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同じ目線で伝える性教育 発信を続ける理由

2021年6月22日 18:21
同じ目線で伝える性教育 発信を続ける理由

全国の中学・高校で性教育を行う“えんみちゃん”こと、遠見才希子さん(37)。紙芝居やゲームを取り入れた「気軽に、楽しく、真面目に」性を語る講演が注目されている。緊急避妊薬を入手しやすくする取り組みにも関わる遠見さんが、活動を続ける背景とは。

■ジャッジしない。決めつけない

風船を持った先生に、子宮に扮してもらう。コップの水を移すゲームで、性感染症について伝える。「気軽に、楽しく、真面目に」性を考えるのが、遠見さんの性教育だ。大切にしているのは「ジャッジしないこと」だという。

「例えば『安易な中絶は駄目ですよ』という言葉。『安易』かどうか判断できるのは本人だけですよね。その決めつけが、人を苦しめるかもしれない。当事者にしか分かり得ないことがあるから、言葉には気を付けています」

これまで900以上の学校で講演をしてきたが、自分にできるのは「考える機会をつくること」だと話す。

「ある中学校では、男子生徒たちの『初体験はどこですればいい?』という問いから『自分も相手も安心して安全に初体験できる場所はまだない』という結論が出ました。私は答えを与えていませんが、考える機会があったことで、仲間同士で『初体験を見送る』という結論が出たんです」

SNSで、子どもを性の対象とする大人と簡単につながれてしまう時代。「子どもに自衛させるだけでは性の問題は解決しない」と遠見さんは語る。

「『信頼できる大人に相談しなさい』と言われますが、自分は信頼できる大人になれているのかと自問しています。大人も学び直し、同じ目線で考えることが必要ですね」

産婦人科医である遠見さんは、ブログなどでの中絶や流産についての情報発信のほか、緊急避妊薬に関する政策提言などにも取り組んでいる。

緊急避妊薬は、避妊の失敗や性暴力に遭った際、性交から72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を防ぐ薬。できるだけ早く服用することが効果的とされている。遠見さんが進めるのは、この緊急避妊薬を薬局で入手できるようにするプロジェクトだ。

「緊急避妊薬の入手には受診が必要で、自由診療のため費用も高額です。アクセスするのにハードルが高い状況なので、もっと利用しやすい社会のシステムをつくっていきたいですね」

自分の体のことを自分で決める。そのためには選択肢があり、その選択が尊重される必要があると遠見さんは語る。

「緊急避妊薬が必要となる背景や理由はさまざまです。その理由や、理由を打ち明けられたかどうかによって対応を差別されるのは、あってはならないことです」

■がむしゃらに、全国を駆け回る医学生  

遠見さんが性教育の講演を始めたのは、学生時代。HIVの啓発をするサークルに入ったことがきっかけだった。コンドームの正しい使い方を伝えたり、無料で検査が受けられることを伝えたりする中で、性についてみんなで考える場の大切さに気づいたという。

「こういう場が当たり前にあったら良かったのに、と思いました。10代のとき、自分は性について知り、考える機会がなかったんです。思春期ならではの生きづらさや寂しさを感じながら、立ち止まって考える機会もなく性や恋愛の経験をしてきてしまった」

自分と同じように、性について語れる場を必要とする人がいるかもしれない。その思いの下、手探りで講演活動を始めた。自作の紙芝居や自身の経験を交えた語りが注目され、口コミから講演依頼が舞い込むようになったという。遠見さんは、依頼があればどこにでも駆けつけた。

「がむしゃらでしたね。でも中高生から『もっと早く聞きたかった』とか『恋人と話し合ってみます』という声をもらって。何ができるかは分からないけど、とにかく種を蒔くつもりでした」

卒業後、産婦人科医になった遠見さん。病院の中で待つだけでなく、社会へ発信していきたいと、講演は続けていた。その後自身の出産を機に、臨床の第一線から離れ、大学院へ。そこでまた、新たな気づきを得たと話す。

「大学院で性暴力について学び、当事者にインタビューする機会がありました。そこで『医師から、避妊しなきゃ駄目だと説教された』『被害を訴えるのに時間がかかったが、緊急避妊薬はすぐ飲みたかった』という、さまざまな声を聞いたんです」

性暴力を訴え出る人が少ない背景には、社会の無理解による二次被害の問題がある。「なんで逃げなかったの」「なんで抵抗しなかったの」。知識がなければ、自身もそういう言葉をかけていたかもしれないと危惧する。

緊急避妊薬の対応についても、現場を離れて分かったことがあった。

「分娩や手術で忙しい中、緊急避妊薬が必要な人への対応は後回しになりがちだったんです。『避妊に失敗した人だろうから、待っててもらって』って。私自身、そういう対応をしていたと気づきました。医療者の勝手なジャッジメントがあったことを、すごく反省しています」

どんな理由であっても、必要とするすべての人が、手に入れやすくする環境をつくらなければいけない。自身への反省が、活動の原動力になっている。

■若い世代を絶望させたくない

「年齢に合わせた性教育の本をつくりたい」との思いから、7月には幼児向けの絵本を出版する。小学生、中学生向けの本も、制作途中だ。活動の根底には「若い世代をこれ以上絶望させたくない」という思いがある。

「日本では、性の問題を社会で捉えずに、自己責任で片づけようとする意識が根強いです。緊急避妊薬の議論でも『若い女性は知識がないから駄目だ』という意見が出る。人として大切にされないこの現状が、絶望的だと思うんです。自分の子ども世代に、同じ思いはさせたくないですね」

必要なときに緊急避妊薬が手に入らない。性のことを知る機会がない。性暴力被害者が責められる。こうした状況を断ち切りたいと、遠見さんは語る。目指すのは「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」を実現する一助となることだ。

「皆、相手を尊重しつつ安全で満足なセックスをする権利があるし、産む、産まないを自分で決める自由もあります。その人自身が選んだ選択が尊重されて、健康のために適切な医療や情報を当たり前に享受できるようになる。そのための活動をしていきたいです」

「産む」「産まない」「産めない」「産みたい」。すべての選択と、選択した人自身が大切にされる社会へ。“お医者様”ではなく“えんみちゃん”として、同じ目線で発信を続けていく。

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。