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「現場は修羅場の始まりです」医師に聞く

2021年5月14日 11:26
「現場は修羅場の始まりです」医師に聞く

新型コロナウイルスの治療の最前線に立つ医師が、ひっ迫する現場を「修羅場」と表現したツイートが反響を呼んでいます。人が足りず疲弊や葛藤が続く現状などについて、その医師に聞きました。

■反響呼ぶ医師の「修羅場」ツイート

有働由美子キャスター
「『コロナ用重症ICUは全て埋まりました』『現場は修羅場の始まりです』というツイートがあります。これは、新型コロナウイルスの治療をずっと続けている医師が発信し、反響を呼んでいるものです。ツイートしている埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭教授に、話を伺います。病院内の治療の最前線の映像を提供してもらいました。何が起こっているのでしょうか?」

岡医師
「コロナ専用のICUの映像です。4つ部屋があり、医師が回診しているところですが、すべての部屋に患者さんが収容されています。全員、人工呼吸器につながっている状態で、最重症の患者さんのベッドがすべて埋まっています」

有働
「人は足りている状況ですか?」


「いや、重症患者さんにはスタッフがたくさん必要ですので、足りているということは決してないです。疲弊が大きいですね」 


■「N501Y」猛威 受け入れ断念も

有働
「ボードに『Full N501Y』と書かれていますが…」 

岡 
「今ICUに入っている4人の患者さん全員が、変異株のN501Yが陽性であると確認されてます」 

廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン(「news zero」パートナー)
「13日、私の仲間が家族でコロナにかかっていたと連絡が来ました。その仲間がもし病院に入れなかったらと考えると、とてもつらいですね」

有働
「岡先生の病院では、入れないということはありますか?」


「実は12日と13日で、重症(者用)のベッドにほぼゆとりがない状況になりました。13日は、40代の基礎疾患ほとんどない、中等症の患者さんの搬送要請がありましたが、苦渋の決断をしました」

「大学病院なので重症の患者さんを受け入れたい、他を探していただけないか、もし見つからない場合には(受け入れます)ということで、ご遠慮させていただきました。その時点で数件の病院に断られていましたが、その後の連絡はなかったので、幸いどこかに収容できたのではないかと思います。ですが、こういう事例がもう一般的に起こっているのではないかと思います」


■病床使用率 埼玉「26%」実態は…

有働
「政府が発表している最新の重症者用の確保病床の使用率を見ると、86%の大阪府などに比べて、病院のある埼玉県は26%(ともに12日時点)ということで、極めて高い数字というわけではないのですが、現場の実態を表しているのでしょうか?」


「私どものICUは先週の段階では1人の重症者しかいませんでした。それが週末、今週にかけて、すべてのベッドが埋まっています。つまり(使用率)25%が100%になっています。政府が発表している数字は会議資料ですので、現場の感覚とは少しタイムラグがあると思います。ですから感染の対策に関しては、最前線で実際に患者を診ている現場の医師の判断を、ぜひ聞いていただきたいなと思います」


■ベッド増でも「人が足らない」

有働
「現場で今、一番足りないものはなんですか?」


「ベッドも足りないし、お金はいろいろ支援いただいていますが、やっぱり人だと思います。この1年間で医療は評価されたのかというと、ベッドの数は増えても、それが実際に稼働するか非常に疑問ですね。飛行機で例えると、飛行機を提供しても、そこにパイロットがいなければ飛びませんよね。ベッドを増やしても、医療従事者の数が変わらなければ、稼働させることができません。まさにそういう状況です。人が足らないということです」

有働
「イギリス型の変異ウイルスについて、重症化リスクは従来型と比べて1.4倍の可能性があるということですが、これは現場でも感じていますか?」


「論文報告などでも、まず感染力は強くなっている。そして重症化のリスクも、おそらく高くなっているだろう、というのがイギリス型です。ただ現場で診療していると重症化のリスクが実感として高くなっているかは、微妙なところです。一方で確実に感じるのは、基礎疾患が軽度もしくはあまりない、若い30~40代でも重症化して入院することが、それほど珍しくない状況になっています」


■尾身会長「3つのリスク評価」

有働
「医療現場の状況ともかかわってくるのがオリンピックです。13日、政府分科会の尾身会長は開催を最終判断する前に必要なことを指摘しました」

小栗泉・日本テレビ解説委員
「尾身会長は13日に国会で、医療のひっ迫を抑えるために必要なのは、3つのリスク評価だと述べました」

1)選手だけでなく、選手以外の大会関係者の感染リスク
2)会場内だけでなく、開催に伴う人の流れの増加などに伴う感染リスク
3)大会期間中の医療への負荷


有働
「これも本当にしっかりクリアしてもらわないと困ることですよね」

小栗
「本当にそうですね。ある自民党の議員からも、『開催ありきでやっているから、リスク評価をちゃんとしていない』という不満が聞かれました。政府関係者からは、『尾身会長の発言を最近、政府がコントロールできなくなりかけているが、リスク評価についてはすり合わせて発言している』という見方も示されました」

「一方、加藤官房長官は13日午後の会見で、リスク回避について『どういう措置を講じていくか、さらに検討して、その内容を国民にお知らせしていく』とだけ述べ、リスク評価そのものについては明言を避けました」


■五輪パラ開催の「条件」とは

有働
「オリンピックについてはどうお考えですか?」

岡医師
「完全に私見ですが、医療従事者の立場からすると、感染流行が抑えられない状況での開催は極めて難しいのではないかと考えています」

「やはり今、現場で医療が十分に提供できない状況になっています。選手がケガをする、感染を起こす、そういった時に十分なケアができない可能性があります。あるいは、できたとしても、その歪みが影響して国民への医療提供が十分にされない危険性がある。医療のひっ迫が解除されてから、開催にこぎ着けなければ、本当の意味での安心安全の大会にならないんじゃないかと、私は思います」 

廣瀬
「今後に向けて、医療現場としてはワクチン接種への期待は大きいですか?」

岡医師
「ワクチンは非常に有効な手段だと思います。感染を抑える効果が非常に高いことが分かっていますし、重症化・死亡を減らす効果も確実にあることが分かっています。ただ、免疫がついてワクチンの効果が出てくるまでには、2回の接種で5週間かかるので、今回の流行を抑えるということに関しては、残念ながら間に合わないです」

「今回の流行は、今までの感染対策をしっかり、より強化して取っていただいて、各自が感染しないようにしていただきたいです。ただワクチンを接種する機会がありましたら、ぜひ前向きに、皆さん接種していただきたい。私はもう接種が終わっています」

(5月13日『news zero』より)