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“開拓”を通じた里山保全とふるさとづくり

2021年5月18日 19:01
“開拓”を通じた里山保全とふるさとづくり

東京周辺には荒れたままの山林が数多く存在している。そんな里山を、児童養護施設等の子どもたちと一緒に開拓するNPO法人東京里山開拓団。「里山保全」と「ふるさとづくり」を同時に実現しているという。

■里山が持つチカラを活用したい

東京・八王子市美山町で、児童養護施設の子どもたちと一緒に荒れた山林の開拓を行っているNPO法人東京里山開拓団。道のないところに道を切り開き、広場を作り、トイレやベンチ、遊具といった設備まで手作りで制作している。設備の材料もその場にあるものを使用。できる限り外からは持ち運ばない。

ほかにも切り開いた広場で運動会をしたり、伐採した木を使って木刀を作ったり、落ち葉を集めて腐葉土作りを行ったりするなど、自然の恵みを生かしたさまざまな活動を行っている。

このように人が定期的に通い、手を入れることが、里山保全活動そのものである。里山とは、原生的な自然と都市との間の“人の手が入った”森や林のこと。特有の生物の生息・生育環境として、また、食料や木材など自然資源の供給や良好な景観、文化の伝承の観点から重要な地域とされてきた。

人が定期的に入り、手を入れることで維持されてきたが、人口の減少や高齢化の進行、産業構造の変化により、徐々に衰退している。そんな里山を保全する活動が、1990年代頃から各地で行われていた。

東京里山開拓団代表の堀崎茂さん(49)は趣味のアウトドア好きが高じ、手つかずの山林を探し求めていた。すると、何十年も人の手が入っていない荒れた山林が東京にもあることに気づいたという。

「2006年のことです。親戚が美山町にある山林をもっていると聞いて、2年ほど週末に一人で通って道を切り開き、山林も譲ってもらいました」

その後、子どもが生まれ、家族で里山に出かけるようになり、さらに友人も誘うようになった。子どもから大人まで、また来たがる人が多かったという。

「里山に行くとみんな心が解放されていって、いきいきした表情になるんです。この力はすごい。これを提供したら喜ぶ人たちは誰だろうと考えたところ、児童養護施設の子どもたちのことが思い出されて。現在、日本全体で2万7千人もの児童が、児童養護施設で親から離れて暮らしています。里山に子どもたちのふるさとを作ったらとアイデアが浮かび、2009年に東京里山開拓団を立ち上げました」

児童養護施設にかけあってみても、最初はなかなか理解を得られなかった。初めて里山開拓に参加しえもらえたのは、3年経った2012年だったという。

第1号となった児童養護施設は、担当職員が地方の自然豊かな養護施設で働いていた経験があり、東京里山開拓団の活動に理解を示してくれた。

「施設の子どもたちを里山に連れていくと、最初はどこに行くのか不安に感じでいた子たちも、現地についてみると本当に楽しそうで。『次回も絶対に行きたい』と言ってくれて、そこからトントン拍子に活動が続いています」

■里山は「自分の家みたいなところ」

東京里山開拓団は現在3つの児童養護施設と契約。これまで70回ほど里山開拓を実施。1回の参加者は6、7名で、のべ400人程の子どもたちが参加してきた。

子どもたちに「里山ってどんなところ?」と聞くと、「自分の家みたいなところ」「ありのままでいられるところ」という声が出てくるという。

「施設の子どもたちは、虐待や貧困など大変な状況に置かれたうえで、児童養護施設に来ています。だからこそ、その言葉は重い。東京里山開拓団の活動目標は、まさにありのままでいられて、家のような場をつくること。子どもたちの言葉に、私たちの団体の目指す姿があるんです」

里山の開拓を行っている子どもたちは、お互いに協力し合うなど、施設にいる時とは違った面を見せて、日常で接している施設の職員がその変化に驚くことも多いそうだ。

「愛情に飢えている子どももいるため、施設の中だと職員の目をいかに自分に集めるか競争になってしまうこともあります。しかし、里山に来ると周りの大人が対応し、自分を見てくれることもあって、安心してありのままの自分を出せるようです」

里山開拓は子どもたちだけではできないため、大人のボランティアメンバーも20人ほど加わっている。年齢層の平均は30代。子どもたちに親兄弟の世代とふれあってほしいという思いと、活動を継続してくれる後継者を育てたい意図もある。

東京里山開拓団は、活動内容が評価され、2019年に「第8回 健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働省子ども家庭局長賞を、2020年には「グッドライフアワード」環境大臣賞・最優秀賞を受賞。虐待や貧困などで苦しむ児童養護施設の子どもたちとともに、里山保全とふるさとづくりを一緒に進める新たな視点で、活動を継続していることも評価された。

■生きる力は子どもたちの中にある

東京里山開拓団が大切にしているのは「子どもたちと一緒にふるさとを作り上げること」だ。この方向性を見出すことができたのは、子どもたちの行動からだという。

「以前、クリスマスリースを作るイベントを行った時、反応があまり良くなくて。それで自由時間に子どもたちがやっていることを観察していたら、木の根っこや大きな石を掘り出しはじめたんです。掘り起こした時は本当に大喜びで。子どもたちが開拓そのものに楽しさを見出している姿を見て、大人が考えた下手な企画は必要ない。開拓作業をそのまますればいいと分かりました」

2008年に絵本作家のかこさとし氏(故人)から受け取った「よりたくましく、よりすこやかに」という言葉が運営方針になっている。

「以前、先生の講演会に参加したご縁から当団体立ち上げの構想をお伝えしたところ『非常にユニークかつ具体的な計画でよき成果が得られる事と存じます』との返信とともに、『よりたくましく、よりすこやかに』という言葉をいただき、とても共感しました。子どもたちの生きる力は、子どもたち自身の中に眠っている。私たち大人はそれを子どもたち自身に気づかせる、あるいは気づいてもらうきっかけを提供することが必要なのではないかと考え、活動の理念として掲げ続けてきました」

現在、全国にある児童養護施設は約600。荒れた山林は無数にある。堀崎さんは、活動の幅を広げていきたいと考える。
「現在、あきる野市の山林でも地主や関係者の協力を得て活動の準備をしています。同じ志を持つ方々と連携して、全国に荒れた山林の社会的活用を広げていけたらと思っています」

※写真は枯れ木で火をおこす子どもたち


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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。