×

東芝を助けて良いの? 国vsモノ言う株主

2021年6月20日 14:38
東芝を助けて良いの? 国vsモノ言う株主

6月の株主総会直前、2人の取締役候補をはずす決定をするなど混乱が見られた東芝。背景には、筆頭株主である海外ファンドの存在がありました。原発やレーダーなど国の安全保障上も重要な技術を持つだけに、外資の関与をどう制御するのか課題となっています。

<77万件のメールから弁護士らが読み取ったこと>

今月10日、東芝に関する「調査報告書」が発表されました。報告書は東芝の去年の株主総会の決議が公正に行われたかどうかを調査したものです。調査は東芝の筆頭株主である海外ファンドの「エフィッシモ」が選任した弁護士らによって行われました。

エフィッシモは去年7月の東芝の株主総会で、3人を取締役候補として提案しましたが否決されました。

その後、エフィッシモは“圧力を受けて議決権行使を断念した株主がいることがわかった”として、去年7月の株主総会が公正だったのか調査することを東芝の臨時株主総会に諮り、承認されたのです。

これにより、東芝の役員らは調査に全面的に協力することが義務づけられ、弁護士らは77万件のメールや会議の議事録、資料などを調べました。そして、去年の東芝の株主総会について「公正に運営されたものとは言えない」と結論づけたのです。

理由は“東芝が経済産業省と連携して、エフィッシモなど海外ファンドに不当な影響を与え「株主提案権」や「議決権の行使」を事実上妨げようと画策したからだ”としています。

「株主提案権の妨害」の具体例はこうです。
・東芝はエフィッシモなどが東芝に社外取締役を送り込むことを回避しようと経産省に相談
・経産省がエフィッシモに対して“政府に事前の届け出をせずに社外取締役の提案に動くのは改正外為法に違反している恐れがある”として経産大臣名で報告徴求
・その結果、エフィッシモが当初4人の予定だった取締役候補を3人に減らした、というのです。

また「議決権行使の妨害」については、
・経産省が東芝の別の株主であるファンド「3D」に対して「隣(エフィッシモ)が大火事の時に横でバーベキューをしているとそれでは済まないことになることもある」と告げ、もし3Dがエフィッシモの取締役案に賛成票を投じれば“巻き込まれる”と示唆した
・これによって3Dがエフィッシモの提案に反対するよう誘導する効果があった、と判断しました。


<経済産業省の反論>

梶山経済産業大臣はこの報告書について「事実でないことが含まれている」と信頼度に疑問を呈しました。一方で「東芝は国の安全保障にも関わる重要な技術を保有する企業で、経営環境の不安定化を原因に事業や技術投資の停滞が起こることは一時たりともあってはならない」と述べました。

つまり
・東芝は原発やレーダー、半導体など安全保障上も重要な技術を持っている
・もし海外ファンドの株主から取締役の過半数を送り込まれ、重要な事業や技術が売却されたり、高額な配当要求が続き、必要な投資ができなければ、国の安全保障に支障をきたす
・よって、経済産業省として東芝に対応する(相談に乗る)のは当たり前のことだとしました。

また経産省幹部は報告書について「読めば推論を重ねただけということがわかる」「株主の側に寄った内容」と批判した上で、「東芝の機微な技術や知的財産が中国の息のかかったところに買われてしまったらアメリカも怒ってくるだろう」と安全保障上いかに重大なことなのかを説明しました。


<守っていいの?>

それほど“重要な企業”でありながら、なぜ東芝は多くの株式を海外ファンドに握られることになったのでしょうか?

2017年、東芝は債務超過による上場廃止を避けるため、海外のファンド60社から出資を受けました。その結果、6割を超える株式を海外ファンドに持たれるという異常な状態になりました。

それ以来“もの言う株主”らから配当や人事などで高い要求を受け続けているのです。

当時の経営陣の一人は「東証2部から1部に復帰して株価が上がれば、ファンドは株を売って利益を得て東芝から去っていくだろうと楽観的に考えていた」と言います。

しかし、東芝はまだ、半導体大手キオクシア(旧東芝メモリ)の株式を40%持っているため、東芝がこの株を売って得る巨額の利益を株主に還元するまで、ファンドは東芝株を手放さないだろうともみられています。

東芝を安定させる別の手は、国が東芝の株式を持つことです。これまでに、政府系ファンドが出資を検討したこともありましたが、実現していません。半導体メモリ事業のみの買収でさえ、金額で折り合いがつかず頓挫しました。

東芝に詳しいM&Aのプロは「経営のトップが株主対策で右往左往して、本来、会社の成長のためにやるべき仕事に使える時間が少なくなるのでは、経営はうまくいかない」と嘆きます。

「国の安全保障にとって重要な企業」というのならどう守るのか?政府は、改正外為法を使って外資による経営への関与を制御する方針ですが、果たして十分なのか、検証が急がれます。