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都会の家庭でもできる「たのしい循環生活」

2021年6月24日 19:11
都会の家庭でもできる「たのしい循環生活」

■都市部の家庭でも気軽にコンポストを

優れた循環システムを持つ都市であった江戸。生ごみやし尿は土に戻し、堆肥として再利用されていた。しかしこの200年で急速に工業化が進み、土地が少ない日本では焼却処理が一般化。現在、一般家庭から排出される食品廃棄物の大半が焼却・埋め立て処理されている。この現状について、たいらさんは次のように語る。

「約80%が水分である生ごみを、燃料を使って焼却して二酸化炭素を排出し、地球環境に悪影響を及ぼしている。本来は栄養があって堆肥として循環できるものなのに、焼却してしまうのは常識的に考えてもおかしいと思います」

そこでローカルフードサイクリングは、1日1回混ぜるだけで生ごみを堆肥化できる家庭用のコンポストを開発。都市部の家庭でも気軽に試せるよう、ベランダや家の中でもインテリアのようになじむバッグ型を採用している。

機能面にもこだわりがある。バッグは特注のファスナーを用いて密閉し、虫の発生を抑制。独自に配合した基材で、悪臭も抑えられるという。堆肥化した後は、そのまま家庭菜園のプランターとしても利用できる構造だ。

コンポスト初心者へのサポートも充実している。どんな生ごみを入れていいかなどの不安や悩みは、いつでもLINEでプロに相談可能。生み出された堆肥についても、ベランダで育てる家庭菜園についての講座を実施しているほか、利用することが難しい家庭向けに回収キャンペーンも開催している。

誰もが簡単にできるコンポストは注目され、商品化から約1年半で、これまでに約2万5000人が購入したという。生ごみが循環する暮らしが、日本にどんどん浸透している。

■食の循環を取り戻す

福岡県で生まれたたいらさん。アートの道に進みたかったものの一歩届かず、将来役立つことを学ぼうと大学では栄養学を専攻。新卒では証券会社に勤め、間もなくして結婚し子どもを授かった。そんなたいらさんの人生を変えたのは、大好きな父の余命宣告だったという。

「みるみるうちに弱っていく父を見て、私にできることをしたいと思いました。そこで大学の友人に相談すると、食養生を勧められたんです。福岡に帰り、玄米菜食を始めました」

しかし一筋縄ではいかなった。26年前の当時、無農薬の野菜が手に入りづらかったという。

「福岡市内を2時間かけてやっと見つけても値段が高いうえ、古くなっていて。無農薬の野菜を得るために、自分で畑をしたりもしましたが、金銭的にも限界が来ていました。

毎日苦労して食材を探す中、背中に背負っている娘の将来を思うと不安になったんです。この子は何を食べて生きていくのだろうと。お金をかけた今の暮らしは持続不可能だし、子どもにこんな苦労はさせられない。根本的に解決しなければと思いました」

そこで勉強をはじめたたいらさん。無農薬のおいしい野菜には、土が要であるとたどり着いたという。しかし土壌の改善は現代において簡単ではない。昔は、地中に埋め立てたごみが時間がたつにつれ微生物が分解して堆肥となり、栄養として新しい食物へと循環していた。しかし地面はコンクリートに覆われるようになり、生ごみの焼却処理が加速。循環していたはずの生ごみが、文字通り「ごみ」として廃棄されるようになり、土壌もやせ細っていった。さらには、焼却によるCO2の排出など環境負荷も高まっていることが分かった。

別々であるように見える課題が複雑に絡み合っている。すべての問題を解決する方法はないか。考えた末に見出したのが、コンポストによる生ごみの循環だった。

「昔から母はコンポストをしていましたし、私もなじみがありました。家庭の生ごみ処理をコンポストに置き換えることで、生ごみを堆肥化しておいしい野菜に循環するしくみを取り戻せるのではと考えました。

しかし都会の生ごみを田舎に持ち込む形は、真の循環型とはいえません。小さな循環であるほど、環境負荷も低くなるし、自分ごととして捉えられます。半径2kmの生活圏内で循環する『ローカルフードサイクリング』を構想しました」

自らの使命を認識したたいらさんは、母の協力を得てNPO法人を設立。家庭でできる段ボールコンポストの普及を進めた。福岡市で始まった活動は徐々に広がり、全国で年間で約500講座を実施するようになったという。

2005年からは人材育成事業をスタート。これまでに、ダンボールコンポストの使い方講座ができるリーダーが日本を含むアジアで約200人育ったという。ほかにもコミュニティ作りや、家庭でできた堆肥を農家に送るプロジェクトも実施。そして2019年には事業化し、満を持して家庭用のバッグ型コンポストを開発するなど、活動は広がり続けている。

■たのしく生ごみを削減

たいらさんがモットーとしているのは「たのしい循環生活」。たのしくなければ続かない。たいらさん自身、20年以上コンポストを混ぜ続けているが、毎日たのしいという。

「いつも違う顔を見せてくれるんです。これは一昨日の食材の端だなとか、微生物の分解で熱が発生しているなとか、毎日発見がありますね。自分が食べ終わったかすがいつの間にか消えて、腐葉土ができる。バッグの中で自然を感じられるんですよ」

周囲からの評判も高い。東京で堆肥の回収会をすると、皆たのしそうに堆肥を持ってくるという。「子どもと一緒にたのしく混ぜている」など、笑顔の報告が寄せられている。

今後の目標は、2030年までに生ごみ焼却をゼロにすることだと語るたいらさん。そのために企業や教育機関の力を得ながら、循環を回すためのプラットフォームづくりを進めている。

「将来的には、コンポストを誰もが学校で習う教養にしたいですね。まずは皆に体験してみてほしいです。一度でも触ると、たのしさ実感していただけると思います。

食べ物の循環ができれば、環境はもちろんさまざまな効果があります。健康にもいいですし、焼却で浮いたお金は経済を回せます。いいことずくめの循環生活をもっと広げていきたいです」  


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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。