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世界の夢から学び、地球を1つの学校に

2021年6月3日 23:48
世界の夢から学び、地球を1つの学校に

「地球を1つの学校にする」をミッションに掲げる会社、WORLD ROAD。設立者の市川太一さん(29)は、あらゆる人が境界線なく受け入れ合い、学び合う文化をつくりたいと話す。世界への好奇心から活動を始めた市川さんが、今描く夢とは。

■互いに学び合う、小さな地球を体現

「学ぶ気持ちがあれば、国境や組織に関係なく、学び合うことができる。世界中どこでも学校になる」

WORLD ROADを設立した市川さんは、そう語る。その思いをもとに目指すのが「地球を1つの学校にする」ことだ。同社では、SDGsを起点に、企業・地方自治体向けの人材育成・事業戦略支援や、教育機関に向けた教材開発を行っている。

例えば企業向けの支援では、社員に向けた講演・研修活動をしたり、SDGsを推進している企業のパートナーシップ構築を手伝うなど、SDGsへの意識を、実際の行動に結びつけるためのサポートをする。

教育機関向けには、世界におけるSDGsの取り組みを、中学校や高校などに幅広く伝えるためのコンテンツを提供する。

その取り組みの一つが、2021年6月に出版した「WE HAVE A DREAM 201か国202人の夢×SDGs」だ。6月3日から6月6日まで、代官山T-SITEで展示会も開催する。同書は、世界201の国や地域の若者の夢と物語を集めたという一冊。それぞれの夢には、関連するSDGsの目標が、アイコンで記されている。

構想のもとになったのは、世界中から次世代リーダーが集まるという国際サミット「One Young World(OYW)」での経験だ。市川さんは学生時代、日本代表としてこのサミットに参画していた。

「OYWには、SDGsに人生をかけて向き合う人たちがいました。なんとなくいいことだからという理由じゃなくて、内戦によって家族を亡くした人など、SDGsが生きる理由に結びついているような人たちがいたんです。これは本気で取り組むべきことなんだと感じましたね」

また、市川さんはその会場の景色を見て「ここは小さな地球だ」と感じたという。世界の人が互いに学び合えるこの「小さな地球」を、日本や世界中に持っていきたいと考えた。その地球を体現したのが、この本だ。

「この本は、SDGsが目標に掲げる2030年までの夢を描いているわけではありません。40年、50年、その先も見据えているので、SDGsの本というより、未来の夢の本なんです。その夢に到達するまでの途中経過を、SDGsの色で表しています。夢を持ち、未来から逆算して動くことの大切さを感じてもらいたいですね」


■世界中が一つの感情を持った瞬間  

福島県で育った市川さん。部屋の壁には、大きな世界地図が貼ってあった。

「家族で海外旅行によく行っていて、漠然と世界への興味がありました。そして調べるうち、どうやらこの世界は平等ではないと気づいたんです」

大学では、世界について学ぼうと国際関係を専攻。在学中、世界を知るために現場を見なければと考えた市川さんは、アフリカのガーナへ飛んだ。

「テレビからの情報ではなく、リアルな景色を見たり、現地の人と話したりする中で『世界には問題がある』という漠然とした意識が、『もっと自分にできることをしたい』という思いへと変わっていったんです。そして、世界中の人に一度に出会える場、OYWを知り、参加することを決めました」

OYWでは、ある参加者との衝撃的な出会いがあった。北朝鮮からの脱北者であるパク・ヨンミさんだ。

「彼女が、脱北の経緯をスピーチしたんです。その内容は壮絶なものでした。北朝鮮といえば、テレビで見ていた拉致問題のイメージがありましたが、実際に関わっている『人』がいることは、衝撃でしたね」

ヨンミさんのスピーチが終わると、会場にいた人たちは一斉にスタンディングオベーションをしたという。皆が涙し、熱いまなざしを注いでいる。その光景を見て、市川さんの胸にはある思いが芽生えた。

「この瞬間、みんなが北朝鮮にいる人のために何かしたいと願っている。世界中が一つの感情を持てること、それ自体が平和なんだと感じたんです。そしてそれができたのは、彼女が自分の物語を話し、世界中の人がそこから学んだからなんだと」

そこから市川さんは「教育」に関心を持った。みんなが同じ方向を向くために、必要なのは学び合うことだと考えたのだ。こうして、同じくOYWの参加者であり、教育への思いがあった日本人と共に、WORLD ROADを立ち上げた。


■みんなが同じ方向を向くことができたら

「WE HAVE A DREAM」を、市川さんはまず日本全国の学校に届けたいと話す。全世代に向けた本だが、特に中高生に読んでもらいたいという思いが強い。

「日本という先進国でさえ、まずは目の前の大学に入ることが優先されがちです。自分自身、高校で勉強しながらも、机の先にある進路が全く見えず、悩んでいました。進路指導室に行ったら、そこには大学の赤本がずらっと並んでいて。そのとき自分が欲しかったのは、未来を見せてくれるロールモデルや、もっと世界に視野を広げてくれるものだったんです。その原体験も、この本の企画につながっていますね。この本の物語を読んで、中高生に自分の夢や未来を描いてもらいたいです」

既に私立学校の教材として導入が決まっていたり、大学に紹介されたりと、学校に届ける活動は進んでいるという。そしてゆくゆくは、世界中にこの本を届けたいという。

「この本が広がれば、世界中が互いに受け入れ合って、学び合う文化をつくれると思っています。教室があるから『学校』なんじゃない。学び合う文化こそ、僕が考える『学校』そのものなんです」

本の中で語られている若者たちの夢は、決して特別なものではない。壮絶な体験談もあるが、家族と暮らせる喜びなど、ごく平凡で等身大の夢が並んでいる。

「僕たちは世界のことを全然知りません。でもこの本を読めば、少なくとも201か国の人の夢に触れることができて、『この国にこんな素敵な人がいるんだ』と知ることができる。そうすると、外国への小さな偏見が少しずつ無くなっていくと思うんです。それが、境界線を溶かし、地球を1つの学校にすることにつながります」

OYWの会場で拍手が湧き起こった瞬間のように、みんなが同じ方向を向いて、よい世界をつくろうとすることができたら。そんなシンプルな願いが、市川さんの描く夢だ。

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。