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原価をあえて公開する服「作る人も豊かに」

2021年5月24日 18:26
原価をあえて公開する服「作る人も豊かに」

透明性を高め、製造原価やプロセスも公開するアパレルブランド「10YC」。理念を掲げブランド運営をする下田将太さん(30)だが、最初から志を掲げていたわけではないという。SDGsでも注目されるファッション業界での挑戦について聞いた。

■透明性のあるものづくりで作り手を身近に

近年、様々な業界で「持続可能性」が叫ばれる中、ファッション産業にもその波が来ている。環境省は「サステナブルファッション」に関してまとめたウェブページを公開。ファッションと環境の現状や、個人ができるアクションがまとめられている。

下田将太さんは、持続可能性の観点から注目されるファッション業界で、「着る人も作る人も豊かに」というコンセプトを掲げ、2017年よりファッションブランド「10YC」を運営する。

「10YearsClothing=10年着たいと思える服をつくる」という思いのもと、着心地の良いバランス感がある服を作ることだけでなく、購入された服を長く着てもらうためのサービスを提供。例えば、無料返品や無料サイズ交換、シミがついたり色あせたりした服の染め直しを行う。

また、作り手を豊かにすることを目的に、生産プロセスの透明性を重視。生産工程やそこにかかる原価、各工場について、ウェブサイト上で公開している。工場の記事では、技術だけでなく働く人の想いも紹介。生産工程ごとの原価は各商品ページごとに掲載され、服が手元に届くまでにどんな人が関わっているのか、買い物をする中で想像をかき立ててくれる。

透明にすることで、購入者に作り手を身近に感じてもらうことが狙いだという。

「日本では昔からものづくりが盛んでしたが、多くは海外工場でつくられるようになっていきました。ものづくりの現場を見る機会が少なくて、作られているものの背景や、どうやって作られているかを知る機会が減った結果『安いほうがいいじゃん』と思う人が増えてる。もし工場が身近で、激しく買いたたかれている人が目に入っていたらそうはならないと思います」

■動きはじめることで、想いが芽生える

今でこそ強い理念を掲げてブランドを運営しているが、最初から理念があったわけではないという。

「ブランドを立ち上げた当初は、『自分たちでブランドをやってみよう』という程度で、崇高な理念を掲げていたわけではありません。お客さんや工場の人と関わる中で、今持っている想いや取り組みが生まれてきました。私は、あまり先のことを計画するタイプではありません。その場その場でやってきたことが、後でつながるタイプだと思います」

下田さんは、大学卒業後、アパレルの生産管理を行うベンチャー企業に入社。服に関心があったわけではなく、グローバルに展開していることや、創業数年の会社で新しいことができそうだと思ったことが背景にある。

順調に仕事をする中、ブランドの立ち上げを考え始めたのは、ルームシェアメイトからの一言だったという。

「ある日、ルームシェアをしていた仲間の一人が、1万円弱で買ったというTシャツを手にしながら『1度洗っただけでヨレヨレになった。おまえの業界ってどんな仕事をしているんだ?』と文句を言ってきました。その時は、自分の会社のブランドではなかったので『なんか言ってるな』くらいに受け流していました。ただ、その言葉を聞いてから、服を売った後のことをあまり知らないことに、もやもやを感じるようになりました。自分の仕事は、服を買ってもらうところまで。買った後のことは考えていなかったんです」

長く着られるいい服がないなら、自分たちで作ってみよう。当初は、そんな軽い気持ちでブランド作りが始まったという。その後、アパレルの工場で話を聞いたり、服の購入者からの反応を得たりする中で、現在の理念が形作られていった。

「日本のアパレル工場を回っていると、みんな景気が悪いと話します。若い人が入ってきてくれない、そもそも雇えないという状況で、引き継ぎもできない。そんなリアルな状況を知り、作り手がもっと豊かでなければと感じました」

値段を下げるだけが道ではない。品質を保ちながら、作り手に還元しながら販売する方法があるのではないか。大量生産、大量廃棄のファッション業界はこのままでいいのか。そんな疑問が、10YCのブランド運営に反映され、それぞれのアクションにつながった。

■仮説に対する反応をどんどん拾いたい

ECサイト上での販売でスタートしたブランドだが、期間限定店舗などで対面販売も行う中で、リアル店舗の良さも感じたという。現在はコロナ禍で対面の販売は控えているというが、いつかは期間限定ではないリアルな店舗も持ちたいという。

「仮説に対して反応をもらえるのがリアル店舗の良さだと思います。買った後のお客さんの声を聞けることもありがたいです。染め直しサービスは、『白いTシャツが黄ばんで着られない』『食べ物のシミが落ちない』など、お客さんのニーズを聞くことで生まれたサービスです。10年着てもらうためには、買った後のアフターサポートが必要だろうって」

ブランドを運営していてやりがいを感じるのは、仮説を検証している瞬間。今後は、作り手に対してもっとポジティブな影響を与えたいという。

「自分たちのブランドを通して、アパレルのものづくりに携わる若い人を増やしていきたいです。まだ、理念を掲げているだけで、自分たちがいたから若い人が働き始めるといった事例は伴っていません。もっと、作り手を豊かにすることをやっていきたい。そのために、まずはブランドを多くの人に知ってもらいたいです」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

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今年のテーマは「#今からスイッチ」。
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