事態も予想されます。中東情勢が不安定になれば、原油の大半をこの地域から輸入する日本の経済にも即影響を与えます。実際、イランとアメリカが対立を深めた2019年には、日本の海運会社が運航するタンカーが襲撃される事件が起きていて、日本も無関係ではいられません。8月に就任するライシ新大統領が、どのような外交姿勢を打ち出すのか、今後のイランの動向に国際社会が注目しています。